真・天地無用!~縁~   作:鵜飼 ひよこ。

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第149縁:未来を決める回廊にて。

「随分と落ち着いているな。」

 

 巨大な回廊の中を歩きながら、一路は隣にいる阿主沙にそう声をかけられた。

一路の反対側には瀬戸がいる。

三人は樹選びの儀が行われるという場所へ赴く途中だった。

 

「前にも誰かに言われた事がありますけど・・・。」

 

 あれは何の時だっただろうと思い返した時、一路の頭に浮かんだのは和装の天使(仮)の姿だった事に笑みがこぼれる。

両隣の二人にまさか一度死んだ時なんて言えない。

というより、信じてもらえぬだろう。

 

「落ち着いてるんじゃなくて、開き直ってるというか?どうしたって逃げられない状況なら、後悔しないようにやるしかないですからね。それに樹選びの儀って、聞いた話だと、僕自身は特別何かするわけじゃないって。行ってみなきゃ解らないって聞いたので・・・。」

 

「確かに何もする事はないわねぇ。お友達探しのサロンみたいなもんよ、"気の合う樹"がいるかどうかの。」

 

 気の合う樹とは・・・。

 

「・・・瀬戸、まさかそれはシャレのつもりか?」

 

 阿主沙が残念そうに一路の頭越しに瀬戸を見る。

 

「あら、程よく脱力できたでしょう?」

 

「何処かだ、見ろ、呆れておるではないか。」

 

 何と哀れな子羊よ、と言わんばかりに一路を見下ろす。

 

「い、いや、あの、何というか・・・。」

 

「何だ?」「何かしら?」

 

「え、えーと・・・樹雷皇様は普段は意外と砕けた感じで、瀬戸様と仲が良いんだなぁ・・・なんて、思った・・・り?」

 

 二人の威圧感に押されて仕方なく白状すると、阿主沙はこめかみを押さえ、瀬戸はニンマリと笑う。

 

「当然だ。四六時中、眉間に皺を寄せて厳つい顔をしておれというのか?いいか?オマエは知らんだろうが、ワシは好きで樹雷皇になったわけでも、樹雷皇になりたかったわけでもない!」

 

「え?!そうなんですか?!」

 

「好き好んでこんな不自由な生活に誰が身を投じるか!それもこれも、そこの"クソババア"の抜け目ない陰謀と・・・。」

 

 少女の微笑む声が聞こえた気がした、

 

「陰謀と?」

 

 一瞬言いよどむ阿主沙に一路は首を傾げる。

そんな事より、本当にクソババアって呼ぶんだと思いながら。

 

「100%陰謀だ。」

 

「それでもしっかり樹雷皇やってくれるんだから偉いわよねぇ、"阿主沙ちゃん"ってば。」

 

 事の顛末のほとんどを知る瀬戸としては、おかしい以上に愛おしくて仕方なかったはずだ。

 

「そのやり口がいかんから、この者にまでクソババアと言われるんだ。見てみろ、この人を騙す傍からバレてしまいそうな純朴そうな顔を。」

 

 何やらエラい言われようだが、クソババアと述べた事によって、何故だか阿主沙を始め樹雷の人々の信頼を集めてしまった事の方が一路には驚きだ。

 

「あら、アタシってば何て罪作りな女なのかしら、これも美人の宿命というものなのね。」

 

「シレっと自分で言うな、自分で。オマエも瀬戸に何か言ってやれ!ここにはワシ等しかおらんから何を言っても許す!」

 

 唐突に阿主沙に話を振られても困るのだが・・・。

 

「え?あ、その、瀬戸様が美人なのはそうだと思いますけど・・・。」

 

 白磁器のような白く美しい肌、鋭く妖艶な瞳、そしてそこに映える唇。

どこをどうとっても美人である事は否定出来ない。

 

「あら、本当、"正直"ねぇ。」

 

 一路の発言に対して、あっさり言い放つ姿に阿主沙は言葉が出ない。

 

「お二方共、本当に仲がいいんだなって羨ましく思います。」

 

「う゛・・・あー、瀬戸よ?ワシは今、少しだけこの若者に樹選びを勧めた事に良心が痛んだぞ?」

 

 オマエはどうだと話を振る。

 

「あら、奇遇ね、アタシも少しだけ、何故アタシの部下までもが彼を庇うのか解る気がしてきたわ。」

 

「それは何時もの事だろう!!解ったか?瀬戸はこういうヤツなのだぞ?今のうちに学習しておけ。」

 

 その言葉の後に、『学習してもどうにもならん時はならんが』と付け足す事も阿主沙は忘れない。

 

「・・・?あの、学習も何も、"この瀬戸様"とお会いするのは初めてですけれど?」

 

 沈黙。

もし、この場に他の誰かがいたら、コイツは何を言ってるんだ?

こんな鬼ババアが何人もいてたまるか!

果ては、あぁ、とうとう・・・君は疲れているんだ

等々・・・。

ありとあらゆる言葉で否定されるだろう。

しかし、そんな言葉は終ぞ二人の口から出てくる事はなかった。

 

「やはりそうか。」

 

 と、阿主沙は一路が瀬戸と鏡を正確に見分けている事と確認し頷き、そして彼に"も"何かしらの才能が備わっているのだという結論に達する。

 

「意外とあっさりバレちゃったわね、オンナのヒ・ミ・ツ・♪」

 

 瀬戸、いや鏡は新しい玩具発見とばかりに微笑む。

 

「そういえば、先程から瀬戸を"様"付けで呼んでおったしな。」

 

 宴の席で対面した時は"さん"付けで呼んでいたのを思い出した。

対外的な場ならまだしも、この場では様をつける必要もないはずだ。

 

「檜山くん?女の秘密はあんまり口外してはダメよ?」

 

 開いた扇子で口元を隠しながら呟く鏡を見て、あ、やっぱり違うやと一路は感じる。

一路が今まで知り合った大人の女性と(そんなに多くはないが)比べると、今この場にいる瀬戸の方が少し若め(失礼)というか、少々ノイケに似ている感じがする。

お姉さんタイプと言えば良いか。

一方記念館や宴の席にいた瀬戸はどちらかというと、鷲羽やアイリに似ている。

お母さんタイプと感じられた。

どちらがどちらというのもアレだが、一路的には後者の瀬戸の方がより親近感がある。

 

(顔が同じって事は姉妹なのかな?あ、でも、医療技術が凄いからそうとは限らないのか・・・う~ん・・・。)

 

 興味という点ではそのくらいである。

 

「あ、はい。秘密がある方が女性は魅力的に見えるっていうアレですね?」

 

 何かの本?アニメだっただろうか?

昔、そんなフレーズがあったような記憶がある。

 

「あらま、そんなの何処で覚えたの?解ってるじゃなぁい。」

 

(・・・・・・不憫だ。)

 

 そんなやりとりを尻目に、阿主沙は結局こうなってしまうのかと胸中で嘆く事しか一路にしてやれる事がなかった。

 

 

 

 


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