真・天地無用!~縁~   作:鵜飼 ひよこ。

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第137縁:男の成長は反抗期から始まる?

『じゃあ・・・いっちーはどうしたいんだ?』

 

 自分の内情を吐露して、最後に全にそう聞かれた時、やっぱり自分は青二才で反抗期の真っ只中なのだと一路は思った。

それでも、自分の内情を吐露出来る事になったという点は、地球の東京にいた時に比べれば成長しているのだが。

ただ、でなければ、そう考えなければ今の現実をうまく飲み込めないからだ。

 

「どうした一路殿?口に合わないか?概ね樹雷の料理は受け入れられやすい味付けなのだが。」

 

 隣の席に座る兼光が問う。

確かに目の前にずらりと並べられた料理は地球の和食に近い。

というより、まんま和食に見える。

だが・・・。

 

「いや、そうじゃなくて・・・なんでこんな宴会に・・・。」

 

 現在、宴会の会場の真っ只中にいて、一路は次々と料理を勧められている。

勿論、近くの席にはプー達もいて、喜々として料理を食べているのだが。

別に緊張感や危機感が抜けているというわけではないだろう・・・恐らく、いや、そう思いたい。

ただ、一路の頭では処理しきれない事態、こんな事をしている場合なのだろうかという拒否感とか云々を、一言で強制的、そりゃもう無理矢理まとめようとすると、反抗期と解釈した方が平静でいられ・・・いられてはいない気もするが。

 

「樹雷としては、眷属の命の危機を身を挺して救った者へのささやかな礼の宴といったところだな。」

 

「ささやかですか?」

 

 生演奏のBGMに豪華な料理、それをとっても一路の感覚ではささやかとは言えない。

もっとも料理にしてみれば、完全な時間凍結で保存していたものを、地球人の感覚で言えばレンジでチンしたレベルなのでそれほどの事でもない。

ただ、そんな事も知らない一路からしてみれば、この光景はただ呆れる。

これが一路のした事に対してという事ならば尚更だ。

 

「というのは建前で。」

 

「建前?あんまり好きになれないです。」

 

 反抗期が一路の口からそんな言葉を出させる。

兼光としては、そんな一路の"ある意味で"常識的なところが好感が持てる。

そういえば、西南殿も終始畏まったままだったなと懐かしくも思ったのだが。

 

「半分はメンツだ。ここで君を歓待しなければ何と度量の低い、となりかねん。もう半分は青田買いといったところか。」

 

 少なくとも、"あのババア"のやり方を兼光は十二分に知っている。

 

「ますます楽しめないです。」

 

 今時、海賊に単騎で突っ込んでゆく若者は珍しい。

寿命の長い彼等にとって、一路のような気骨溢れる若者は、戦士の卵としても大歓迎なのだ。

樹雷の軍にスカウトするしないとは別に、他の家、筆頭四家と言わずとも、眷属の何処かの家の者が身内に抱えたいと考えるやも知れない。

 

「宴の規模に関しては、今の樹雷がかつてない好景気だとか諸々あるが、とりあずタダ飯なんだ、食べておいて損はないぞ。ご友人達のようにな。」

 

 好感しか感じない兼光にまでそう勧められては口をつけないわけにもいかず、近くの杯を取って口をつける。

爽やかな果実の味が口の中に広がって・・・?

 

「ちょっ、これ、アルコール入ってません?!」

 

 全く飲めないタイプとは言わないが、どちらかといえば苦手な一路が呻き声をあげる。

 

「この程度、問題ないさ。」

 

 あぁ、そういえばこちらでは十六歳が元服、成人年齢なのを思い出した。

だが、GPでは18、地球人の一路にとてはお酒はあくまでもハタチから、未成年の飲酒は・・・以下、略。

 

(大体、僕は今とてもそんな気にはなれないし・・・。)

 

 捕らえられた灯華の事、全と話した事、そしてこの星の何処かにいるだろう芽衣の事、考える事はてんこ盛りだ。

 

「そういえば・・・全は?」

 

「さぁ?アイツは昔からむらっ気があるからな。とはいえ、当事者でもあるから何処かにいるはずだ。」

 

 そう言われても心配になる。

宴が始まって時間が経てば経つほど、自分を見る周りの視線が増えている気がする。

いや、増えている。

この星に着いた時から感じる視線も一緒だ。

上から下まで吟味されるような・・・。

 

「・・・嫌だな、この視線。」

 

「気にするな。」

 

 視線の密度といえばいいのか、どんどんと濃厚になってゆくその質が、一路の中で何かをこみ上げさせてくる。

酔いも手伝っているのだろうか?

一口、二口飲んだ程度なのに。

大体、何だこの視線は。

あまりにも無遠慮で失礼ではないか。

そう考えると気持ちが荒ぶる。

大人のメンツとか事情なんて一路にとっては知った事ではないのに。

 

「お、舞いが始まるぞ。」

 

 煌びやかな刺繍が施された服を着た仮面の一団が現れ、並ぶ。

片手には木刀。

木刀といっても、握りの部分に服と同様の美しい布が巻かれ、柄頭からは極彩色の紐房が垂れていた。

一団が礼をすると、今まで流れいたBGMが変わる。

 

「あれ?」

 

 始まった舞いの流れを見ると、どうにも既視感が募る。

 

「あれは樹雷特有の剣舞だ。闘士の基本の型もあれを元にしている。ほら。」

 

 兼光が指をさすと、数人が飛び入りで舞いに参加し始めた。

最初に現れた一団とは違う型だが、共通点がないわけではない。

成程、後から入った一団が闘士達なのだろう。

 

「宴の席だ、多少の無礼講は許して欲しい。なんなら一路殿も飛び入り参加してもいいんだぞ?・・・なんて、な。って、オイ?!」

 

 すくっと立ち上がる一路に冗談めかしていた兼光は驚きの声を上げる。

その手には折れた木刀。

 

「・・・踊ってきます。」

 

 

 


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