下書きのルーズリーフはもうちょいで200枚に達する辺り、これからも宜しくお願い致します。
NBと同様に一路にもよく理解出来ていなかった。
よく解らないが、何かが弾丸のように物の見事に鳩尾の辺りに突っ込んで来て、ゴロゴロ、ドカーン。
ここまでは理解出来た。
よけられなかったのは、相手が本当に速かったのと、敵意・殺意、そういった類いのモノを一切感じなかったからだ。
故に不意打ちで、そして何故だかその結果が女性に馬乗りになられている。
(だ、誰か説明して・・・。)
「わ、私、興奮してますっ!は、は、初めてです!初対面で私と魎呼さんを間違えなかった人はーッ!!!」
涙目の女性が、一路の手を両手でぐっと握り締めながら叫んでいる。
(ん?)
魎呼と同じ顔。
その顔で半泣きになられると非常に居心地が悪いのだが、魎呼でない事の裏は今の発言で取れた。
そして一路は首を傾げ、気がついた。
彼女自身、"一度も自分が魎呼であると名乗っていない"という事に。
「あれ?」
艦内の人間は、彼女の言動で海賊と認識し、顔を見て確信して海賊の魎呼と言った。
一路もそれを受け、彼女の顔を見てから魎呼の名を騙る海賊だと認識して憤った。
だが、確かに彼女はここまで一度も自分が魎呼だと名乗っていない。
しかも、だ。
海賊だとも言っていない。
(えぇと、これは・・・。)
ようやく冷静になれた。
彼女だって魎呼の偽物だと一路が叫んだ時、一度も"肯定も否定もしていない"と。
それが結論。
だとすると・・・。
「ごめんなさい!僕、勘違いしてて!」
これはこれは大変失礼な事をしでかしてしまったのでは?と、汗が吹き出てくる。
「あ、でも、貴女がいきなり攻撃してくるから・・・。」
と、言ってはみたが、実際に攻撃されたのはGP艦ではなく海賊艦のみである。
そして彼女の要求は、海賊の積み荷のみで、GP艦の荷は求めていなかった。
つまり、それはただ海賊の上前をはねているだけで・・・。
「・・・貴方、ええと、檜山さんでした、面白い方ですね。すみません、私も取り乱してしまって。」
一路の言葉にきょとんとした後、その女性はゆっくりと一路の上から降りる。
ぱんぱんと身体の埃を払い、仕切り直して一路に微笑む。
「私、ミナギと申します。巫女の巫に、草を薙ぐの"巫薙"です。」
あ、これはこれはご丁寧に。
そう返してもおかしくないぐらい丁寧に自己紹介をされてしまう。
「遺伝子上ですが、魎呼さんの妹という事になります・・・か。」
「妹?!」
納得。
これ程の納得の仕方があるであろうか、いやない。
そういう意味でのすっとんきょうな驚きの声を上げる。
魎呼の家族構成を確かに聞いた事はないのだし、姉妹がいても変ではない。
「一応そういう事になるのですが・・・あ、どうぞ。」
巫薙も巫薙で口ごもったまま、一路を起こす為に手を差し出す。
「あ、すみません。」
彼女の手を取り、身体を起こしながら一路は心の中でほら、やっぱりと思う。
「先程から微妙な反応ばかりな気がしますが、何故でしょうか?」
「だって、どう見ても魎呼さんに似てないから・・・。」
「は?似てない・・・ですか?」
今度は、巫薙がすっとんきょうな声を上げる番だった。
「似ていると言われる事は毎度の事ですが、似ていないというのは・・・何やら新鮮です。」
魎呼と実際に目の前で比べられて似ていると言われる事も多々あるが、初見で魎呼ではないと断言され、似ていないと言われた事は初めてだ。
「う~ん・・・言葉遣いが違うのは当然なんだけど・・・。」
さて、どう表現すればいいのだろうかと、しばし思案して・・・。
「巫薙さんの方が、多分、器用でおっとりしてて・・・少し、寂しそう。」
船の中で一路が持った印象。
それはこの船の主である彼女の印象のそれなのではないだろうか・・・ふと、そんな気がした。
「二人共、優しくて美人なのは似ているけど。あと、きっとどちらかというと魎呼さんの方が乙女ちっく・・・なのは、天地さんがいるからなんだろうけど。」
良くも悪くも、魎呼の世界は天地と自分を中心に回っているんだと一路は思う。
特段それが悪いという事ではないが、それだけ純粋に誰かを好きになれるのは、羨ましくもある。
「成程。・・・一路さんには明確に私と魎呼さんとの違いが見えているのですね。寂しそう・・・ですか・・・。」
一瞬、巫薙の目が陰る。
(あ・・・。)
似たような光景を一路は地球で見た事があると、すぐさま思い出した。
それは何時だったかも鮮明に思い返せる。
夜の帰り道。
魎呼が一路に尋ねた時だ。
"母親を亡くすのは辛いか?"
そう聞かれた時の。
魎呼のあの瞳だ。
彼女ももしかしたら、そういう類の心の傷を負った者を見た事があるのかも知れない。
或いは・・・大切な人を亡くすような・・・。
「ごめんなさい。」
ぽつりと謝罪の言葉が口に出る。
「え?」
「巫薙さんを傷つけるつもりは無かったんです。」
一番最初に怒鳴りつけた時点から間違っていたのだから、これは始末が悪い。
だからといって、謝罪しないのはもっとタチが悪い。
そんな一路の逡巡を見てとったのか、巫薙はくすりと微笑む。
「本当に面白い方ですね、"一路さん"は。あ、これは悪い意味じゃないですよ?好感が持てるという事です。」
(うわぁ・・・。)
満面の笑みを向ける巫薙に、一路は心の中で声を上げる。
言葉遣いも性格も違う別人だと認識していても、やはり魎呼と同じ顔の造りの巫薙のこの笑顔はクるものがある。
「では、互いに自己紹介が終わったところで立ち話もなんですし、こちらへ。」
そう促されてしまうと、何も考えず反射的に従ってしまいそうになる。
「?どうしました?」
「いや、その顔でそんな優しく言われると・・・。」
「と?」
「何か・・・ズルい・・・です。」
半分拗ねたような一路の言葉を聞くと、巫薙は益々楽しそうに微笑む。
「この顔なのも悪くないと、今、ちょっとだけ思いました。」