「やっぱり天候調整があると外出の時に便利だね。」
擬似的な青空を見上げながら一路は笑う。
ナノマシンを用いて、大気の調節は自動で行われる。
天候操作もちょちょいのちょいだ。
勿論、降雨も必要なので(場合と所によっては雪も)その場合は事前の告知がされる。
よって、天気予報という、地球では曖昧なものは存在しない。
「何で、私がこんな・・・。」
そんな一路の横で、シアがぶつぶつと呟く。
納得がいかないとばかりに不満を述べるシアだが、その割にはクリーム色のワンピースに翠色のネックレス、小さな肩掛けのポーチ、そしてワンピースとお揃いの編み込みが入った紐のサンダル。
普段着と違った、いわゆるバッチリお出かけ着だ。
「その服、似合ってるよ。可愛いね。」
「ばっ?!バッカじゃないバッカじゃないバッカじゃない!」
一路のふいの褒め言葉にまたまた赤面する。
「だから、3回も言わないでよ。本当に馬鹿なんじゃないかってヘコむから。」
と、ここまでは普段通りに近いやりとりだ。
「・・・それで?一体何処に行こうっていうのよ?」
デートという言葉に大混乱したまま、今の時間と自分の中で出来うる限りのオシャレをして、一路と外出・・・まではいいが、何故こんな事になったのか、シア自身未だに理解出来ないでいた。
そもそも、一路が何故デートを自分としようと思ったのか、それすら解らない。
自分とデートだなんて、どう考えても面白くないに決まっている。
「・・・何処に行こうか?」
「はぁっ?!」
デート言ったまでは良かったが、一路としてもほぼノープランだった。
昼食とか、お茶とかのお店をいくつか考えているくらいである。
「今、また僕を馬鹿なんじゃないかとか思ってる目だよね、ソレ。」
「解ってるじゃない。」
「・・・それは褒めてるの?それとも貶して・・・るんだよね、やっぱ。仕方ないじゃないか、僕だって女性とデートなんて初めてなんだから。」
では何故、そんな無謀というべき初デートをノープランで行おうと至ったのか。
それは"時間が限られている"からに他ならない。
NBが言ったおよそ二週間。
それが一路に与えられたここでの生活の残り時間だ。
その後の予定は何一つ立っていない。
地球に戻るのか、一旦こちらに戻ってくるのか。
なるべくなら、最終的には地球に戻ってこようとは思うが、そのまま地球に直行となった場合、気にかかる事が幾つかある。
その最たるものが、シアとの約束だ。
いつかは、自分の故郷に行ってみようという。
「そんなの・・・こっちだって初めてよ・・・。」
一路の初めてのデート相手が自分。
そんな事を聞いて、シアは申し訳なくなってくる。
気の利いた話題も振れない、引きこもり気味で、こんなちんちくりんで可愛気のない(自分にだってその自覚はある)自分と人生初のデートだなんて・・・。
「まだお昼まで時間あるし・・・あ、そこでお茶でもしようか。」
「ちょ、ちょっと!」
俯きがちになるシアの手を強引に掴んで、色とりどりのパラソルが立つオープンカフェに突入する。
「何飲もうか?あ、僕、この前の研修の手当が出たからお金出すよ。」
「何って言われても・・・そっちと同じでいい。席取っておくから。」
強引な一路に少々の驚きと呆れをもって、シアはすごすごと空いている席を探しに行く。
(色々と突っ込みどころが多過ぎるのよ。)
全くもってその通りで。けれど何時になく無いパターンの外出が楽しいのは、気のせいではないだろう。
昼前という半端な時間なせいか、そんなに混雑してなく、程なく空席を見つけられたシアは、ため息と共に席につく。
「一体、これからどうなるってのよ・・・。」
男女間で行うデートというものの定義は、知識として理解していても、その中身の詳細や流れはよく解らない。
出来ることならば、これ以上驚く事がないと良いなと思う。
それと余り自分を"必要以上に連れ回す"のも。
「あれ?確かいっちーといた・・・。」
「?」
席についてしばらく、背後から声をかけられた。
知り合いという知り合いは、ほとんどいないシアだが、一路の名を出されれば反応せざるを得なかった。
「あ・・・。」
恐る恐る声をかけられた方に振り向くと、2人の女性が立っている。
知り合いのいないシアだったが、2人の顔には見覚えがあった。
確か、一路が怪我をした時に見舞いに来ていた・・・名前は・・・思い出せない。
「あぁ、やっぱりそうだ。」
髪の長いお嬢様然とした女性と、活発的な雰囲気のある女性。
「アナタもここでお茶?良かったら私達と一緒に・・・?」
相手の言葉がそこでふいに途切れる。
「シアさんお待たせ。まさかここにもあると思わなかったよ、タピオカ・・・?」
シアを挟んで向かい合った女性と一路が固まる。
「いっちー?」
「エマリーとあーちゃん?」