「おや、どうしたってのサ、魎呼ちゃん?」
亜空間ゲートを抜けた先、柾木家の自分の研究室・・・といっても、ここも亜空間で繋がっているだけの一室に戻った鷲羽を迎えたのは、モニターごしに浮かんでいる魎呼の姿だった。
浮かぶというのは何の比喩表現でも語弊があるわけでもなく、実際に胡座をかいたままの姿勢で宙にぷかぷかと浮かんでいるのだ。
「ったく、どーしたもこーしたもねぇだろォ。やい!鷲羽!手ェ出さずに眺めてろって、暇で暇で仕方ねぇじゃんかよ!」
モ二ターの向こう側の魎呼は今、宇宙にいた。
宇宙船、魎皇鬼。
ただの宇宙船ではない。
魎呼達と精神的に連結している半有機的、つまり生きている宇宙船なのだ。
更に驚く事に、この宇宙船は銀河最強と言われるあの樹雷の皇家の船と同等以上の戦闘力を持っているのだ。
それが伝説の宇宙海賊魎呼の宇宙船、魎皇鬼。
「だぁ~めっ。誰が何と言おうとギリギリまでは手出し禁止だよ。」
魎呼の乗る魎皇鬼は現在、宇宙のとある座標でじっと息を潜めている。
そんな宇宙船の眼下といえばいいのだろうか、二隻の船が停泊していた。
「だぁってよっ!アソコに一路のダチがいんだろ?アタシが行ってぱっぱと片付けちまえばいいじゃねぇかよ。」
何の事はない、既に魎呼は一路達の目的地である宙域に先回りしていたのである。
「アンタねぇ、一度断られてるだろう?」
「ぐっ。」
一度自分たちが何とかしてやるからと申し出て、一路に断られているのは事実だ。
しかも、その事でかなり魎呼はヘソを曲げたのだ。
「仮にだ、アンタが代わりに手助けしてやって、あのコは喜ぶと思うのかい?あぁ、そりゃあ喜ぶだろうさ目的は達成出来るんだから。気を遣って魎呼ちゃんに感謝だってするだろうよ・・・で?それであのコに"何が残る"のサ?」
ジロリと睨んでくる鷲羽に、一瞬魎呼は仰け反る。
しかし、それはほんの一瞬ですぐさま反抗的に鷲羽を睨み返した。
「残るだろ!友達が一人無傷で帰ってくんだからよォ・・・。」
かく言う魎呼にだってもう解っていた。
それは事態を解決しただけであって、一路の気持ちの整理は何一つつかないという事に。
「結局、自分では何一つとて解決出来なかったって負い目を作っちまうだけさ。第一、これからずっと事あるごとに助けてやれるわけじゃないんだよ?それじゃあ、子供は育たない。これからも保護者面したいってんなら、大人しくしときな。それが務めってもんなんだ。」
長々とかつ、理路整然と説かれてしまっては魎呼もぐぅの音も出ない。
歯ぎしりをして、拳を震わせているのがその証拠だ。
「どうしても立ち上がれないってんなら、その時は魎呼ちゃんが力を貸してやんな。なぁに、腕や足の1本や2本なら、この天才哲学士の鷲羽ちゃんが何とでもしてアゲルから♪痛いメや苦労して得るモノが"
「・・・不吉なコト言ってんじゃねぇよ。」
折角、良い事を言っていたのに台無しである。
いや、逆にこっちの方がいつも鷲羽らしいといえば、鷲羽らしいのだが、何というか本当に残念な人である。
「全くロクなもんじゃねぇ、」
呆れ果てて物が言えない魎呼は、相手方の船を眺める。
中型の駆逐艦と黒い大型艦だ。
両者とも、海賊船という名に違わない武装とエネルギー量があるのは確認済みだ。
もっともこの程度、魎皇鬼ならば赤子の手を捻るくらい簡単に、それこそ鼻歌を歌おうかなぁと思ったくらいの時間で宇宙の塵に変えられるだろう。
「一体、どうやってブッ飛ばすつもりなんだァ?」
一路達がこちらに向かっているのは解っている。
しかし、GPの艦といえばども、戦闘艇で来るわけではないだろう。
では一体どうやってこの艦と渡り合うというのか?
「ミャア!」
ふと、魎皇鬼が声を上げる。
魎呼より先に"彼女"の方が気配に気づいたらしい。
「来たか!」
魎呼の考え通り、少し特殊なフォルムをした艦らしき機影がワープアウトしてくる・・・や否や、ワープ時のエネルギーを保ったまま、そして・・・。
「あ・・・。」
大型の海賊艦の横っ腹に"突き刺さった"。
まさにそう形容するしかない。
そして艦が衝撃に揺さぶられる。
「や、やりやがったァァァァァッ!!」