真・天地無用!~縁~   作:鵜飼 ひよこ。

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とりあえずは、ここで一区切りで・・・。


第159縁:君がいるから。

「いやぁ、結果だけを振り返ってみるとみるとだよ?全編に渡っていっちーらしさが大爆発した旅だったね。」

 

 満面の笑みと牙を見せてプーは笑う。

 

「"常"にそうでゴザるからなぁ、いっちーは。特に樹選びの儀式で樹なんていらないと宣言するいっちー、拙者も見たかったでゴザる。」

 

 一路に聞いた事の顛末を面白可笑しく言い合う二人は、宇宙船の操縦席にいた。

海賊船に突撃した部分の損傷をはじめ、全ての箇所は樹雷の技師達によって修復されている。

あとは艦長である一路を乗せて、彼の宣言通りの行先に向かうだけだ。

 

「ブレのない一貫性と頑固さはいっちーのウリだし、ま、いいんじゃない?里帰りした時の土産話が増えるばかりで僕としてはいいけど。」

 

「確かにいっちーの頑固さは拙者の石頭も負けるでゴザるな。でも、そこがまたいっちーの強さで、魅力なんでゴザろうなぁ、アウラ殿?」

 

 さらりとアウラに振るところが憎らしい。

 

「だからついて来たんでしょう?私もあなた達も。」

 

 と、こう返されてはプーも照輝も顔を見合わせて笑うしかない。

そして、二人とも揃って諸手を上げる。

 

「降参、降参。結局、性別も生まれも関係なく僕等も同類ってコトだわ。」

 

「まぁ、これが俗に言う"惚れた者の弱味"というヤツでゴザろうなぁ。」

 

「仕方ないわ、いっちーだもの。」

 

 あっさりと許容してしまうアウラにこれまた苦笑するしかない。

 

「流石。正妻候補の貫録でゴザる。」

 

「ツーと言えばカーってかぁ?ワシ、ケツが痒くてたまらんわ。」

 

「NBのお尻って何処なのさ。」

 

 笑いながら突き合う二人と一体、微笑むアウラ。

いつもの日常が戻ってきたように感じる。

しかし、そこには過去にあったような日常はないのだ。

恐らく、この帰還の間が最後、GPアカデミーに戻れば恐らく元のような生活には戻れないだろう。

戻れたとしても表面上のものでしかない。

 

「遅くなってごめんっ!」

 

 そんな事実を抱きながら笑い合う輪の中に、慌てた様子で一路が駆け込んで来た。

 

「思ったより樹雷の人と話し込んじゃって。」

 

「いいって、いいって。別に時間制限のある帰路じゃないしね。」

 

 出来ればこの時がいつもまでも・・・そう願わずにはいられない。

だが、その時を自分たちの手でもう一度作り出す為には、それぞれがそれぞれの場所で成すべき事をしなければならないのだ。

 

「では、艦長殿?行き先は"何処"にするでゴザるか?」

 

 それでも確かめずには、聞かずにはいられない。

そして出来るならば、彼の口から彼の故郷の名前を聞きたかった。

 

「アカデミーへ。」

 

「本当に、それでいいんだね?」

 

 やろうと思えば、一路とアウラを選択肢の一つであった地球に捨ててくる事も出来る。

それを選んだとしても・・・プーも照輝もその準備は一応してきた。

・・・万が一の可能性だが。

 

「うん、"帰ろう"。」

 

 やはり徒労に終わったかと胸中で溜め息をつく。

 

「じゃ、皆で怒られに帰りますか。」

 

「何というか、本当に最後の最後までいっちーはいっちーでゴザったなぁ。」

 

「だねぇ。」

 

「ん?ナニソレ?」

 

 一体、何の事?ときょとんとする一路の表情を見て、他の全員が笑う。

 

「え?なに?なんなの?」

 

「まぁまぁ、これからアカデミーに戻って、さっさと卒業して出世してだ、偉くなって特権バンバン使って、いっちーのお友達を釈放してみせようじゃないのさ。そういう話をしてきたんでしょ?」

 

「え?あ、うん、そんな感じかな。」

 

「樹雷の狗と思われるのは癪でゴザるが。」

 

 たとえ灯華の事を周りが知らなかったとしても、樹雷寄りの人間と周囲はとるだろう。

派閥のようなモノだ。

 

「ま、少数民族だったり、政治的基盤を持たない僕たちには出世の後ろ盾は元々ないんだ。この際精々、コネでもなんでも使わせてもらうとしよう。」

 

「あ~、嫌だ嫌だ。嫌な大人の世界でゴザる。」

 

 結論が出たとこで、はい、解散とばかりに二人は自分達の席に向かう。

 

「それでも、叶えたい事があるのでしょう?」

 

 先に席に着いた二人と同様にアウラも一言だけ一路に告げた後、答えを待つことなく自分の席に戻る。

 

「あー、何だ、ワシとしては、だ。皆もちっと子供でいてもエエと思うんやけどなぁ。」

 

 NBは誰ともあえて視線を合わせる事なく呟く。

 

「・・・それに見合ったもんの大きさに成長せなアカン・・・か。せやな、ほなワシも精々サポートさせてもらうさかい。」

 

