真・天地無用!~縁~   作:鵜飼 ひよこ。

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第161縁:処罰。

「艦の係留を確認。」

 

 

「機体損傷等、船体の損傷特にナシでゴザる。」

 

 帰って来た。

帰って来たという表現で正しいのだろうか?

そんな事が一路の脳裏に横切る。

 

「もう下船可能よ?」

 

「ほな、坊行くで。説教されにな。」

 

「うへぇ、NB嫌な事を思い出せないでよ。」

 

「プー、現実逃避は良くないでゴザるよ。」

 

 そんな事を言い合いながら座席を離れ、下船する為にハッチに向かう。

宇宙船の無断使用の件は最初から自分に責任がある。

出来る事なら処罰は自分だけで。

それは一路が瀬戸の前で話した通りだ。

そういう心構えをしていた一路をハッチが開いて出迎えたのは、案の定アイリと美守だった。

表面上は怒っているように見えなかったが、そんな事はどうでもいい。

まずは先に謝らなければ・・・。

 

「あのっ!」

 

「檜山・A・一路、理事長室へ来なさい。」

 

 一路の言葉を制してアイリがそう告げる。

もう逃げる事は許さないと言わんばかりだ。

勿論、逃げようなどとは一欠片たりとも思っていなかったが。

 

「いっちー・・・。」

 

 最初に自分に声をかけたのは誰だっただろうか・・・ただ・・・。

 

「みんなありがとう。先に戻ってて。」

 

 微笑んで言ったつもりだったが、ちゃんと出来ているだろうか?

あぁ、思えばいつも自分はこんなだな、"さよなら"すらマトモに言えなくて・・・なかなか成長なんて出来ないもんなんだなと自嘲するしかなかった。

 

 

 

 理事長室に移ると、そこには心配そうな顔をしてリーエルが佇んでいた。

 

「大丈夫?怪我しなかった?ご飯は?ちゃんと食べていましたか?」

 

 最初にかけられた言葉がこんな質問の嵐だったせいで、一路の心は尚更痛む。

嘘は良くない事だなんて、あれほど解っていながらもついていたクセに。

 

「何、親戚のオバちゃんみたいな事言ってんのよ。全く甘いんだから。で、アナタは?一応、申し開きを聞こうじゃないの?」

 

 今にもぺたぺたと一路の身体に触れてチェックし始めそうなリーエルを尻目にジロリと一路は睨まれる。

 

「ありません。今回の事は僕一人の独断で、皆を無理矢理巻き込みました。何故ならここに来た理由は最初からこれが目的だったからです。独断という根拠はそれです。」

 

 端から一人で行う計画でアカデミーに入学したのだから、ここで出会った皆と行動を共にしたのはあくまでイレギュラーだったのだと主張する。

これも一人で考えた結果、用意していた台詞だ。

皆には、このアカデミーで成すべき、叶えるべき夢がある、理想がある。

これ以上、それの邪魔はしたくはない。

 

「はぁ・・・なんでこぅなるのかしらね?」

 

 何の弁明にもなっていない一路の言葉に、溜め息をついたアイリは行き場のない気持ちを美守に振る。

 

「あら、責任の所在をたらい回しにする方々に聞かせてあげたいと思う潔さだと思いますよ?」

 

 子供の方がよっぽど責任感と危機感を持っていて、筋の通し方を知っていると美守は苦笑せざるを得なかった。

 

「・・・若気の至りってヤツなのかしら?」

 

「貴女の学生の頃と何処か違いがありまして?」

 

「ぐぬぬっ、そう言われるとミもフタもないわ。」

 

 呻き声を上げるとアイリは自分の机の上の手元で何かを操作する。

 

「わっ?!」

 

 突然、一路の目の前にB5サイズの画面が表示されたので、思わず声を上げた。

男性の顔写真のついた履歴書のような・・・。

 

「何ですか?これ?」

 

 そう尋ねる一路の目の前に次々と同じようなモノを重ねて現れる。

顔写真のついた画面がどんどんと。

 

「『終始勤勉、真面目だった彼がそんな事をするわけがない。』『局地の田舎から来てストレスが溜まっていたのではないか?彼が戻ってきた後にカウセンリングをするべきだ。』『彼の不断の努力に少なからず敬意を持っていた。今回の事も何か理由があるに違いない。』。」

 

 朗々と声を上げるアイリ。

 

