という事で2話分近い量でお願いします。
「珍しいでゴザるな。」
「え?」
照輝からかけられた言葉に、一瞬自分の事を言っているのを解らなかった一路は首を傾げる。
「さっきの授業さ。いつもより集中していないように見えたよ?」
NBに別れの刻限を突きつけられてから一晩、今は当面の授業が終わり休み時間だ。
「そう?」
「自分で気づいてないでゴザるか?だとしたら重症でゴザるな。」
気づいていないわけがなかった。
今も気もそぞろで彼等の声を聞いている状態なのだ。
自覚はある。
あれからずぅっと考えている事がある・・・といっても、新生活を始めてからここまでずっと考えづくめであるのだが。
『あんな坊、坊も知ってる通り、最近海賊は数を減らしとる。けどな、戦力の落ちた海賊は、互いに喰い合って淘汰されとるんや。』
あの後、唐突に海賊の話をしだしたNBに一路はすぐに気づいた。
彼女は、灯華は海賊組織の中にいるのだと。
『規模を減らしたとしても、元々あった大きなギルドの分派や。何つーかな、後継者ってのがおってな?海賊ってもんは元から何時死ぬか解らんから、何処ぞの皇族より細かい継承順位があるんや。だからな、坊・・・。』
『行くよ。』
これ以上の説明はいらなかった。
それがどんなに危険で、一路の身の安全をNBが心配しての発言だとしても。
『僕は行く。その為にここまで来たんだから。』
そう言ってNBに向けて笑った、笑えた。
笑えるのだから、自分は大丈夫。
そう確信する。
『しゃあないな。主人が行くっつーとるんやから、ワシも腹括るか。なら、坊、どうにかして宇宙船を手に入れるんや。成功する確率は・・・まぁ、色々込みで高いのは3番ドックの参拾弐番艦やな。』
灯華に会いに行く為に必要なモノ。
これがなければ始まらないのだが・・・生憎一路には全くアテがない。
どうしたものかと一晩中考えての結果、未だに妙案が浮かんでこない。
(こういうのもNBがハッキングで何とか出来ないのかなぁ。)
今まであれだけ犯罪だの何だの言っていたのに、このザマである。
事実、宇宙船を拝借する(と、精神衛生上そう考える事にした)として、既に犯罪なのだから、この辺、緩くなっても構わないのだが。
「でね、いっちー?」
「え?あ、うん。」
「聞いてなかったね?」
「そんな事は・・・。」
モロバレである。
これでは先が思いやられるなぁと頭を掻くしかない。
「いっちーは顔に出やすいでゴザるな。」
「ごめん。」
「まぁ、いいよ。僕達にね、研修結果の内示が出たんだ。」
以前の研修結果と本人の希望を踏まえての内示は順次、個別に送られてくる。
ここで一つの挫折を迎える者もいるのだが・・・。
「僕も照輝も希望通り、刑事課になったよ。」
「えっ?!本当!?二人共、おめでとう!」
二人が希望通りの進路に行けるというのは、一路にとっても嬉しい事だ。
ただ、その時を一緒に迎えられぬのが残念な事だったけれど。
「ありがとうでゴザる。ただ・・・。」
「ん?」
照輝の眉がハの字に下がり、困惑しているようにも見える。
「例の樹雷の坊ちゃんが一緒なのは、どうにもいやはやでゴザるなぁと。」
ぺしぺしと額を叩いて苦笑する。
どうやら、左京も花形の刑事課という事らしい。
流石にあれだけの悶着を自分絡みで起こしておいて、仲良くしろとは一路には言えなかった。
「ま、最初は衛星監視員・・・駐在勤務だろうけどね。そういえば、今日の授業、左京のヤツいなかったよね?」
「そうでゴザったか?」
「照輝は細かい事を気にしなさ過ぎ。」
何かと警戒心の強いプーに比べて照輝は、どうでも良いモノはとことん脳みそから溢れ落ちていくタイプだ。
「それはプーの領分で、拙者は脳筋枠でゴザるからなぁ。適材適所でゴザるよ。」
「まだそれ気にしてたの?どうやらヤツは実家に戻ってるらしいんだけど、この時期にアカデミーを抜けるなんて珍しい事だよね。」
「こちらに何かしてこないというのなら、どうでもいいでゴザるよ。」
それもその通りなのだが、そもそも左京は一路に絡んで来るパターンが確率として一番高い。
一路としては、自分がここから出て行けば、それ程問題ない気がしていた。
それに自分の内示は刑事課ではなかったし、その頃にはGPにもいない。
「僕も大丈夫だと思うな。」
結論づけるとこうなのだが、一路にそんな考えがあるとは思わないプーは肩を竦める。
「いっちーまで・・・。」
呆れられてしまった事を苦笑で一路は返す。
あぁ、やっぱり楽しかったな、と思いながら。
