真・天地無用!~縁~   作:鵜飼 ひよこ。

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第101縁:もう1人の姉。

 非常に淑女的。

自分に差し出されたカップに口をつけて、あらためて一路が持った感想がこれだ。

ちなみに中身は緑茶である。

 

「一番聞きたかった点は既に聞いてしまったのですが・・・。」

 

 一息ついてから、そう前置きをして。

 

「また新たな疑問が一つ。」

 

「あ、はい。答えられる事なら。」

 

「今までの流れからすると、一路さんは地球のご出身。という事は正木村からいらした事になりますが・・・?」

 

 正木の村に住んでいる者達は大抵は樹雷の末で、成人を迎えるとこのまま地球で暮らすか、宇宙へ出るかのどちらかを選択する。

それが成人の儀式みたいなものだ。

例外は、自分がその末孫にあたると聞かされず、自覚もない者達だけ。

 

「いえ、違います。」

 

 一路は彼女が聞きたい事をなんとなく察して答える。

理由は一路がGP隊員の中にいたからだ。

現状は、地球から出て来た者は、必ず樹雷かGPのどちらかの所属になるしかない。

なかには研究専門の機関に入る者もいるが、GP隊員で樹雷出身は珍しい。

自国の軍に入る者が大半だからだ。

勿論、何の後ろ盾もない者はGPに入る事もありえるのだが・・・。

そんな事を一路が知らなかったとしても、所属と出身に関する疑問が巫薙に生じるのは当然の話だ。

 

「僕は、他の皆とは違う理由と目的で宇宙に上がりました。」

 

 柾木家の人々を知っている彼女ならば、正直に話したとしても問題ない。

そう考えて答えた一路に対して、一瞬だけ逡巡した巫薙は彼をじっと見つめる。

 

「・・・お聞きしても?」

 

 嫌ならばこれ以上話さなくともいい。

そんな逃げ道を一路に残して巫薙は問いかける。

彼女の分かりやすい優しさを一路は感じていた。

 

「そんな深い理由じゃないんですけど・・・。」

 

 ごちゃごちゃとコンソールが配置されたGP艦とは違った閑散としたブリッジ。

そこから眺める事の出来る暗黒の宇宙空間を眺めながら、これまであった事を一路は淡々と話しだす。

時折、巫薙が『はぅっ。』とか『それはそれは。』とか、そんな相槌を打ちながら。

巫薙に一通り話し終えた時には、一路自身の方がすっきりしていた。

今まで誰にも喋る事が出来なかったのに、NBに続いて話す事が出来たからだ。

その間中も、NBはといえば何処か呆れたような表情をしていたが。

 話し終えても、巫薙は無言のまま何かを考える様に俯いている。

 

「あ、でも、全部が僕の我が儘なんですよね。向こうは僕になんて会いたくもないかも知れない。一緒に来たくないかも知れないし。でも、"ああいう事"を彼女にさせる集団には、絶対に彼女をおいておけない。何があっても。」

 

 無言のままの巫薙の態度に耐え切れず、矢継ぎ早に言葉を続けてしまう。

灯華に拒絶されたっていい、構いはしない。

どうせ一度死んだ身だ、後悔ないように生きて何が悪い。

半ば開き直りの現状。

 

「あの・・・巫薙・・・さん?」

 

「ステキですっ!!」

 

「はぃ?」

 

 面を突然上げた巫薙は、物凄い速さでぎゅっと一路の両手を握ると、ずずずぃっと顔を近づけてくる。

どちらかがあとちょっと顔を動かせば、どうにかなってしまうような近さだ。

 

「何と素晴らしい友情!愛!かつてこれ程までの純愛体験記を聞いた事はありません!拝読させて頂いた阿重霞さん秘蔵のコ〇ルト文庫も真っ青です!」

 

 何やら局所的にマニアックなブームが彼女に来ているような・・・。

 

「どうでもえぇ情報やな。」

 

 終始黙っていたNBも思わず突っ込んでしまう情報だ。

 

「そう!まさにこれはピンクコバ〇トに匹敵します!いや、それ以上。折原〇ともメじゃありません。」

 

 益々どうでもいい情報だ。

しかも、その色のコバル〇文庫なんて、何時の時代の話しだ。

90年代か!昭和か!

 

「はぁ。」

 

「及ばずながら、私も協力させていただきます。いや、是非させてください!」

 

「あ、えと・・・。」

 

 勢いよくそう言われてしまうと、答えに窮してしまう。

 

「まぁ、えぇんちゃうか?GPの人間には頼れんし、かと言って樹雷に行くのもまっぴらやし?」

 

「NB?」

 

 一路の言葉に答える事なく、NBはカシャカシャと音をならしながら巫薙に近づく。

 

「巫薙はん、ちょっとコレを調べてくれんかいな。」

 

 そう言うと口の中から平たい板を取り出す。

厚さ1mm程度、長さ5cm程度で、先端が三角に尖っている物体。

 

「これは・・・情報素子ですか?」

 

「ワシが調べた情報が入っとる。そん中にある組織のどれかに坊のお姫さんがおる可能性が高い。それを特定して欲しい・・・で、えぇな?坊?」

 

 ここでようやく一路の許可を求める辺りが小憎たらしい。

 

「でも、それじゃあ巫薙さんが危険なんじゃ・・・。」

 

 これは自分の我が儘、目的の為に周りを巻き込みたくはないというスタンスを取っている一路のそれに反する。

第一、それがこの事を周囲に話さない、話せない原因の一つでもあるのだ。

 

「やっぱり優しい方ですね、一路さんは。私なら大丈夫です。"見た通りの外見"ですし、これでも剣術だけなら、魎呼さんより上、樹雷の上級闘士以上のレベルなんですから。」

 

 ニッコリと自慢げに笑う巫薙の言葉にピクリと一路が反応する。

 

「坊、稽古をつけてもらうとかいう暇はないで?最近、目的そっちのけで稽古馬鹿になってへんか?」

 

 ギクッ。

NBの一言に一路は身を震わせる。

巫薙の言葉が本当ならば、彼女は静竜レベルの実力の持ち主で、しかも静竜の樹雷の剣術とはまた違った(と、一路は勝手に思い込んでいるが、実は同じ)戦い方を学べるかも知れないのだ。

惹かれないわけがない。

実際、NB言う通り稽古馬鹿に見えるのだが、宇宙に出て何も知らなかった、それこそヒヨコ並みの自分が出来る事が増えた。

その事が一路にとっては楽しくて仕方がないのだ。

 

「では、それはまたいずれ、という事で。」

 

 NBの一路のやり取りを見ていた巫薙は面白くてしょうがないという体で、口元に手をあて笑みを堪えながら告げる。

 

「ほな、ワシの連絡先を教えるさかい。」

 

「えぇ。さしずめ私はピンチの時の"騎兵隊"というポジションですね。頑張ります。」

 

 それじゃあ、西部劇だ。

少女文学でも、ロマンス文学でもなんでもない。

そう思いながらも、一路は巫薙に頭を下げて頼むのだった。

 

 


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