「人間なんてね、生きてりゃ欲の1つや2つや3つや4つあるもんなの!」
シアに引きずられて行った一路はというと、道端で説教されていた。
その勢いがあまりにも凄過ぎて、4つは多いんじゃないか?という突っ込みは不可能なくらい。
「一級刑事になりたい?刑事になる以上、目標にすべきことでおかしな事じゃない。GP隊員?アカデミーに入るんだからなってとーぜんよ!」
かくしたてるシアをよそに、一路は呆けたままその話を聞くままだ。
どちらかというと、何故に自分の事でシアにこんなトコで怒られているのだろう?レベル。
「誰だって何かしらの望みを持ってここに来ているの。いい?それをイチイチ言って自分を卑下する必要なんて何処にもないの!解った?」
「え、でも・・・。」
「わ・か・っ・たっ・?」
ギロリと睨みつけられた一路は、蛇に睨まれた蛙になるしかない。
コクコクと頷く様は、どこかが壊れた人形のようだ。
「返事は?」
「わ、解った。」
「よろしい。あーか、誰かさんのせいで、お茶の時間が台無しだわ。」
全く以てシアの言う通りで、しかもその後のフォローすら出来ない自分が悪い。
ぐうの音も出ない。
「デートって意外と奥深いんだね。」
二人で何処かに出かければいいやくらいにしか思っていなかった一路としては、頭を抱えて大いに悩むところだ。
「そうよ、難しいんだからね。ちゃんと私をもてなしなさい。この辺は・・・そうね、"次のデート"の課題ね?」
「次の・・・。」
果たして、それがあるのかどうか。
きっと何となくシアは気づいていたのだろう。
だから、先程の一路の発言で確信を得つつある。
解っていてそう言っているのだ。
だから・・・。
「そうだね、勉強しておく。」
「よろしい。で、これからどうするの?」
はい、ノープランである。
「ん~、予定通りにお昼を食べに行こうよ。」
「予定通り、ね。そこだけは何かアテがあるって事ね?」
ノープランは元より、図星に図星を突かれまくっては、最早取り繕う意味もない。
「うん。鷲羽の毛穴って知ってる?それを眺められるお店なんだ。」
「え?」
途端、シアの顔が強張る。
少し寂しそうで、そして申し訳なさそうな表情。
「どうかした?あ、行った事があるとか?」
それだとかなりインパクトが低くなってしまう。
サプライズ感もゼロだ。
しかし、料理自体は美味しいし、それだけでも楽しめるはずだと前向きに考え直す。
「行った事はないわ。というか・・・私、そこには"行けない"。」
行かないではなく、行けない。
「行けない・・・?!」
そう呟いた瞬間、一路は自分たちを見つめる多数の視線を感じ取る。
いや、感じ"させられて"いた。
「その場所は、私の"行動範囲制限の外"なの。」
制限。
それが彼女の心を痛める足枷。
「そうか・・・。」
『誰だって何かしらの望みを持ってここに来ているの。』
その一言で一路は悟る。
『とりあえず、シアさん?僕と友達になろう?』
だからあの時、約束をしたんだと。
『今度、一緒に旅行に行こうよ。』
『・・・絶対だからね。』
"彼女を外の世界に連れ出す"という約束を。