真・天地無用!~縁~   作:鵜飼 ひよこ。

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第122縁:姫と騎士の戦い。

 直後、その場にいた誰もが何が起きたのか解らなかった。

艦内灯が常備灯から非常灯に切り替わり、粉煙が立ち込める。

そんな中、急激に空気が流出して、すぐに止まる事態に船の外壁に穴が開いたのだと解った。

 

「何事だ?」

 

 近くでアラドの少し苛立った声が聞こえる。

 

「何事だと聞かれたら!」 「答えてやるが世の情け!」

 

「ひとぉーつっ!人の世の生き血を啜り。」

 

「ふたぁーつ、不埒な悪行三昧。」

 

 大音声の声と共に煙が晴れてゆく。

 

「みぃーっつ!」 「灯華ちゃんっ!」

 

 自分たちとアラドの部下を分断する壁。

宇宙船の艦首からありえない、そして聞き覚えのある声に灯華が目を見張る。

 

「あぁ?!もうダメだよ、いっちー、こういうのは登場の台詞が大事なんだから!」

 

 男が呼ぶ名にもやはり当然ながら聞き覚えがある。

 

「あ・・・。」

 

 思わず口から感嘆の吐息が漏れた。

もう聞けない、会えないはずのその姿。

 

「・・・・・・いっちー・・・。」

 

「灯華ちゃん!"迎えに"来たよ!一緒に帰ろう!」

 

 紛れもない本物だった。

決して追い詰められた自分が見た幻覚や妄想の類いでもなく。

 

"生きていた!”

 

 その事実に素直に歓喜し、灯華は手を伸ばしてきた一路に向かって無意識に手を伸ばし返そうとして気を失った。

 

「灯華ちゃん!」

 

 灯華の傍らいた男、アラドが彼女を昏倒させたのだ。

 

「どいつも、こいつも、使えない。」

 

 どうやら自分と部下達が物理的に分断されたと理解したアラドは、すぐさま灯華を黙らせ彼女を肩に担ぐ。

自分で運ばなければならないのは、面倒極まりなかったがそうも言っていられない・

すぐさま他の部下と合流して、侵入者を排除、いや抹殺せねばならない。

 

「追っていっちー!」

 

 プーが瞬間的に判断して叫ぶ。

それと同時にアラドは灯華担いだまま走り去る。

 

「ここは拙者達が死守するでゴザるよ。」

 

「ただ、なるべく早く"お姫様"を連れて帰って来てうれよ!」

 

 本当はもっとカッコイイ事を言いたかったのだが、戦力的に不利なのは誰の目から見ても明らかだ。

だとしたら、徹頭徹尾引っ掻き回す奇襲戦しか方法はない。

可及的速やかな目的の達成。

一路を単独行動させるのには、心配があるが自分達が派手に暴れれば、なんとか危険度も下げられるだろう。

 

「二人共・・・。」

 

「帰る時は・・・。」

 

「五人でゴザる。」

 

 プーと照輝が笑顔で宣言するのを聞いて、一路も頷く。

そして踵を返すと、アラドを追いかける。

 

「・・・と、言ったものの多勢に無勢でゴザるなぁ。」

 

「ホント、チビっちゃいそうだよね。」

 

 ミシリと音をたてて照輝の筋肉が膨張を始める。

 

「けど、まぁ、あのままGPに残ってたら、こんなに刺激的で燃える場面には遭遇しなかったよ、きっと。」

 

「いくら偏見の少ないGPでも、"ワウ人"と"ガギュウ人"でゴザるからなぁ。」

 

 パリッ、パリリッとプーの周りで何かが爆ぜる音が鳴る。

 

「へへっ・・・。」 「ふっふっふっ。」

 

 照輝の皮膚は変色し硬質化、プーの毛は体内の電流の影響で逆だっていく。

 

「あはっ、あははははっ!」 「はっはっはぁーっ!」

 

 二人共、身体の奥底からこみ上げる笑いを止める事なく戦闘準備を完了する。

 

「青春サイコー!」

 

「友情爆発でゴザる!」

 

 不利は承知の上、だが二人の顔には悲壮感のカケラすらない。

寧ろ、笑みが浮かぶ。

自分達の乗ってきた船の艦首を盾に、アラドの部下達との戦いを繰り広げる。

 

「・・・馬鹿ね。」

 

 喜々として戦いに身を投じているようにも見える二人の姿を艦内のモニターで見ながらアウラは呟く。

3人に比べ戦闘能力の低い彼女は、全員が船に戻って来たらすぐさま離脱を行うという役目もあり、艦内に残っていた。

 

「まぁな、男なんてそんなもんやて。つか、"5人"ってワシが入っとらんやんけぇ、アイツらぁ~っ!」

 

 NBはカタカタとキーを打ちながら、目にあたる部分に文字列を走らせながら不満を露にする。

 

「うしっ、ハッキング終了。これでしばらくあっちの監視カメラにはオモロい映像が流れとるはずや。」

 

 同じくサポートで残ったNBが男達(アホども)のフォローになってないフォローを返す。

 

「どんな?」

 

「ん?あか、天南のヤツの無修正入浴シーン。いやぁ、研修の時に間違って男湯にもカメラをつけてもうて・・・あ゛。」

 

「・・・後で全データを没収するわ。」

 

 全データというのは、勿論、女湯のものもである。

 

「あ、はい。」

 

 アウラの威圧的なオーラ。

所謂、従わなければバラすぞ(スクラップ)という無言の意思表示に逆らう事は出来ない。

 

「しっかしな、嬢ちゃん?」

 

「何?」

 

 何か異論でも?と突き刺さるのではないかと思う冷たい視線をNBは浴びる。

 

「馬鹿だのなんだと言う割には嬢ちゃんも楽しそうやで?」

 

 NBの言葉にぴたりと静止するアウラ。

そして、何か納得したように一人で頷く。

 

「そうね・・・そうかも知れないわ。」

 

 




年末年始で奪還編が終わると思います。
ダラダラと、まぁ、なんというか・・・一応、アニメ的な流れでだとこの辺で区切るなってカンジで区切ってます。

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