「で、結局何がしたかったのよ?」
エマリーが問いたかった事は実はそう多くはない。
2、3の質問で終わらせるつもりだった。
ただ、その会話をアウラや黄両に聞かれるのは少々憚られたので、アウラの申し出は渡りに船とも言える。
「うん・・・それは・・・。」
今までずっと嘘をつき、それを取り繕う生活を捨てられるというのは、一路にしてみれば魅力的ですっきりする事だが、それでも一体どこまで話したらいいものやらと思案はする。
「うん、まぁ、その・・・大半は今回の事が最終的な目的だったんだけど・・・。」
「けど?」
「一人で全部やるつもりだった・・・あ、一人って言ってもNBはいるけど、でも、うん、他の誰も巻き込むつもりなんてなかったんだ・・・。」
だから嘘を突き通そうとおっもったし、それが辛くもあった。
カッコワルイなぁ、やっぱりと思いつつも、頭を掻いて誤魔化すくらいしかない。
鷲羽はやり通したと言ってくれたが、どうしたって中途半端さが目立つ。
「じゃあ、どうして?」
何故、アウラを仲間に引き入れたのか。
ある程度の事情は聞かされていても、当の本人の口から聞きたい事でもある。
「それは、交渉されたっていうか、脅されたというか・・・う~ん、詰めが甘いよなぁ、ほんと。でも、やっぱり少し嬉しかったんだ。」
「嬉しかった?あんな美少女に言い寄られて?」
「ち、ち、違うよ!あ、あーちゃんが美人じゃないとかそういう意味じゃなくてね?!」
そんなフォローは今はいらないのだが、こういう所も律儀さが出るのは一路らしい。
「自分に興味を持ってもらえた事が、さ。ちきゅ・・・故郷では誰にも見向きもされない、されたとしても一瞬の事で、あ、いや、そりゃあ、みんな自分が大事だから、落ちこぼれの僕なんかに構ってる余裕がないのは当然なんだけどね。でも、あーちゃんは違った。プーや照輝も。だからかな。」
照れて笑う一路のその表情をエマリーは不覚にも可愛いと思ってしまった。
「エマリーにだって感謝してるよ?」
「え?」
「多分ね、どんな事、相手だろうと出会いって大事なんだなって思ったんだ・・・。」
出会った相手への好き嫌い自体、そこには意味はない。
プーも照輝も、アウラや他の皆とも。
そこに特別さや意味を追加してゆくのが人付き合いで、その積み重ねが思い出なんだと一路は考える。
その考えだと、左京や海賊達との出会いも同列になってしまうのだが。
「だからね、だから宇宙に出て初めて出会えた同年代の"友達"がエマリーで本当に良かった。」
でなければ、自分も宇宙人やGPに変な先入観や偏見を持っていたかも知れない。
彼女は彼女なりに自分に気を遣ってくれたし、励ましてもくれた。
最初が肝心とは言うが、その点に関しては恵まれていた。
そう恵まれているのだと強く思う。
そして、それを辿って元を正せば柾木家の人々に、岡山のあの地に来た時点から恵まれていたのだと。
「だったら・・・。」
「ん?」
一方的に喋っていて、気づくとエマリーは寮を出る前と・・・。
(あ、もしかして、また噴火したり・・・する?)
