「で、つまりどういう事?」
なんとかNBに説明をしてもらったのだが、難解な専門用語とやはり例のピー音が邪魔をして頭に入ってこない。
『あー、まぁ、早い話、"この銀河にいる生物"で、一定の条件下なら基本誰とでも連絡がとれるってコトよん♪』
降ってわいたような聞き覚えのある声と揺れるカニ頭の映像。
『理論上、やろうと思えば秘匿通信やR18な通信も聞けちゃうケド、どうする?』
どうするとはどういう意味だろう・・・ではなく、問題はそこではない。
「鷲羽"さん"!」
『はーい、鷲羽"ちゃん"ですよー?いいですかぁ?鷲羽"ちゃん"、さん、はいっ!』
「わ、わしゅう・・・ちゃん。」
『はいはいぃ~♪よく出来ました♪』
「はぁ・・・どうも。」
『本当によくやったね、一路。アンタは一つやりきったんだよ。』
温かい声が投げかけられる。
「でも・・・。」
どうしてもそれを素直に受け止められない。
『デモもストライキもないよ。アンタは挑戦した、諦めなかった。だから結果が出た。当然の事じゃないのさ。たとえ一人だけの力じゃなくとも、今はそれが"アンタの力"なんだ。』
力・・・自分の能力、あの時、樹選びの間で"天使さん達"とかわした言葉を思い出す。
「貴方の力は感じる力、繋ぐ力、それは人の心に触れられる能力。」
その人の声はまるで歌のようだった。
「本来なら、生きとし生ける者が持ち得るだろう力、持っていただろう力。」
そして極上の楽器のようでもあった。
「皆が持てるのなら、成程諍いというものもなく、人はその存在を"次の次元"へと昇る事が出来るかも知れない。」
自分をここまで導いた天使の呟きにとうとう耐え切れなくなった一路は口を開く。
「・・・・・・そんなの・・・無理だ。」
一路は知っている。
理解しようと思っても、どうやっても埋められない溝、価値観があるというのを。
それを身を以て体験したし、自分一人の力はとてもちっぽけなものだと痛感してきたからだ。
「そうでしょうね。しかし、貴方は"挑戦する事それ自体は諦めない。"」
当然だった。
それすらもやめてしまったら、人付き合いですら不可能なものになってしまう。
傷つくのを恐れるのは自衛として問題はないが、その"リスク"を想定するだけで身動きが取れなくなったらおしまいだ。
「僕は・・・僕は、どうすれば、何をすればいいんでしょうか?」
自分の能力だと突如突きつけられたモノには、特に興味はなかった。
使い方もよく解らないし、使いこなせるものだとも思わない。
というより、使えたからどうだというイメージが湧かないのだ。
「それは貴方の人生だもの、好きに生きてばいいの。ただ、もし自分の力に戸惑った時に、それに答えてあげられる人がいるとは限らないから・・・だから、"どうしても伝えたかったの"。」
決して私のようにはならないように。
今でも時折、自分の事を思い出して物思いに耽る阿主沙を感じる度に、なんと残酷な事を彼に求めたのだろうと・・・。
「少しでも・・・何かの助力になれれば・・・。」
こうして一路は彼女達から例の木刀を貰った。
一路の強固な主張から、友好の証として。
交流は天使の与えた時間ギリギリまで続いた。
そして、最後に・・・。
「全てのアストラルが次元を超えられるという可能性。それは、かつて"私達"が、いえ、今も求めている存在の一端に繋がるかも知れない。けれど、これだけは覚えておいてください。例えどんな力を持ったとしても、"法則を創造する力"を持たない限り、貴方の肉体は3次元に属したままでいるという事を。」
「・・・え、と?」
どういう事が理解出来なかった。
「貴方は肉体の器と精神の器の容量が違い過ぎるの・・・だから・・・。」
告げられた言葉。
その言葉だけは、誰にも言う事なく一路は墓場まで持ってゆくのだと心に誓った。
「僕の力・・・。」
伝えられた力を率先して使おうとは思っていないし、実は使い方もよく解っていない。
二人(?)によれば、その力の何割かは無意識に使っているらしいのだが・・・。
「あの、僕、一度地球に戻ろうと思ってるんですけど、それで・・・。」
「あぁ、うんうん、足がないんだネ?アイリ殿もケチケチしないで宇宙船の1つや2つや3つ、くれればいいのにねぇ。」
そんなホイホイと宇宙船を貰えても逆に扱いに困る。
一路の庶民的な金銭感覚では、クルーザーのような宇宙船の存在なんて意味不明だ。
「あいよ、解った。それはこっちで何とかするわ。"ちょうど"手頃なのがあるしね。」
「・・・そんな都合よく宇宙船の用意なんかあるわけないやろ。」
全く白々しい茶番劇に今まで黙って聞いていたNBが呆れる。
こういうテの輩は、もううんざりだと言わんばかりだ。
「あ゛?何か言ったかしら?」
「うんにゃぁ、な~んも。」
それでも面倒な事はゴメンやとすっとぼけるNBに鷲羽は話を続ける。
「いつ頃寄越せばいいんだい?」
「アイリ理事長にも許可を貰わないといけないし、それに・・・。」
「それに?」
「その、迷惑をかけた事を、その、まだ皆に謝ってないので・・・。」
赤面しながらもにょもにょと言葉を呟いて、どんどん俯いていってしまう一路の姿に鷲羽は苦笑する。
(律儀だねぇ。アタシの時なんか一度だってそんな事・・・て、大抵は夷隈教授か凪耶が頭下げてたか。)
「解った。なるべくゆっくりめに届けるから。中型の・・・操作はGP基準か、なるべく簡単なのにしとくから。それくらいは出来るようになったんだろう?」
「た、多少なら。」
何やら試験をこれから受けるような気分だった。
経験は浅いが、今から更に復習していけば、中型もなんとかいけるだろう。
「なら、そうね。早くて2,3日、"ダダこねなきゃ"だけど。」
「ダダ?誰が?」
「うんにゃ、こっちのハナシ。じゃ、"良いコ"にして待ってるんだよ?きちんと皆に謝ってサ。」
「はい。」
そして、"鷲羽に船の用意を頼む"のがどういう事なのかを誰にも指摘も説明もされぬまま、一路は里帰りまでの日々を過ごす事になる。
「ほんま、アホらし・・・。」
遅れてすみません。
ちょっぴり多めにしておきますた・・・orz