「なるほどのォ。」
それからの一路は堰を切ったように喋り続けた。
アカデミーで出来た友達の事、他の同級生からの謂なき言葉。
灯華との出会い、その結末。
きちんと順序立てて客観的に話せたかどうかも解らない。
しかし、そんな一路の支離滅裂ともいえる言葉を、男はふむ。とかほぅ。とかと時に相槌を打ちつつ聞いてくれた。
「一度法を犯してしまった人は、たとえ未遂だったとしても、他に選ぶ道がなかったとしても、やり直しはきかないのでしょうか?抜け出すという思考を奪われても、周りの大人達がそれしか教えてこなかったとしても・・・。」
社会通念と同じだ。
国家主義の様相が変われば、社会的な常識も変わる。
革命というものは、他の社会、或いは他の者と比較する事から起こる事が多い。
格差からの不満だとかがいい例だ。
しかし、その差異すらも、違和感すらも感じる事が出来ないのでは土台そのものが変わってくる。
事実、一路がそうだった。
一路はこれまで宇宙に出る事は勿論なかった。
それはほぼ全ての地球人類がともいえるが、そんな地球と宇宙の一番の差異といえば、真空、無重力だ。
天と地がある事が人の不自由の始まりとは、何の読み物の一節だったかは一路には思い出せないが、それを違和感と思わなければこれ程有効なスペースはないともいえる。
人の感覚で言うならば、味覚が一番説明しやすいだろう。
美食家だか至高のメニューだかなんだか知らないが、高級であるとか美味であるという事を知らねば、質素な食事でも満足出来るし、美味いと十分思える。
極端な話、錠剤でも構わないはずだ。
「難しい、と言わざるを得んな。人には言葉と文字がある。知識を記憶を伝えるという技術を持ってしまった。」
それがまるで聖書で言うところの原罪であるかのように。
「連綿と伝え継がれてしまえば、それはなかなかに変える事は出来ん。たとえ頭で解ってはいても、それが当然になる。」
先入観のない一路にはそういった拒否感はない方なのだ。
そもそも日本人は、保守的な閉鎖感はあれど、流入・混在にようる抵抗感は少ない。
自分達が被害さえ受けなかれば、倫理的な問題が発生しない限り"アリ"なのだ。
「・・・彼等が一体何をしたというのでしょうか?僕の"友人達"は何ら僕等を傷つけようとした事なんてないのに。」
土台から分かり合えないわけではないはずだ。
だからこそそれが悲しい。
「それは何故争いが無くならないのか?と問う事と同じじゃな。」
「そんな・・・・・・。」
それでは"変わる"事すら許されないではないか。
「・・・・・・人は、子供は、親を選べません。」
「ん?」
「でも、生きているうちに自分の親と他の家の親との違いを理解します。それを学ぶ機会もないというなら僕はそんな世界を不幸だと呪うだろうし、そんな生に社会に何の意味があるんだろうって思います。僕のこの考えすらも間違っているでしょうか?取るに足らない子供の喚きでしょうか?」
「ほぅ。」
男が顔を綻ばして応える。
その表情にどんな意味があるのか解らないが、今の一路にはなんとなく何かが見えて来たような気がしていた。
自分のしたい事が漠然と。
「いいんではないかの?」
「は?」
「親は親、子は子、全く違う人間という事じゃな?少なくともワシは"アレ"の思い通りなんぞ生きなくて良いと思っとるしな。」
「アレ?」
予想外かつ、よく意味の解らない男の言葉に一路は驚き、首を傾げる。
「そもそも法などというのは、国を動かす為の効率と為政者の都合とメンツで出来とるようなもんじゃ。それにアレが好き勝手するのは何時もの事だ。」
「だから、アレって・・・?」
「まぁ、何というか、クソババアじゃな。」
またクソババアなる単語だと思った。
一体誰の事を言っているのだろう?
「山田西南殿といい、君といい、長生きするもんじゃなァ。」
「はぃ?」
「若者はこうでなければいかん。でなければ国は衰える。国の発展が可能性の排除と同意義になるようじゃいかんという話じゃよ。」
「おーい、いっちー。」
「全?」
一路を呼ぶ全の声が微かに聞こえる。
「全!こっち!」
自分を呼ぶ声に応えると、回廊の向こうからすぐさま全が顔を出してきた。
「なんだって、こんな建物の端の方にいんだよ。」
ブツクサと呟きながら歩み寄って来る全の様子に一路は苦笑する。
「気晴らしだよ。ちょうどそこでこのおじいさんに・・・あれ?」
名前すら聞いていなかった男性に全を紹介しようとした一路だが、そこには既に誰もいなかった。
「なんか・・・仙人みたいな人だったなぁ。」
「で、何だって?」
「あ、うん、その、あのね・・・。」
満を持してのババア引きw
一体誰の事なんでしょうねぇ(白々しい)