真・天地無用!~縁~   作:鵜飼 ひよこ。

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第148縁:彼の中の方程式。

 一路が倒れてすぐさま運ばれたのは病院のような治療施設ではなく、全やプー達がいる部屋だった。

彼を運んで来たのは、全の見覚えのない、しかし何処の誰の手の者か一目で解る者達だった。

一路に監視がついている。

別に驚く事ではない。

それが一路の行動を害する者達ではないであろう瀬戸付きの女官ならば尚更だ。

 

「あぁ、そこ、そこにゆっくりと、ゆっくりとだよ?寝かしておくれ。」

 

 それよりも驚いたのは、その女官に指示を出していた人物の方だった。

 

「あぁ、NB。部屋の中に簡易結界を張りな。出来るんだろう?」

 

 左右に張り出した特徴的な赤髪、一言で形容するとカニ頭、更に要約すると・・・。

 

(何故、鷲羽様が樹雷に・・・。)

 

 女官に次々と指示を出しているのは、全が地球で見た白眉鷲羽その人だった。

更に突っ込むとしたら、"ナース姿"の白眉鷲羽だが。

彼女は、全と目が合うとまた会ったわねと言わんばかりにウィンクしてみせる。

 

「体調が悪くなったのは樹雷に来てからで間違いないね?」

 

 一路を心配する周囲の者に開口一番で確認を取る。

 

「そういえば時折、ぼーっとしてたような・・・。」

 

「倒れた時は頭を抱えて急に痛いって苦しみだしたわ。」

 

 女官達の最後尾から今にも泣きそうな顔で入くるとそう口にしたのは芽衣である。

その姿は半ば冷静さを失っており、挙動不審そのものだ。

 

(まぁ、目の前で倒れられるの二回目だしなァ・・・。)

 

 そういう全も、もしこの場に一路を連れてきた者の先頭に鷲羽がいなかったら、慌てふためいて人の事をとやかく言えなかっただろう。

逆にインパクトの大きさと技術の確かさという信頼から、変に落ち着いてしまってかえって浮いていた。

他の者は、彼女が鷲羽だと気づいているのやら、いないのやら。

まぁ、とりらにしろ仮に気づいていたとしても、ここは黙っているのが得策である。

 

「あー、えー、女医さん?看護師さん?一体、なんでいっちーはこんな事に?」

 

 お陰で、何と呼んでいいのやら。

 

「ん?あー、そろそろかとは思ったのさ。NB?」

 

「終わっとるで。」

 

 そう返答するNBは、例のアンテナのような端末を浮遊させたまま転がり出る。

その姿を確認して、鷲羽は大きく息を吸い込んだ。

 

「アンタ達!覗きはいい加減にしなさい!めっ!!」

 

 室内中に響く一際大きな声に、他の全員が耳を塞ぐ。

 

「んー、良し。あー、"水鏡"アンタもだよ。」

 

 "水鏡"という単語で、一体何が除き見していたのか全には解ってしまった。

いや、全だけではないだろう。

恐らく芽衣も気づいたはずだ。

 

「樹がいっちーを?」

 

 思わずそう漏らした事からして、気づいたのだろう。

全は更に溜め息をつく。

 

「なんでまた・・・。」

 

「ん?誰も気付かなかったのかい?」

 

 一様に驚く皆の姿に鷲羽は顔を顰める。

 

「アンタ達ね、"言わないから大ごとじゃない"わけじゃないし、"聞かない事の全てが優しさ"なワケじゃないんだよ?そんなぬるま湯みたいな"友情ごっこ"がやりたいなら、他のヤツとやりな。」

 

 ピシャリと一喝しつつ、女官達が持って来た機材で一路の様子を診る。

いつの間に取り出したのか、鷲羽の手には見慣れないボードのようなものまで握られていて・・・。

 

「とうとう、生体強化レベルが5を越えたか・・・賢皇鬼を起動させた時点で、見当はついてたケド・・・。」

 

 そんな鷲羽の言葉に真っ先に反応したのはプーだった。

 

「5?!そんな!GPの授業の時は4弱くらいだったはずです!」

 

 確かに強化レベルはそのぐらいで、一路はその後再調整はしていないはずだ。

 

「理由は簡単。アンタ達が不甲斐ないからさ。時折、このコの動きや勘が鋭くなるような事はなかったかい?」

 

 その言葉と共に周囲の顔を見回して鷲羽は頷く。

そして確信する、どうやら何かしらの心当たりはあるようだと。

 

「その度に、追い詰められる度にこのコは願うのさ。"もっと力を""もう何も失う事がないような力を"ってね。その意志のチカラがこのコの肉体を凌駕して作用する。このコが望むように精神が肉体にね。」

 

 どういう事だろう?

