真・天地無用!~縁~   作:鵜飼 ひよこ。

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第144縁:再びのお嬢様。

(不思議だ・・・。)

 

 一路は一人、そんな事を思っていた。

何が?というと先程までの自分の振る舞いであった。

勢いをつける為に酒を呷ったが、実のそれほどアルコール度数がないのか、それとも樹雷人と地球人のアルコールに対する耐性の差なのか、それど酔いが回るという事はなかった。

それは幸いな事だったといえる、ではなく、今はあの樹雷史上に残る(兼光と全曰く)大暴言の件である。

一路自身、反抗期という言葉で片付けようとはしたが、実のところ反抗期というモノ自体がどんなものなのか、知識としてあってもよく解ってない。

事実、地球にいた頃は大人相手にあんな事を言った事はなかった。

それがどうだ?

 

(地球じゃ、そんな事を言えるような大人の話相手なんていなかったって事か・・・。)

 

 大人に何かを求めたり、期待もしなかった。

同じように大人も何処か機械的に流れ作業のように一路を扱うだけだった。

だから衝突する事にすらならない。

つまるところ、瀬戸は一路の憤りや鬱憤、今まで味わった悔しさ吐き出して投げつけるだけの大人の寛容さがのようなものが・・・。

 

(あった・・・の、かな?)

 

 寧ろ、逆に大人気なかったような気が・・・。

兼光も呆れていたし。

と、椅子に腰掛けて訥々と考えるだけの時間があった。

高い天井、落ち着いた調度品、それらに囲まれて一路はとある自分と面会する目的で、そこを訪れていた。

ちなみに他の者達はお留守番である。

NBだけがサポートロボットの権利(?)を行使してついて来る事を主張したが、例の武装解除結界という名の脱衣システム、この辺りは彼自身がそう発言したせいもあるが、その没収の為、記憶域のデータまで消去される事になり、"拘束"されていた。

アウラのNBに対する扱いは、拘束としか表現しようがないので、余り思い出さない事にする。

まぁ、NBも脳みそに何かを差し込まれた時には、『あ゛ぁ゛ぁ゛っ、新感覚やぁ゛ぁ゛ぁ゛っ!!』と、何やら楽しそうに見えた気もしなくもないので・・・。

ともあれ、一路が樹雷皇経由で頼んだせいか、宴の後、即日で面会出来るようになったのは僥倖である。

一路とて、決して忘れていたわけではないのだから。

この事に関して、全は一路の事を律儀なヤツだなぁと苦笑しながら送り出してくれた。

 

 部屋の外に誰かの気配を感じて、一路が姿勢を正すとすぐに扉が開かれる。

この扉もまたデカくて派手だなぁと思っていると、僅かに開いた扉の向こうから顔の半分だけを覗かせて、こちらを見つめてくる人物。

 

(らしくないなぁ。)

 

 その人物の涙目を見て、一路は心の中で苦笑する。

そしてすぐさま、その行動が自分のせいかと自嘲に変わった。

ゆっくりと椅子から立ち上がると、その場で腰を曲げ頭を下げる。

きっかり90度。

 

「芽衣さん!ごめんなさい!」

 

 第一声は決めていた。

彼女を助ける為とはいえ、軽率な行動だった。

あの時は咄嗟に行動してしまったが、地球の医学において一路は助かる術なくあの場で死んでいただろう。

治療をした鷲羽が言うのだから間違いはない。

 

「えっ?!はっ?!うぅ・・・。」

 

 深々と頭を下げ謝罪する一路の姿に驚いたのは芽衣の方だ。

一路が生きていた。

樹雷を訪れ、自分に面会を求めている。

生きてるのは全から聞いていたが、全てが驚きだ。

嬉しいには嬉しいが、一体どのような顔で会えばよいのだろう?

そう考えると怖さがこみ上げてきた。

素直に礼を言う?

死んでいたかも知れないのに?

自分を大切にしろと怒る?

身を挺して助けてくれた相手に?

脳内であぁでもないこうでもないと激論を交わしているうちに一路が来てしまった。

しかも、恐る恐るその姿を確かめるように覗いてみたら、向こうから頭を下げ、開口一番謝ってくるではないか!

そうなるともうパニックで、言いたかった事をも考えていた事も、何もかもすっ飛んでしまった。

どうしたらいいのか解らないまま、あぅあぅと呻きながら一路の傍まで近づき、微動だにしない彼を見下ろして・・・。

 

「いいから・・・そんなの。」

 

 頭を下げる彼の身体を恐る恐る起こす。

 

「生きてて、良かった・・・。」

 

 そう言って彼を抱きしめた。

月並みだが、他に何も思いつかなかったのだから仕方ない。

 

「ごめんね、もうあんな無茶はしないから。」

 

 留守番をしている皆が聞いたら、どの口がそれを言うのかと突っ込まれそうだったが、一路は次こそ上手くやってみせると心の中で誓う。

 

「本当ね?もう絶対にしないわね?」

 

 芽衣に強く念を押された事で、あぁ、やっぱり軽率な行動は良くないなと一連の出来事、それは瀬戸の事も含めて猛省しなおす事にした。

この辺の素直さが、一路の学習能力の高さの所以なのかも知れない。

 

「うん、しない。」

 

 そのやりとりがまるで幼子と、その母みたいで思わず吹き出しそうになったが、流石に不謹慎なので何とか堪える。

その証拠に、芽衣は一路の顔を真正面からまざまざと見つめ返してきた。

 

「・・・なら、いいわ。」

 

 何処か上から目線にも感じる言い方、そう地球にいた頃と同じ芽衣がようやく見られてほっとする。

芽衣は一路の顔を見て頷くと、一路が座っていた椅子の近くの席に腰掛ける。

 

「じゃあ、聞かせて?」

 

「何を?」

 

 芽衣が座るのを見て、再び椅子に座り直しながら聞き返す。

 

「全部よ。」

 

 きっぱりと即答する芽衣。

 

「アナタが今まで何を考えて、何をしてきて、そしてこれからどうしたいのかを。」

 

 酷く簡潔で、明瞭で、ストレート。

でも不思議と嫌味とは感じない。

 

「・・・少し、長くなるよ?」

 

「勿論。」

 

 芽衣だとて質問した事は沢山ある。

しかし、今は一路が"どういう人間"になったか、何を求めてこんな所まで来たのかが重要なのだと察した。

 

「じゃあ・・・。」

 

 




やっと出せたよ・・・何十話振りよ、この人。
さてさて、来月には樹選び編に入れるかなと思・・・いたい、です、はい。

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