「本当に大丈夫か?なんだったら掛け合って延期にしてもらうぞ?」
「うん、大丈夫。」
心配そうに声をかける全に一路は微笑む。
一路が倒れた翌々日の今日、彼は樹選びの儀式を行う事になった。
樹雷の最大行事のであるにも関わらず、異例の早さで行えるようになったのは、樹雷皇と瀬戸、柾木家と神木家の鶴の一声であると同時に、あの宴の席での件が他家にも伝わっていたからだ。
天木家の一部には反対の声もあったが、それはいつもの事なので半ば捨て置かれた。
それよりも、瀬戸相手に啖呵を切ったという事は、一路はいつもの四家選出の樹選びとは違って、そのどの派閥にも属さない、ある意味で自分達の家に引き込めるかも知れないという点が買われたと言わざるを得なかった。
「けど、何だったんだろ?」
「いや、俺に聞かれても・・・。」
頬を掻く全。
「前から時折、変な感覚はあったんだけど・・・。」
「あのな、そういう事はなるべく早く全員に言っておけよ。」
全はぐったりと肩を落とす。
「全の言う通りだよ、いっちー。習ったよね?一人のクルーの体調不良やミスは、全員の命に繋がってるんだよ?」
プーの言うのはGPにいた時に話した、"互いが互いの命綱"の考えだ。
「全くでゴザる。誰一人欠けて帰っても意味はないんでゴザるよ?皆で揃って帰るでゴザる。」
「そうだね、気をつけるよ。」
「いっちー、めっ。」
「めって・・・。」
アウラの怒り方に自分はそれ程子供ではないんだけどなと言い返そうとしたが、アウラの悲しそうな目を見て、ここは言い返すところではないと思い至り・・・。
「ごめんなさい。」
つまるところ、素直に謝るしかなかった。
(樹雷に来てから謝ってばかりだなぁ・・・て、いつもか。)
ともかく、ここは素直に謝り、素直に反省するしかない。
「まぁ、解ってんならいいけど・・・。しっかし、意外と似合うな、その服。」
樹選びという樹雷の伝統儀式に合わせ、今の一路は、樹雷風の衣装を身に纏っていた。
樹雷の人間ではないし、なりたいとも思っていなかった一路にとっては、衣装に拘りはなく普段着でも構わなかったのだが、阿重霞が着ていた事を思い出し、一度くらいはいいかなぁと思ったせいでもある。
和風と南国風のテイストがないまぜになったような服は、阿重霞が着ていた物程煌びやかではないが、これはこれでいい。
「あれだよね、馬子にもなんとかってヤツ。」
「自分で言ってどないすんねん。」
すかさず傍らにいたNBが突っ込みを入れる。
今回もNBは、NBだけでなく全員が留守番だ。
「えぇか、坊。こういうんはな?なるようにしかならん。そこんとこはいっくら考えても無駄や。せやから一番なのは、なってしまった後をどうするかを冷静に考えるんや。初動の早さの差は重要なんやで?」
時折、マトモ過ぎる程マトモなNBの発言に一路はしっかりと頷く。
「自分が考えて動くように、相手かて同じように考えて動いてるんやさかいな。」
「解った。」
向かい側から出迎えの者が近づいてくるのに会釈をしながら、一路はNBに声を返す。
「じゃ、いってきます。」
「いってらっしゃい。」でゴザる。」
皆の声を受け、一路は歩み出す。
「いっちまったなぁ。」
「しかし、本当に大丈夫でゴザるか?」
「信じるしかないよ。」
誰を?
その答えは一路が倒れた時間まで遡る・・・。
本当はこの倍長かったんですけれど、うまく区切れる場所がここしかなかったもので・・・(汗