「ミヤッオォォォーンッ!」
目を閉じた一路に届けられたのはナイフでもなく、ましてや死でもなく、なんともこの場に不似合いなお叫びであった。
「え・・・?」
恐る恐る目を開いた彼の視界に映ったのは、真っ白な兎だった。
いや、正確には兎とは言い難い。
犬と兎を足して2で割ったような・・・しかし、そのどちらでもない、まさにヘンテコな生き物が一路の目の前に浮かんでいるのだ。
ようく見ると、その生き物の真上に【ASURA SYSTEM】の文字。
「ミャゥッ!」
を、その兎(?)が蹴り飛ばすと、ペタペタと何かを貼り付けだした。
「け・・・けんおうき?」
【GS:KEN-OH-KI】
「ミャウミャウ!」
貼られた文字を読むと兎が返事をして、ごそこそと懐を漁る真似をしながら手持ち看板を持ち出す。
そこにはデカデカと一文字【堅】の文字。
「舐めてくれたものだな。"ガーディアン"を使わずにこの私に勝とうとしていたとは。」
「ガーディアン・・・。」
アカデミーの授業で聞いた事が一路にはあった。
確か要人警護の話だった気がする。
ガーディアンとは文字通り守護者、基本的に個人に合わせデザイン、製作された戦闘服だ。
これに人格を持たせてNBのように身体にインストールした物がガーディアンユニットと言われる。
もっとも、戦闘服と言っても鎧のようなものから、ドレスのような様式のもの、用途も戦闘・防護・作業用と様々である。
ただ汎用型のものでもなかなかのお値段で、個人用のフルオーダー(オートクチュール)ともなれば、それこそおめめが飛び出る価値になる。
ちなみに、ASURASYSTEMは純戦闘用の最高級品の商品名の一つであり、こと戦闘用に限れば一流メーカーのカウナックに並ぶという事は一路は知らない。
「君が助けてくれたの?」
「ミャ~ゥ。」
コクコクと首?(何処からが首なのか解らないが)を縦に振っているところを見るとそういう事らしい。
「あ~あ~テステス、聞こえてるかい?」
ふと耳元で聞き慣れた声がした。
耳元といえば、地球を出る時に鷲羽に渡されたイヤーカフが填められている。
勿論、声の主も同じだ。
「これを聞いてるってコトはだ、アタシのお願いをちゃんと聞いて、んでもって大大大ピンチなワケだね?」
やけに明るいその声を聞いて脱力しそうになる。
同時に自分の中で、無駄に入っていた力があるという事を認識した。
「あーあ、こんなになるまで頑張ちゃってもぅ、何やってんだかね、ホント。」
本当に録音なのだろうかと、実は何処かでこっそり見ているんじゃないかと、辺りを見回したくなる衝動をぐっと堪えた。
鷲羽の言っている事はあまりにも的確過ぎる。
「しっかりおしよ、こんなトコでヘコたれてんじゃないよ!ヲ・ト・コ・ノ・コ、だろう?踏ん張りな!」
この言葉に、ただの激励ではない何とも言えないこそばゆい、それでいて耳元で囁かれる、そう愛情的なものに足に力が入る、心に力がこもる。
「・・・・・・一緒に戦ってくれる?」
ぽつりと呟きながら、近くに落ちていた自分に向けて放たれたナイフを握る。
自分からは解らないが、恐らく今、ガーディアンシステムを身に纏っていて、これがガーディアンシステムのディスプレイ画面で、彼(?)がOSなのだろう。
その証拠に持っていた看板がくるりと回転すると【剣】の文字が現れた。
「構造を瞬時に最適化するのか・・・とんだお宝ではないか、そのガーディアン。」
アラドの驚嘆っぷりを見るに外見が変化しているようだ。
つまり、先程の"堅"というのは防御態勢という事だろうか。
「互いに出し惜しみするタイプというところまで同じだったという事か。」
構える一路の前でアラドの体が薄緑色の半透明の膜に包まれてゆく。
あれがガーディアンなのだろう。
きっと自分の身体もあのようなエネルギー体に包まれているに違いないと理解する。
「次のラウンドといこうか。」
けんちゃん(仮)は、GSのOSであって眷皇鬼やりょーちゃんとは違う存在です。
このガーディアンシステムのデチューンは、後のアレという設定で。