「『彼はこんな事をしでかす前にもっと周囲に相談をすべきだった。それをさせないような理事長の圧力があったんじゃないのか?』『どうせ理事長かなんかがしょうもない事を言ったに違いない。』誰だぁ、こんなの書いたヤツァ!」

 

 がーっと一人で憤慨するアイリに対して、一路は全く展開についていけない。

 

「えぇと・・・?」

 

「有り体に言うと嘆願書ですよ。あなたの処分の軽減を求めるね。日頃の行いが良いと、こういう事もあるのですよ?逆に日頃の行いが悪いと・・・。」

 

 視線を美守の横で、嘆願書を読みながら吠えているアイリに移されると一路も思わず見てしまう。

 

「こほん。嘆願書と本人の反省、それと樹雷からの一筆も来てるし・・・まぁ、これはこれで越権的で問題なんだけど、まぁ、それは置いといて。檜山・A・一路。当分の間、謹慎の処分を下します。監察官の元、カウンセリングと授業の補習を受ける事。監察担当はそこのうずうずしてるリーエルでいいわ、もぅ。」

 

 怒涛の成り行きを一度で理解する事は出来なかった。

一体、それは、つまり・・・?

 

「基本的にお咎めなってコト、バンザイ♪」

 

 混乱している一路を見越して、簡潔明瞭に告げる言葉に一路はようやく事態が飲み込める。

 

「・・・・・・僕は・・・。」

 

 嘆願書だと言われた数々の電子板を見渡してみる。

一度や二度見た顔、授業がずっと一緒だった顔、全く知らない顔。

 

「・・・僕は、ここにいたんだね・・・ちゃんと見てもらえてたんだ・・・。」

 

 自分が確かにここにいて、皆と同じ時間を過ごしたという事実。

一人で悩んでいたつもりでも、気にかけてくれた人がいたという事。

地球にいた時には、ほとんど味わえなかったと感じていた居場所があった事が素直に嬉しかった。

それこそ泣きそうなくらい。

自分でもよく泣かずに耐えていると思う。

 

「一路クン・・・。」

 

 ぎゅぅっとリーエルは一路を抱きしめる。

高級絨毯のような肌触りだ。

 

「同期の桜、一生モンなんだから大事にしなさい。あー、それから船の使用申請と申請書不備による再提出の遅れを含めた反省文を後で提出しなさい。それで船の無断使用の件は辻褄を合わせるから。」

 

 何処かで責任の所在と落としどころをつける為には、それくらいはやもえない。

温情も温情である。

 

「あら、理事長、こんな嘆願書もありますよ?」

 

 ついと美守が自分の視界に入った電子板をアイリに寄越す。

 

「ん~?なになに?『授業の間、"あの"天南先生の言動に耐えて、付き従っているだけで非凡としか言いようがない。檜山君の器の大きさは、将来のGPにとって必要になるかも知れない。』・・・・・・どう判断していいか迷うとこだわ。まぁ、確かに凡人じゃムリよねぇ・・・。」

 

「あ・・・。」

 

 ここに至って、この話題が出て、ようやく落ち着きを取り戻した一路は一つ言い忘れていた事があったのを思い出した。

 

「あの・・・静竜先生の事なんですけれど・・・。」

 

「船は"使用申請が出ていた"のだしぃ?船の使用申請の不備と、備品の管理問題はまた別のハ・ナ・シ。」

 

 打てば響くような、ある意味取り付く島もないアイリの容赦ない発言に一路は閉口する。

完全に静竜をフォローする機会を逸してしまった。

 

(ごめんなさい、先生・・・。)

 

 これが大人と子供の責任の取り方の差なのかと心の中で謝るしかない。

いや、本人に向かって謝りに行ってもいい。

 

「あのね、庇いたい気持ちは解るけど、全部が全部どうこう出来る問題だと思ってはダメ。アナタは子供にお毛毛が生えたようなもんで、あっちは大人、しかもいいトシした人の親のうえに教師なのよ、"アレ"でも、解る?」

 

 重ね重ね返す言葉も無かった。

しかし、言い方がやはりアイリ、少々下品だ。

 

「コマチさんの事もあります。それ程重い罰は下りませんよ。安心しなさい。伝統と規則に則ったものにします。」

 

 にこやかに美守が告げた時、一路以外の全員の心の声は全く一緒だった。

すなわち・・・。

 

(トイレ掃除ね。)

 

 

 

 




何処までもアレな人達・・・。

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