誰もが鷲羽の言っている意味が解らない。

 

「一路は人の"本質を見抜く"。それは宇宙に出る前からあった傾向だった。けれど、それが果たして"本当の一路の能力"かどうかは確証が持てなかった。だから1つだけ実験をしたんだよ。て、あぁ、勿論、一路に対して悪影響はないよ?」

 

「それがいっちーの生体強化?」

 

「と、賢皇鬼だね。本来なら他の生命体と同じ様に生まれるまでのエネルギーと時間がある程度必要なのさ。もっと長い時間とエネルギーがね。」

 

「だからどういう事でゴザる?」

 

 段々と混乱してきたのだろう照輝の肩にプーが手を置いて首を振る。

 

「だから、何がいっちーの能力なのか仮説を建てて検証してみたって事だよ。但し、いっちーの日頃の生活に支障が出ない範囲でね。」

 

「ま、早い話がそういう事で、で?結論は何だったんです?」

 

「あはっ♪わっかんない♪」

 

 てへっと舌を出して笑う鷲羽に皆が盛大にズッコケる。

コレだ、この人はこういう人なんだ、瀬戸様と同じ部類の人間だ。

そうすぐに思い至った分、全だけは他の者達より素早く立ち直る。

 

「つまり、坊の直感は人の本質とか、善意やら悪意やらを見抜ける。それは有機体、精神体関係なく作用する。簡単に言うと、下手をすればアストラルにも触れられるっちゅーコトやろ?だから、賢皇鬼と繋がれてガーディアンシステムという形で起動出来たし、求める存在の位置もなんとなく解る。勿論、悪意ある攻撃もな。」

 

「成程。」

 

「む、難しいでゴザるな。」

 

「え?じゃ、じゃあいっちーの頭痛って?」

 

「樹と繋がりそうになった、か。」

 

「おやおや、繋がるってのは大袈裟だよ?別に一方的なアストラルリンクが出来るわけじゃないサ。そんな事が出来たら一路一人で樹雷征服出来ちゃうじゃないのサ。」

 

 あ、それもそうだと皆が頷く。

第一、それが出来ないから一路はこうして倒れたわけなのだから。

 

「今回はこのコがどんどん力を拡張しようとした弊害だろうさ。それもこのコの能力の一部でしかないのかも知れないし、それは解らない。」

 

 そう前置きして。

 

「ただね、覚えておきなよ?もし、このコがこうやって強制的に自分の身体能力を強化出来るとして、このまま"一人だけで"戦う覚悟をし続ければ、じゃあ、どうなるだろうね?」

 

 一般的に強化レベルというのは個々の肉体や精神の資質から設定される。

例えばGPの場合、戦闘行為をしない事務職員の多くは大体強化レベルは2前後。

これは主に延命、疾病対策等の措置の為だ。

戦闘も想定される刑事職の一線級で4~6。

6はそれこそ一級刑事のレベルで、このクラス以上の強化レベルを持つ者は大抵いずれかの軍事的な職や地位にある者が大半だ。

それはそれで素晴らしい事かも知れない。

但し、一路の心身がそれに耐えられればの話だ。

心身に見合わない生体強化は精神崩壊、つまり廃人となる可能性がある。

鷲羽の言葉は、一路がその線を越えてしまうかも知れないという意味だ。

 

「成長速度に見合うだけの根性を見せるこったね。このコが"樹を選んで"帰って来るなら余計に。」

 

 本来の樹選びの儀式である樹に選ばれるでなく、樹を選ぶ。

もし、一路の能力が共感に根ざすものならば、一路はある程度任意に樹を選ぶ事も出来るかも知れない。

その事実に皆の表情が変わる。

 

(いい顔つきになったじゃないのサ。いい友達が出来て良かったね、一路。その調子でおやり。)

 

 皆の覚悟を促すつもりで、あえて鷲羽はそう述べたのだ。

一路の能力についてはおおよその予想はついてはいたが、事この生体強化の変動に関しては一路の精神と肉体とのバランスが崩れないように随時制限、微調整が出来るようにしてある。

危ない事など何ひとつ無かったりするのだ。

 

(協調、直感、他者の心に寄り添える能力・・・か・・・。)

 

 

 


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