真・天地無用!~縁~   作:鵜飼 ひよこ。

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前回お休みを頂いて、なんとか今回更新出来ました。
なんとか生きてます。


第130縁:心の夜をブッ飛ばせ。

「うぅ・・・。」

 

 当面の危機を切り抜けたせいか、一路は自分の脇腹に走る痛みに顔を顰める。

戦っている最中は、極限まで高められた集中力とガーディアンであるケンオウキの力で緩和されていたものが一気に吹き出てたような感じだ。

その当のケンオウキだが、一路が全の元から走り出してほどなく『ミャゥッ!』と啼いてディスプレイにカウントダウンが始まり、ゼロになると解除されてしまった。

時間制限が元々あるのか、それともエネルギー切れなのかは一路には理解できなかったが、どちらにせよ無いモノ強請りをしても仕方がない。

ピンチの時に出て来てくれただけでも恩の字だ。

もっとも、現在も進行形でピンチには違いないのだが。

 

「ダメだなぁ・・・。」

 

 たははと口から苦笑と吐息が漏れる。

ガーディアンがなくなり、共に来た友人も傍らにはいない。

これだけならば地球を出た時と同じだが、今はあの時に持っていた木刀も半分以上が手元にない。

逃げるのに精一杯で折れた先を回収する事すらも出来なかった。

何もない裸一貫の寂しさに不安が募る。

それ以上にそんな自分の弱さにほとほと呆れ果ててきた。

宇宙に出てから、少しは前向きになったかと思えばコレだ。

これじゃあ、地球にいた頃となんら変わらないんじゃなかと、がっかりするのも解らなくはない。

 

「あ・・・貰った木刀、折っちゃったの、謝りに行かないとなぁ・・・。」

 

 走る速度が落ちていた。

一路が望んでそうしているのではない。

無意識のうちに足に力が入らなくなっているのだ。

気づいてはいないが、歩みも真っ直ぐではなく、少しフラついている。

 

「そうだ・・・早く帰らなくちゃ・・・。」

 

 再び速度を上げようともがいても、もう足に力が入る事はない。

前に進むだけでもやっとだった。

ぷるぷると震える自分の足に力を何度もこめようとして、前のめりに倒れ・・・。

 

「無茶するなぁ、君も全も。」

 

 自分の身体を誰かが抱きとめている。

 

「檜山 一路君だよね?」

 

 その言葉は質問しでも確認でもなく、確信の響きがある。

しかし、一路はもう声を出すのも億劫だった。

 

「あぁ、僕は漆原 晶(うるしばら あきら)と言って、まぁ、完結に言って全側、君の味方、オッケー?」

 

 この人物の言う事を信じるか信じないかの選択肢はない。

仮に罠だったとしても手負いの一路ならば、止めを刺すのも簡単だろう。

 

「喋らなくていい。悪いけど治療している暇はないからね、そのままで移動するよ。」

 

 晶は一路の身体を見る。

よくもまぁ、この小さな・・・と言っても自分も同じくらいの身長なのだが、こんな大それた事をするものだと一周回って感心していた。

 

「肩を貸すよ。歩ける?」

 

 本当に満身創痍だ。

と、船体が衝撃に揺れたたらを踏む。

 

「おっと。」

 

 ここで傷だけの一路を放り出したら目もあてられない。

ちょっとした冷や汗をかきつつ何とか堪える。

 

「「くぅおらぁっ!一路!!」」

 

 突如、大音量が船内にこれでもかとこだました。

そのあまりの音の大きさに晶は驚くが、それよりも隣で身体を預けてきていた一路がぴくりと反応した事の方が気になった。

 

(この、声・・・。)

 

 一路にはすぐさまその声が誰なのかが理解出来たからだ

 

「なぁにチンタラやってんだコラァッ!!トロトロしてんならこの魎呼"お姉様"が全部やっちまうゾ!」

 

 間違いようがない。

ちゃっかりお姉様と自分でつけてくるところも彼女らしい。

魎呼がすぐ近くにいる。

その事実は一路にとって何よりも心強い。

 

「オトコだろ!タマァついてんならしっかりしやがれ!」

 

「ふんぎぃっ!」

 

(お?)

 

 豚を蹴り飛ばしても啼かないような醜い声が晶の隣で上がって、肩にかかっていた重みが消えてゆく。

歯を食いしばり、瞳にいっぱいの涙を溜めたまま鼻息荒く一路が仁王立ちしていた。

 

(へぇ・・・。)

 

 そこまできて成程、納得だと晶は理解する。

 

「うん、君も君のお姉さんも強烈だね。」

 

 これじゃあ、全でなくとも手を貸したくなってしまうじゃないか。

心の中で苦笑する。

同時に彼を助けた事で出世の道が閉ざされるというのなら、それはそれで自分を納得させられるような気がした。

 

 


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