真・天地無用!~縁~   作:鵜飼 ひよこ。

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今年も一年、けっぱろうね。


第164縁:謝罪行脚珍道中。

「それで?」

 天候調整され澄み渡る青空に鈍い音が響く。

 

「わざわざ謝りに来たって事かいっ。」

 

 鋭く打ち下ろされる木刀を何とか受けるも、一路はそれを捌ききれないでいた。

彼の眼前にいるのはコマチだ。

無事の帰還と首尾を聞かれた後、、何故か一対一での戦闘訓練が始まった。

 

「色々とっ、迷惑をっ、かけたものおぉぉ~っ。」

 

 速さや直感的な読みは一路が勝るものの、悲しいかな膂力はコマチの方が圧倒的に上だった。

勝っている点が読みといっても、その読みよりもコマチ経験則の方が一日の長がある為、それで先手を取る事も有効打も取れず、力負けによるスタミナの消費という現状は、ただのジリ貧だった。

しかし、そんな事よりも静竜の件を謝罪されたコマチのあっさりとした反応の方が拍子抜けした。

 

「腕を上げたな。それでこそ、訓練をつけた甲斐があったというもんだ。」

 

 そう爽やかな笑顔で言われると反論もしづらい。

コマチにとっては謝罪よりも、一路の成長の方が重要と言わんばかりの・・・。

 

「こんなところか。なぁ、静竜(アレ)のやった事は自分でやった事だ。オマエだって別に騙したり襲ったりして鍵を奪ったわけじゃないんだろう?」

 

「・・・確かに鍵は拾った事になってますけど・・・でも、それって結局その方が自然の流れっていうか、辻褄が合わせやすかっただけで・・・。」

 

「なら、それでいい。オマエが訳ありというのだって、こっちは気づいていたし、それを問い質す必要もないと聞かなかった。全てとは言わないが、それを呑み込んだうえで訓練をつけた。実際、優秀で"真面目"な生徒だったよ。」

 

 何の、何処をとって真面目というのかと口に出そうになったのをなんとか堪えた。

コマチは淡々と澱みなく言っているのを見ても、本心だろう。

その点では、取り繕う事などしない"大人"だと一路も認識している。

 

「最終的にはだ、オマエは無事に帰って来た。そして私に会いに来て、謝罪もした、それでいい。私はそれで満足だ。」

 

 こういうおおらかさというか、器の大きさがあるから、人の上に立てるんだろうなぁとコマチに会う度に一路はしみじみ思う。

逆に言えば、そういう人間以外が人の上に立つのは、不幸な事なのだというのも同時に理解出来る良い見本だ。

不幸なのは勿論、下に属する部下の事である。

極端な事を言えば、そういう人間は人の上に立つべきじゃないんじゃないか・・・と。

 

(プーと照輝の上官もいい人だといいんだけれど・・・。)

 

 出来ればコマチになって欲しいくらいだ。

彼女は彼女で自前の艦と部下がいるのだが。

そんな事を考えながらコマチとの面会は終えた。

 

「あぁ、肝心な事を忘れていたな。"おかえり"。」

 

 別れ際にさらりと言われた言葉が何よりも嬉しかった。

 

 

 

 告解のような挨拶回りはコマチだけでなく同期生達、教員、事務員、果ては整備士達にまで及んだ。

謝罪と感謝を述べた同期生の大半は、心配とやんややんやの喝采で一路を迎え、教員達も杓子定規なお小言を言ってはきたが、

 

『まぁ、天南が絡んではな。』

 

 の一言で大抵の話が終わった。

中には"天南条例"だの何だのと言っていた者もいたが、一路にはそれが何の事か解らず首を傾げるだけだった。

一応、一度だけNBに何の事か聞いてはみたのだが、

『知っても得にならんし、アホ見るだけや。』

 

 と、バッサリ言われたので、そういうもんなのかと深くは聞かない事にした。

何だかんだで、エロが絡まない時のNBの言う事は、人生において概ね正論であるというのも学習出来ていた。

ちなみに一番怖かった整備士たちへの謝罪だが、これも艦の戦闘・航行データの提出と艦の損傷無し(樹雷で修理された為)ので、何とか帳消しくらいにはなった。

 

「今回はついて来るの?」

 

 こうして大半の謝罪を終えると、最後の難関というか、砦というか、一路にとっての鬼門の地に赴くだけとなる。

別に避けていたわけではない・・・と、自分自身に言い訳しつつ・・・。

 

「当然や!女子寮やで?女の園、充満する乙女のかほり、一番無防備になる神秘の楽園!行くに決まっとるやろ!」

 

「まぁ、そうくるよね・・・いい事か悪い事か解らないけれど、僕、なんか慣れてきたよ。」

 

 胸を張っていいのかさえも麻痺したまま、渇いた笑いを上げる一路。

 

「坊も大人になってきたんやなぁ。」

 

 唐突に感慨深げにキリッとなるNBを見ると余計に脱力してくる。

 

(というかNBのこの機能って、僕のサポートに必要なのかな?)

 

 今更ながら謎が深まってくる。

 

「それにや、坊が多分一等行きたくない場所だろうし、ついてってやらんとな。」

 

「・・・そう。」

 

「そうや。」

 

 それっきり無言になる一人と一体。

女性であるアウラを、本人に脅迫されたとはいえ巻き込んだ手前、行きづらい。

アウラは自分の意思で同行を求めたのだが、たとえそうだとしても周囲の人間はどう思うだろう。

特にエマリーと黄両の二人は。

友人を危険な目に合わせた事を。

一路だったら怒る、怒るに違いない。

それが友として親しければ親しい程強くなるのは当然である。

 

「・・・でも。」

 

「んー?」

 

「謝るってそういう事だよね。こっちが悪いから謝るんだもん。」

 

「せやな。」

 

「だから、ちゃんと行って謝らないとね。」

 

「せやな。」

 

「ところでNB?」

 

「んー?」

 

「そのカメラ、ナニ?」

 

 地球で見た事のあるタイプのカメラ。

しかも、バズーカのような望遠レンズがついている。

 

「決まっとるやろ?これで乙女の園のあーんなトコやこーんなトコを、モロに!間近に!ドカーンッ!と激写してやるんや!やったるで!ワシはやったるで!」

 

「あー、まぁ、うん、そうだよね、NBだもんね・・・。」

 

 カメラを構えて意気揚々と様々なポーズを取るNBを尻目に、一路は死んだ魚のような目をしながら適当な相槌を打つ事しか出来なかった。

 


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