真・天地無用!~縁~   作:鵜飼 ひよこ。

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第116縁:今、行くべき場所へ。

「何でこんな事になったんだろう・・・。」

 

 もとより悲壮感などというモノは無かったが、それなりの・・・一路にとってはNBと、1人と1体の孤独な戦いだと思っていた。

そういう覚悟はついていたし、少なくとも嫁だの何だのという単語が出てくるような要素は何処にもなかったはずだ。

それだけは断言出来る。

 

「でもな、坊。坊かて16にはなっとんのやろ?一応は成人や。そういうのを頭の中で考えてもえぇトシではあるんやで?」

 

 当たり前の事で、特に珍しがる事でもないとNBは言う。

 

「僕の故郷では違います。成人はハタチからです。」

 

 NBのそういうところが無神経なんだよと、1人でぷんすかする一路。

 

 

「・・・四年後。」

 

 ポツリとアウラが呟く。

何が四年後なのかは言わずもがなである。

 

「えぇと、あーちゃん?」

 

「冗談。」

 

 果たして本当に冗談なのだろうか?

一番の問題なのは、当のアウラが満更でもないように見える事だ。

そういえば、アウラが口にだした事は100%、そう本当に思っているとかなんとかをエマリーが言っていたような、いなかったような・・・そんな事が脳裏を過る。

ロックが解除された船内に足を踏み入れながら一路は肩を落とす。

意気揚々とドックに来た先程までの気合は何処へ。

これではすっかり何時もの日常の延長戦である。

寧ろ、変わらない。

 

「そうは言ってもや、これで火器管制と操舵要員はOKなわけや。」

 

 先の研修でアウラは火器管制を学んでいた。

船を動かすうえで助かるというのは、NBの言う通り間違いない。

 

「ワシも多少助けられるとはいえ、レーダーともう1人操舵要員がおればカンペキなんやけどな~。」

 

「仕方ないよ、NB。そこはあーちゃんが来てくれただけでも。」

 

 それはそれで気を取り直して・・・。

 

「何処かにおらんかなぁ~。あ~、何かワシ、ブリッジで延々作業するのダルくなってきたなぁ。」

 

「えぇっ?!NB、どうして急に?!」

 

「坊はえぇなぁ、未来の嫁はんと一緒やもんなぁ。ワシ、これから寝ても覚めても作業作業、作業づくしや。誰か助けてくれもんかなぁ。」

 

 白々しく、かつワザとらしく大袈裟に声を上げるNBの様子に一路が本気でうろたえる。

 

「はぁ、これからこの扉の先、ブリッジに入るのもユウウツだわぁ~。」

 

 と、言っていてもラチがあかないのは明白なので、NBはブリッジへと続く扉をくぐる。

 

「何やらお困りのようで。」

 

「猫の手、豚の手ならぬワウ人の手ならここにあるでゴザるよー。」

 

 先客がいた。

それもアウラ同様に、一路にとって見慣れた光景の。

 

「なっ・・・。」

 

「ほかほか。じゃ、ひとつ、お友達価格でどないや~?」

 

 もはや開いた口が塞がらない一路とは全く対照にNBは、席に着いている二人、プーと照輝に手を振って、自分の席である場所に向かう。

それに倣ってアウラも残っている席の1つに、まるで当然の様に座る。

1人残されたのは一路だ。

 

「坊、何やっとるんや?坊の席はそこの"艦長席"やで。」

 

「僕が・・・艦長・・・じゃなくて!どうしてプーと照輝がいるの?!」

 

 まず突っ込むところはソコである。

先程のNBのワザとらしい態度を思い出して、一路はNBを睨む。

 

「あん?ワシは何も言っとらんで?嬢ちゃんも、そこのアホヅラした2人も勝手にここに来よっただけや。」

 

「酷い言われようでゴザる。」

 

「まぁ、否定は出来ないね、NBの言う通りだし。僕達が自分達の判断でここに来たんだよ。」

 

 しれっと言葉を返すプーに、照輝が相槌を打って腕を組む。

 

「手数は多いに越した事はないでゴザるからな。第一、あれだけ判り易いいっちー態度を見れば一目瞭然。」

 

「てな、ワケで坊の態度でバレたわけや。」

 

「うぐっ。」

 

 そう言われると反論出来ない。

場所は静竜が口に出していたのだから、責めようもなく・・・。

 

「・・・でも、あーちゃんも2人も第一志望の内示が来てたのに・・・。」

 

 特に刑事課の2人は花形である。

エリートと言い切れるかどうかは解らないが、それでも倍率の高い部署だ。

 

「うん?まぁ、そういう人生の流れも悪くないんだろうけさ。」

 

「やはり、最後に持つべきものは友になるでゴザるよ。」

 

 隠し事も偽りもない友人関係というものの方が素晴らしいと二人は思う。

ましてや、一路はあんなにも困っていたのを間近で見てしまっているのだから。

 

「でも・・・。」

 

「長い人生、こういう事もあるでゴザるよ。」

 

「確かに先の事を考えるのも退治だとは思うんだけれどね。」

 

 苦笑しつつプーは花の頭を掻く。

 

「いっちーの故郷で暮らすのも悪くはないわ。」

 

 そういう方向でさらりとまとめようとするかの如くアウラが横から口を挟む。

 

「ふむ。牧歌的でいいかも。どのみちGPを退職したらその予定だったし。」

 

「悠々自適とはいかぬでゴザろうが、アウラ氏はそうするでゴザるか?」

 

「いっちーが故郷に帰るのなら。」

 

 もう決めてしまったかのように、いや、彼女が口に出したのだから決定事項でそうするつもりなのだろう。

 

「さてさて、そういう事ならばさっさと用事を済まそうとするでゴザる。」

 

「そうだね。さ、行こうか、いっちー。今、君が行きたい所が僕達のいくべき場所だ。」

 

 

 


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