真・天地無用!~縁~   作:鵜飼 ひよこ。

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おあけましておめでとうございます。
年末年始は風邪を引いていつもの年末・お正月進行の連続更新が出来ませんでした。
それでは今年も引き続きよろしくお願い致します。


第124縁:死線。

 ベキンッ!

 

 そんな鈍い音が辺りに鳴り響く。

あれから何合打ち込み、相手の火線を逸らし、あるいは木刀で受けただろう。

驚いた事に一路の木刀は、アラドの銃の光線すら受け止めてみせた。

これにはアラドどころか、一路自身も驚くしかなかったが、それもとうとう今の攻防で折れてしまい一路の手元には以前の三分の一に長さを残すのみ。

 

「全く、たいした木刀だ。一見、ただの木刀に偽装した物かと思いきや、"本当に木"のようだ。」

 

 折れた木刀の残りの先端部分、それを握ってしげしげと眺めながら感嘆の息を漏らす。

 

「噂に聞く樹雷の皇家の船の装甲も硬質に変化した木と聞くが・・・これが、という事か。」

 

 そんなの知るか!そう声に出そうとしても一路は息が上がってそれどころではない。

それを見越してアラドは喋っているのだ。

勿論、一路を休ませる為ではない。

自分の知的好奇心を満たす為と、力の差、余裕を見せつける為である。

一路は確かに相当な訓練を宇宙に出てから積んできた。

しかし、実戦の経験という点では、アラドに全く及ばない。

更に言えば、"人殺しの経験"があるかないかの差。

大前提として、一路は訓練で多対一の戦いを想定はしていても、人殺しは想定してはいないのだ。

人をなるべく傷つけない事に余分に神経を注ぐ、それがまた一路の負担を増やしていた。

 

「私も剣は持っているのだが・・・これの威力を試してみるのも良いかも知れないな。」

 

 

 ニヤリと肉食獣のような獰猛な笑みを一瞬だけ浮かべる。

木刀が折れてしまった今、遠距離戦よりも近距離戦を選んでくれるのは一路としてもありがたくはある。

当然それも相手の心理戦の範囲内、計算の内だろうが乗るしかない。

今の一路は何とか立っているといったところだ。

ちょっとでも気を抜けば、腹部に空けられた穴の痛みに気を失いそうになる。

痛みで意識がはっきりするかと思いきや、どうやら逆らしい。

幸いビームの熱量で焼かれたせいか、出血の量自体はそれ程でもない。

だからといって楽観できないのは解りきっている。

その証拠に未だ応援や連絡の類いが来るような気配はなく、相手もそれは同じだからだ。

プー達の足止めが成功しているなのだが、逆に言えば足止めされているとも言える。

だからこそ、一路は自分の不甲斐なさをより実感する事態に陥っていた。

 本来の自分はあの時の地球で死んでいた身だ。

それで芽衣や灯華の命が救えそうなのだから、上々といえば上々なのかも知れない。

脳裏をそんな事が過ぎらなないでもなかったが、生憎、それでは残された者達が浮かばれないだろう。

泣いてくれるかどうかまでは解らないが、少なくとも幾つかやりたい事がアカデミーで新たに出来てしまった。

それを考えると、一歩一歩こちらに歩み寄ってくる相手の一挙手一投足から目を逸らすわけにはいかない。

 

(まだ・・・まだだ・・・。)

 

 少なくとも自分はまだ死んではいないし、諦めるというわけにはいかない。

どうにしかしてこの場面から逃れてみせる。

こちらの目的は相手を倒す事ではないのだから。

恐らくこれが最後の攻防であるには間違いないだろう。

相手の今の興味は自分ではなく、寧ろ木刀の方であるというのが唯一の好機になればいいと・・・。

 

「ほぅ、まだまだ余力がありそうだな。」

 

 それにしても実に楽しそうに笑うではないか。

 

(考えろ・・・考えろ自分!)

 

 まず見る。

極度の集中、見る、見る、見る。

それがやがて見るから感じるの領域になり・・・振り下ろされる腕、その一瞬を狙ってあえて前に出る。

相手の脇腹辺りをすり抜けるようにして頭を突っ込み、身体を小さく畳んで突進。

無論、相手もそれを眺めているわけがない。

身を屈める一路の顔面に横合いから膝が飛んで来る。

 

(動けッ!)

 

 それでも一路は恐怖に目を閉じる事はしなかった。

咄嗟に足で踏み切って、まるで火の輪潜りをするかのように膝を飛び越える。

諦めず、目を閉ざす事をしなかった差がここに出た。

そのまま前転の形でごろごろと無様に転がりながら、一路はすぐさま起き上がろうと試みる。

逃げるのならば、止めを刺しそこねた、相手の一撃をかわした今をおいて他にない。

立ち上がって駆け出さねば!

 

「残念だ。」

 

 起き上がった一路の眼前にあったのは1本のナイフ。

すれ違いざまの刹那にアラドが投げ放ったそれ(トドメ)に、一路は今度こそ目を閉じた・・・。

 

 


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