『私は、ここから出られない・・・。』
ふざけた話だと思った。
それでも約束をした。
『大丈夫、ほら、その辺で食べても構わないし。』
構わないわけがない。
ないわけがないんだと自分の心が叫んでいる。
何処でお昼を食べるとか、そういう問題の話ではない。
根本的に違うんだと。
一路は宇宙に出て、ここに来て、素晴らしいモノに沢山出会えた。
きっと地球にいては味わえないモノだっただろう。
『そういう事じゃないんだ。』
人との出逢いは素晴らしいモノの一つでもあったが、そうでないモノもあった。
雨木 左京のような、少なくともワウ人であるプーを見下すような視線は、日々の生活の中で多々感じていた。
照輝も本来の姿を晒すのは控えているという。
そこには少なからず人種の壁が存在していた。
宇宙に出て海賊にも会った。
彼等は人を殺める事が自分の利益に合致しているなら、躊躇いはなかっただろう。
自分の目の前に何処までも広がり続ける空間。
そこにある未知。
そしてこんなにも進んだ技術を持っているのにも関わらず、蓋を開けてみれば地球で見た、聞いた様な問題が顔を出す。
素晴らしいと感じる事が多い分、それは目立つ。
『シアさん、ごめん。』
では、自分はそれに必ずしも従わねばならないのか?
いや、郷に入れば郷に従えという言葉がるけれども・・・。
『いいよ、ごめんね。』
何故、彼女が謝らねばならないのだろう?
これから一生、彼女はその鳥籠のようなルールの中にいなけらばならないのか?
大体、そんなルール、大人が勝手に決めた事だ。
好き好んでシアだって従っているわけじゃない、シアには関係ない事だ。
プーの生まれだって関係ない。
照輝の姿形も関係ない。
友達になるのに、そんなの全く必要じゃない。
一路の中で何かが理不尽と感じ、何かがキレる音がする。
『目、閉じてて。』
足に力が入る。
何かが心を刺激して、心が背中を押す。
もし、ここに鷲羽が、魎呼が、柾木家の面々がいたら呆れるだろうか?
それとも仕方ないなと笑ってくれるだろうか?
多分、ノイケと勝仁からは説教されるだろうなと思う。
『え?きゃっ?!』
短い悲鳴を上げたシアを抱きかかえると、一路は地面を蹴っていた。
後先の事なんて考えなかった。
そんなのはその時に考えようと切って捨てた。
大体、ノイケの説教以上に怖いモノなんか、そうはない。
そう考えてみると笑みすらこぼれておた。
「料理を食べたら、すぐ戻るコト。」
転がり込むようにナーシスに入った二人を微笑みで迎えたアイリが告げた事はそれだけだった。
いや、料理を食べる二人にもう一つ告げた事がある。
「檜山クンは、彼女の事情を知らなかった。初デートに浮かれて、イチャコラしたくなって、リビドーが暴走しちゃったってワケ、OK?」
どんな暴走だよ!と突っ込みたくはなったが、理事長がそう取り計らってくれるというのだから、そこは黙っておくことにした。
本当はシアの事を突っ込んで聞きたくもあったが、きっと何も答えてはくれないだろう。
「いやぁ、私もまさか、理事長と料理人とを秤にかけられるとは思ってもみなかったわ。こりゃ、参ったわね。」
それで今回の場合は料理人を取ったというのだから、それはどうなのだろう?
「美味しい・・・。」
「でしょう?」
照れながら一路に向かって呟くシアに答えながら一路は笑う。
その様子を見ていたアイリもうんうんと頷いている。
(やっぱり、誰かと一緒の食事っていいよな。)
改めて思う一路だった。
ちなみに、帰宅したシアにリーエルは一言、『楽しかったでしょう、初デート♪』そう聞いただけだったという。
それに対してシアがどう答えたかは、言うまでもない。