一方、一路は完全に白旗を上げていた。
上げていたからそこ、今がその時なのだろうと。
そう思って一路は出航の準備をする皆の前で、自分の境遇、本来の目的を語り始めた。
勿論、地球や柾木家の事は語らずにだ。
母を亡くして環境が変わり、心機一転暮らし始めたところで、樹雷の関係者を狙った事件に巻き込まれて重傷を負った事。
その際に世話になった人を海賊に連れて行かれてしまった事。
その人を救う為の情報を得ると共に自分を一から鍛え直そうと思った事。
そしてまっさに今、その人の居場所が判明し、奪還に向かうところだったという・・・全てを隠したり、嘘をつくよりは真実を多分に含んでいる分、話し易い。
「何というか・・・。」
「結局、いつものいっちーと同じでゴザるな。」
この事に対して、プーと照輝の反応は至極あっさりとしたものだった。
二人にしてみれば、自分ではない誰かの為に必死になる一路の姿は、以前から何度も見てきている。
そのスタンスに何の変わりもないというのだから、逆に普通過ぎてつまらないくらいだ。
まぁ、一路の目的が如何なものであっても、一緒に行くつもりだった二人にとったは、特段何の変化もなく単純に目的が明確になった程度だったが、唯一人、三人の反応を静観していたアウラは、考え込んでいるようにも見える。
その思案げな表情から、やがて躊躇いがちに口を開く。
「1つだけ、いい?」
「え?あ、うん、何でも聞いて。」
一路は一路でプー達のリアクションの少なさに内心戸惑っていたところに投げかけられた言葉だ。
巻き込んでしまった以上、出来る得る限りの誠意をもって応対しようと覚悟している。
「助け出す人は、女性?男性?」
覚悟をした割には拍子抜けするような質問だった。
そもそもこれから連れ出す相手の性別など、非常に些細な事ではないだろうか?
そう考える一路は不思議そうに首を傾げる。
対して、プーと照輝の方は逆に緊張していた。
自覚がないのは一路だけで、これはある意味修羅場の匂いがすると二人の直感が告げていた。
出来れば一路が質問に答えたうえで、うまく回避出来ますようにと望まざるをえない。
だが、相手はあの一路であろう、最悪二人のどちらか・・・どう考えてもアウラの方だが、全力で取り押さえねばならぬハメになるだろう。
固唾を飲んで見守る二人の前で・・・。
「灯華ちゃんは女性だよ?」
言ったぁァァァァァッ!
言っちまいやがったァァーッ!
男共二人は同時に頭を抱える。
何もこんな時にまで馬鹿正直に答えなくてもいいぢゃないかっ!と二人は一路を微妙な目で見る。
「そう・・・。」
ガクガクブルブルと小刻みに震えながら、恐る恐る返事をしたアウラを見る。
「・・・・・・お世話になったのね?」
「うん。お弁当作ってもらったりとか、灯華ちゃんだけじゃなくて、他の皆にも・・・GPの皆と変わらないくらい気を遣ってもらったんだ・・・。」
会話におけるアウラと一路の温度差がまた余計に怖い。
「そう。」
微かな、ほんの微かなアウラの溜め息。
そして、それに敏感に反応したプーと照輝は互いに目配せをする。
介入するとしたら、この次のタイミングだと。
「・・・・・・私も、お弁当作ったら・・・食べてくれる?」
ココダッ!
「え?いや、それはわる・・・。」 「勿論、ありがたくもらうよね、ね、いっちー?」 「そうでゴザる。いやぁ、羨ましいでゴザるなぁ。」 「うんうん、青春ってカンジだね。」
白々しい。
白々しいが、これ以上室温を下げるわけにはいかない。
二人とアウラの心は既に氷点下だ。
「プー?照輝?」
「食べるよね?」
「嬉しいでゴザるよな?」
「いや、あまぁ、それは・・・嬉しいよ?」
一路の答えにそろそろと視線を動かし、アウラの反応を伺う二人。
「そう。楽しみにしてて。」
アウラの一言にほっと胸を撫で下ろす。
「アホらし。皆、準備はえぇか?というより、相手は悪名高いあの"シャンク"ギルドや、
一言も言葉を発する事のなかったNBだが、何の事はない、ただ関わり合いになりたくなかっただけである。
「ここで降りるとか言ったらカッコつかないでしょうよ。」
「相手によって一度言い出した事を引っ込めるのはどうかと思うでゴザる。」
「そんなに危険なら、余計にいっちーが心配。」
「「うんうん。」」
「え、最後のだけ満場一致?!」
そんなに頼りない?!と一路が1人でショックを受ける中。
「うっし、宇宙港のゲートにアクセス成功。ほな艦長、発進の号令をせな。」
NBの言葉に息を飲み、やがて・・・。
「じゃあ、みんな、行くよ?」
何とも頼りない艦長だと思いながら、一路はその場にいてくれる皆の顔を一瞥すると・・・。
「発進します!」