思い返せば、彼女をと一緒にいると、気絶したりさせられたり、叩かれたり殴られたり・・・て、どっちも変わらないじゃないか!混乱してるぞ自分!と思ったりなんだり・・・。
「だったら、今度は私も連れて行きなさい!」
「はひ?」
「急に行方不明になられる方の身にもなりなさい!一緒にGPに来て、頑張ろうって言ってた相手がいなくなったのよ?しかも気づいたら同じ寮の友達までいなくなって!心配するでしょう!」
「え、あ、う、うん・・・うん。」
「普通は心配するもんなの!!」
「は、はいっ!」
一見ヒステリックにしか見えないが、エマリーの言っている事は正論だ。
正論過ぎて逆に拍子が抜けてしまうくらい。
「オマケに聞けば外宇宙に飛び出したって言うじゃない。怪我してないかとか心配して当然でしょ!・・・しかも。」
ヒステリックだったエマリーが急に萎れ出す。
しゅんとなった犬の如くしぼんでいってしまっているのだ。
「色んな噂が飛び交って、心配で・・・でも、どれも確かめようもなくて・・・。」
「噂?噂ってナニ?」
そういえば、謝りに行った人達は、自分が船で宇宙に出て行ったのは知っていても、何の為に、しかも樹雷や海賊とのいざこざの詳細は知らされていない事に気づいた。
その大半が"あの天南"の絡んだ事件なのだから、関わるだけ損だと思われている事は一路は知らない。
そんな僥倖もあってか、はたまた人徳がないアイリのせいなのか、比較的スムーズに一路はアカデミーに復帰出来ていた。
「それはともかく!今度は事前に私にも相談しなさい!別に理由を聞かずに殴ったりとかしないわよ!」
「・・・・・・してる気が。」
「してない!いい?私に相談せずにアウラだけに相談してった事を怒ってんの!第一、最初の友達なら、まず私に相談する流れでしょー!」
うがぁっと手をぶんぶん上下に振って訴えるエマリー。
しかし、それに対して一路が思った事といえば。
「そういえば、初対面の時も殴られた気が・・・確か、あの時は・・・。」
エマリーの胸を・・・胸を・・・?と思い出して、一路の視線が自ずと下がっていく。
「もう一度殴られたい?」
「あー、えーっと・・・。」
微妙な一路の反応に、エマリーがキッと睨んでくる。
「いや、それは遠慮しとくけど・・・。」
「だから、そのけどけどって、何なのよ?」
「・・・触ったら"結婚"するんだっけなって・・・。」
「ばっ?!」
以前、そんな伝説があるという事を耳にしたのを思い出したのだ。
一路自身、そんなデタラメな伝説は噂に過ぎないと思っている。
それでも見事(?)やってのけた者がそういう結末を迎えるのは、そういう慣習や本人同士の取り決め、自然な流れ・・・etcがあったからだと解釈した。
一方、一路の結論に対応しきれなかったのはエマリーの方である。
胸を触られた時の事(以外にも多々ある)が脳裏に浮かび、そしてみるみる間に顔が真っ赤になってゆく。
冷静に、冷静に呼吸をして・・・も、無駄だった。
「ばっかじゃない!ばっかじゃない!バ・カ・じゃ・な・い・のっ!」
何故だから全ての馬鹿が違うイントネーションとアクセントでまくしたてられる。
そんな様子を殴られなかっただけマシだろうと見つめる一路。
(エマリーんお花嫁姿かぁ・・・。)
それくらは想像してみてもいいんじゃないかと、美しい彼女の姿を思い浮かべる。
相手が自分だとかそういうのは置いといてだ。
「もう!ほんっとバカ!エロ!サイテー!ともかく次からはちゃんと相談する事!っていうか、もう二度とやらない事!いいわね!!」
顔を赤らめ半泣き状態の涙目のまま喰ってかかるエマリーから、何故だか一路はすすすっと視線を逸らす。
「あ、えーと、うん、善処します。」
返す言葉も何処か上の空というか、適当さがあるその態度を睨みつけ、すぐさまエマリーは相手の首根っこを掴んだ。
「ちょ、ちょっとエマリー?」
「それは、また何かやらかそうって魂胆ね?」
「いや、その・・・。」
「コッチを見ろ、コラ。」
「え、エマリー、ガラ悪いよ?」
「誰のせいだと思ってんのよ!ほら言いなさい!」
首元を掴まれたままガックンガックンと揺らされる。
「ちょ、エマっ、エマリー、やめでぇっ。」
か弱い女性のソレではない、生体強化され自分を一発で撃沈させる者の力で揺らされるのだ、たまったもんじゃない。
「おらぁ~、吐けぇ~。」
そんな押し問答は一路が(物理的に)本当に吐く寸前に達するまで続いた。