真・天地無用!~縁~   作:鵜飼 ひよこ。

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番外編:あなたと私の縁。

 何時もの喧騒を終えて、各々が各々の時間を過ごす中、彼女はそこにいた。

池とは言えない規模の大きさの人工の湖面、そこにせり出した縁側に一人座り夜空を見上げている。

今日は雲ひとつない夜空で、山の上にある空気の澄んだこの場所では沢山の星の瞬きを見る事が出来た。

 

「どうしたの?」

 

 一人で夜空を見上げていた彼女に青年は背後から声をかけた。

 

「お星様を見てました。」

 

「星?」

 

 青年は彼女の言葉に自分も夜空を見上げる。

 

「綺麗ですね~。お星様って下を向いていたら絶対見られないんですよぉ、知ってました?」

 

 何を当たり前の事をと思うかも知れないが、彼女は至極当然にかつ、真面目にそれを言ってのける。

 

「そうだね。星を見る為には、どんなに落ち込んでても上を向かなきゃね。」

 

 青年はそう微笑みながら、彼女の横に腰を落とす。

果たして、彼女の発言にそんな哲学的な意味合いがあったかは、普段の彼女の言動からしてみれば甚だ疑問ではある。

しかし、それで会話が成立しているのだから、そんな事は些細な問題なのだ。

 

「私もぉ、あんな風に綺麗に輝けるのかしら?」

 

「ん?あぁ、美しい星って書いて美星さんだものね。」

 

 美星は青年の、柾木 天地の言葉に微笑む。

 

「今見てるお星様の光って、ずぅ~っとずぅ~っと何万光年昔のモノなんですよぉ。ずぅ~っと昔から光ってて、ずぅ~っと昔からそこにあるんです。凄いですねぇ~?」

 

 そんな何万光年離れた場所へもひとっ飛びの船を持っている者の発言とは思えない。

行こうと思えば、その星がある所まで彼女は行けるのだから。

 

「俺には凄過ぎて想像がつかないや。」

 

 それこそ、彼はその星すらも自分で創造する事だって出来るのだが。

実際やってみるかはまた別の話ではある。

 

「昔の人は、亡くなったら天に昇ってお星様になるって言うケド、私にはあんな風に輝けるかどうか不安になっちゃいますねぇ。」

 

「そういえば、俺も子供の頃、そういう話を親父に聞かされた事あったなぁ。この星の何処かに母さんがいるんだぞって、オマエを見てるんだって。まぁ、今じゃ姉さんがあの宇宙の向こうにいるっていうんだから・・・。」

 

 こんなに綺麗な星を年頃の男女二人で見ているというのに、いやはや何ともロマンティックの欠片もない話題だ。

だが、これが美星のイイトコロなのだ。

この空気とか、自然体なところが。

 

「今じゃ、死んだ魂はアストラルの海に溶けていくって解ってるけどぉ~、こっちのがステキですね♪」

 

「そぅ?」

 

「はい♪こっちの方がロマンチックでステキですぅ。そうしたら何時でも何時までも天地さんを眺めていられますから~、きゃっ♪」

 

 いやんいやん、私ったら~と顔を抑えて首を振る美星に天地は苦笑する。

 

「もし・・・。」

 

「ん?」

 

 美星は動きを唐突に止め、だが顔を覆ったまま言葉を続ける。

 

「もし、私が大祖父様みたいに星になったら、天地さんは私の事を忘れないでくれますよね・・・。」

 

 ぽつりと彼女は、それまでとうって変わって静かに、そして小さな声で呟く。

その姿の、その儚さに、天地の力の影響で美星も不老化しているとは口が裂けても言えない。

 

「俺は鷲羽ちゃんみたく、うまく説明出来ないけど・・・成長とかって意味じゃなくてさ、人って何年経っても変わらないんじゃないかなって俺は思うんだ。良くも悪くも。生まれ変わりがあるとかなんとかってのも解らないけれど・・・何時でも何処でも同じような顔、同じような存在ってのがあるんだと思う。」

 

 人の魂はいずれアストラルの海に溶けていく。

だが、アストラルの海にもネットワークがあって、記憶だとか姿形とかは全くの別モノだが、固有のアストラルパターンをそのまま引き継ぐように持って生まれる人間は確かに存在する。

時に特異点と呼ばれたり、生まれ変わりと呼ばれたり、高位次元体と呼ばれたり。

天地がそれを知っているわけではない。

ないが、その言葉はある意味でこの世界、次元の真理を掠めていた。

 

「俺は皆が、この家族が好きだ。だから、きっと生まれ変わっても探すんだと思うな・・・それに・・・。」

 

「あ・・・。」

 

 天地が顔を覆っていた美星の手を握って、そっと彼女の顔から引き離す。

手を握ったまま、美星を見つめて・・・。

 

「何年、何百年、何万年たっても、人の心に残り続けるモノって絶対あると思う。だから、絶対に忘れないし、絶対に見つけられるんだって、俺は信じてるよ。」

 

 にっこりと微笑む。

微笑み合う。

きっと天地ならばそれが出来る。

超次元生命体に覚醒したからとかそういう意味ではない。

要は信じ合える絆がそこに存在するかなのだ。

 

「さ、冷えて来たし、家の中に入ろう?」

 

 握った手を引いて、天地は美星を促して家に戻ってゆく。

 

 

「あ゛~っ!美星ィ!何天地と手ェ繋いでんだよ!!」

 

「何をそんなにニコニコしてるんですの!キィィィィー!」

 

「魎呼お姉ちゃんも阿重霞お姉ちゃんも落ち着いてよ~。」

 

「やれやれ、五月蝿いわねぇ、手の1つや2つくらいで。」

 

「ノイケさん、お茶のおかわりを頂けるかね?」

 

「はい、ただいま。皆さん賑やかなのもいいですけれど、程々にしてくださいね。」

 

 

 時が過ぎ、世代が変わり、人がごっそりと入れ替わっても。

 

想いは受け継がれ、残り続ける。

 

ずっとずっと。

 

あなたがいてくれた事は私達のアストラルの中に。

 

 

 

 

【永遠の九羅密 美星こと、水谷 優子さんのご冥福を祈って】

 

 




第四期が決定したというのに・・・。

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