 元よりそれがNBのアイデンティティである。

ならばとことん一路についてゆくまでだ。

 

「ありがとう。それじゃあ、アカデミーに向けて出発しょう!」

 

 行きと同じように艦長である一路が高らかに宣言すると、皆が一斉に行動を開始する。

その姿を眺めながら、一路は己の腰にさした"二振り"の木刀を撫でるのだった。

 

 

 

 一路の艦を見送る阿主沙はやれやれと溜め息をついた。

既に艦の機影は、小さな光点となっている。

 

「ここで溜め息なんて、老けた?」

 

 その傍らには瀬戸。

鏡ではない方の瀬戸だ。

 

「若い頃からオマエの相手をしていればな。」

 

 そう嫌味を返すのが精一杯だった。

だが、問題はそこではないし、本題もそこではない。

 

「今日付けで銀河連盟とアイリに伝えておけ。征木 阿主沙 樹雷の名において、檜山・A・一路に外交使節員同様の外交特権の付与を求めると。」

 

「あらぁ、大盤振る舞いねぇ。」

 

 早い話、一路は樹雷の人間ではないが、樹雷国民同様の扱いと外交官相当の扱いをするので、無闇やたらに絡んで来るんじゃねぇ。という事である。

 

「樹を選ばなかったのだから仕方なかろう!アヤツを護るべき樹がないのだ!おまけに・・・おまけに"あんなモノ"まで持って帰ってきおって!」

 

 一路が樹選びの儀式を終え、阿主沙の元へ戻ってきた時、行きとは違った点が1つだけあった。

しかし、その場にいた三人が三人とも、その意味すらも解っていながらあえて触れる事はせず、口にもしなかった。

一路の言い分からそうなのだろうと容易に理解出来たからである。

だが、それが何を意味するのかは、樹雷のほんの一握りの者しか解らないだろう。

その為にも解りやすい措置とスタンスを示さなければならなかった。

樹雷の人間にはなれない、そう一路が言ったせいでもある。

 

「そうよねぇ、まさか"天樹製の木刀"を持って出て来るなんて、予想もつかないわ。」

 

 一路はその腰に朱色のグラデーションが入った木刀をさしていた。

一見、ただの綺麗で派手な木刀にしか見えないが、この樹雷の星自体ともいえる天樹製なのだ。

天樹は切り出すとその色を朱へ、朱から緋へと変える。

樹選びの儀式の門へと伸びる道の柱、勿論、門もだが、皇宮のありとあらゆる所で築材として天樹は使われているのだ。

木刀という用途を考えれば、硬度も相当なものだろう。

身体強化した体を以てすれば、宇宙船の外壁程度ならば破壊するのも容易と考えられる。

 

「瀬戸よ、オマエならワシの考えてる事くらいお見通しだろう?」

 

 ふいに阿主沙が声をひそめる。

 

「あれが・・・もし・・・。」

 

 瀬戸も同様に声をひそめて阿主沙の言葉に応える。

 

「もしも"マスターキー"だったら・・・。」

 

 マスターキー

樹と対をなす、その名の通りの鍵。

優先命令権者の証。

では、天樹で作られたアレがマスターキーだとしたら、"何の鍵"なのか。

一路は、樹選びの儀式で樹を選ばなかったのだ。

それとも、そうではかったとでもいうのか。

想像を膨らませるのすら恐ろしい、恐ろしいのだ。

しかし、それ以上に阿主沙には恐ろしいと思う事がある。

 

「もう・・・誰の"喰い物"にはさせん。」

 

 それは自分が樹雷皇になるにあたって、己に課した一つの誓いのようなものだった。

かつて、自分には樹雷という国の構造、呪縛から救い出だす事ができなかった人。

それくらいに阿主沙の中では、天木 魅月という女性は、少年期の精神的支柱だった。

勿論、今傍らにいる神木 瀬戸という女性も。

 

「優しいのね、阿主沙"ちゃん"は。」

 

 穏やかに微笑む瀬戸の顔を見て、鼻であしらうと、そこではたと阿主沙は思い出したかのように彼女をまじまじと見つめる。

 

「?」

 

「一路は・・・地球出身なのだから、ここはひとつ"先輩"を紹介してやるべきだな。すぐに呼び戻すか、さもなくば連絡を寄越すように伝えておけ。オマエの事だ、当然のように居所くらい知っているのだろう?」

 

 半分は老婆心、半分は驚かされた意趣返しも含めてニヤリと笑う。

 

「やっぱり、阿主沙ちゃんは阿主沙ちゃんだわ。」

 

「オマエに言われたくないわ、クソババア。」

 

 ようやくいつもの調子が出てきたとばかりに吐き捨てる。

 

「それと約束だからな、漁火灯華を監視付きで釈放するように伝えろ・・・教育係も必要だ。そうだな、"麻真"なら手も空いているだろうし、上手くやってくれるだろう。」

 

 娘である砂沙美の元乳母だった女性の名を挙げ、ようやくひとごごち着いた阿主沙は胸を撫で下ろした。

 

 




何時もの章間のお休みを頂いて、もう少し続行したいと思っています。

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