限られた三人の時間を噛みしめながら歩く。
「おっと。」
談笑しながら歩いていると、廊下の角で誰かとぶつかってしまった。
思った以上に自分の注意力は、思考と談笑に割かれていたらしい。
「オマエ達!横一列に並んで歩くな!通路を塞いではいかん!」
「ゲ。」
「天南先生。」
揺れるピンク頭が視線を引く、
時にアレだが、今回は割とマトモに先生らしい事を言っている。
「すみません。」
「反省してます。」
「面目ない。」
至極真っ当な注意なので、一路達も謝るしかなかった。
というより、これは謝るべきである。
「うむ。解かればよろしい。」
両腕を組んで尊大に言ってのける静竜のその姿はなんとも言えずアレである。
「ところで先生は何故こんな所に?今日の先生の授業は終わりましたよね?」
「そうだな。よくぞ聞いてくれた!実はな・・・。」
勿体ぶったタメを無駄に作る時点で、もうメンドくさい。
「実は?」
だがここで邪険に扱っても、話は進まないし変に怒りを買っても更に面倒。
それが天南 静竜。
話に乗ってやるしかない。
「実はな、ドックの管理キーを何処かに落としてしまってなっ!」
はっはっはっ!と高らかに笑いが響く。
(馬鹿だ・・・。)
(馬鹿でゴザるな。)
「えぇっ?!大変じゃないですかっ!」
三人の中で一路だけが声を上げた事に、プーも照輝も温かい目を向ける。
その中身は、静竜の話に乗ってあげるなんて、なんとイイヤツなんだという視線だ。
「そうなのだ!」
通常、ドックのキーは生体認証なので、管理キーを持ち歩く事はない。
そういった理由で、失くなったとしても開けられなくてすぐさま困るというものでもないが、問題がないわけでは勿論ない。
特に静竜の責任問題になる。
「僕達も探さないと!」
社交辞令でなく、本心から本気でそう思って述べているだろう一路に、うんざりしながら、まぁ、そうなるだろうなと諦めにも似た苦笑をプーと照輝がしたのは言うまでもない。
「オマエの申し出はひっじょーにありがたい。だが、学生の本分は勉学である。」
一体、今日の静竜はどうしたのだろう?
これは本物か?中に誰か別人が入っていないだろうか?
そう誰もが思えるくらい、マトモな事を連発している。
「こんな事に時間を割くならば、寮に戻って勉学に励め。もしキーを見つけるような事があったら、私に報告するか、元の場所に戻しておいてくれれば構わん。」
三人の予想をことごとく裏切る静竜はプーと照輝の肩を叩く。
「オマエ達は刑事課に配属だったな。すぐさま最前線というわけにはいかぬだろうが、しっかり学んで来い。」
「あ、はい。」
「どうもでゴザる。」
そして次に一路の胸をとんとんと叩く。
「え?」
違和感。
いつもの精神的なものではない、物理的なものだ。
胸を叩かれた辺り、正確には制服の胸ポケットの・・・。
「そして、なりたい自分を見つけて、なりたい自分になって帰って来い。」
四角い感触が一路の胸ポケットの中にある。
(これって・・・。)
「どんなになっても、オマエ達は私の生徒だ。あぁ、ちなみに私が落としたキーは、"3番ドックのキー"だからな。」
そう言うと静竜はスタスタと去って行ってしまった。
「・・・つまり、これからどんなに活躍しても、拙者達は天南先生の生徒で身内という事でゴザるか?」
何とも複雑そうな悲鳴を上げる。
「あれって、逆に遠回しでキーを探せって言ってるつもりなんだろうか?」
こちらも複雑そうに声を上げるプー。
「どうでゴザろう?とにかく寮に帰っても問題はなさそうではあるでゴザるな。いっちーはどう思うでゴザる?」
「・・・・・・。」
胸元をぎゅっと握ったままの一路は、照輝の言葉に答えられなかった。
「いっちー?」
「え?あ、うん、大丈夫じゃないかな?一応は戻ってもいい、探さなくてもいいって言ってたから。」
今はそれよりも自分の胸ポケットの中身が気になる。
これが静竜の言っていた通りのものならば・・・。
様々な疑問が頭の中を過る。
何故知っているのか?とか、どうしてくれるのか?とか、そういう事を。
それとも罠か何かなのか・・・。
いや、静竜に限ってそれはないだろう。
それに彼は『なりたい自分を見つけて、なりたい自分になって帰って来い。』と言ったのだ。
一路が今、成したい事は・・・。
「いっちー、大丈夫?」
「今日のいっちーはポンコツ気味でゴザるから、やはり早く帰った方がいいでゴザるな。」
ともかく、これで時機を得た事になる。
天南の血が暴走しなきゃ、ちゃんと真面目な先生なんですってば、エリートなんですってば!