真・天地無用!~縁~   作:鵜飼 ひよこ。

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第167縁:這い寄る闇。

「何の用だい?」

 

 ドスの効いた声が辺りに響く薄暗い空間で、自分の周りよりも二段高い位置に座すその人物辺りだけが、ぼんやりと照らされていた。

一向に返って来ない返事に女性はあの相手であるアラド・A・シャンクを睨む。

 

「用がないんなら帰るよ。」

 

 存外にオマエに付き合っている暇はないと言い放ったのはルビナだ。

 

「まぁいいか、と思いましてね。」

 

「あ゛?」

 

 人を小馬鹿にしたような笑みで、いや実際に小馬鹿にしているのだろう。

 

「その髪も見栄えが良さそうだ。」

 

「いい加減に・・・。」

 

「まさか自分の足元に"丁度良い継承権持ち"がいるとは私もついていると。」

 

 痺れを切らしたルビナの言動を遮った言葉はそれだった。

 

「こっちとら根っからの孤児だよ。」

 

「という設定だったわけですか。まぁ、良いです。足掛かりとしてはそんなものでしょう。」

 

「誰が・・・。」

 

「断るのならば、"オマエ以外"の全てを殺すだけだ。」

 

 孤児という事が偽りだとすれば、血縁者もいるかも知れない。

そうでなくとも、彼女がこれまで生きて関わった人間は存在する。

灯華だとてその一人だ。

そしてこの男はやると言ったらならば、本当にそれをやるに違いないだろう。

 

「どうせならば、持ちつ持たれつが良いと思いますよ?・・・ん?」

 

 話の途中でアラドが首を傾げる。

 

「そうですね。ここは一つ、私が先に折れてみせるとするかな。」

 

 終始上から目線のあまま、アラドが微かに動くと空中に一人の白衣姿の男が映し出される。

 

「要点だけを。」

 

 男が口を開くより先にアラドが告げる。

 

「アラド様が以前持ち帰られた"この木"、ご指摘の通り微かにまだ生きております。」

 

 男の後ろにあるのは先端が丸みがかった細長い木の棒。

根元は折られたのか、不規則な断面を晒していた。

 

「それで?」

 

「遺伝子配列を解析したところ、外見上と何ら変わらない木でした。」

 

「そんなはずはない。」

 

 断言するアラドの威圧感に慌てて襟を正した男は口を開く。

 

「ですので、アストラルパターンも解析いたしました。余りにも複雑で、所々ブラックボックスと化している点から、外見は木ではあるが全く異なった性質を持った未知の物であるという結論に達しました。」

 

「私は・・・簡潔に話せと言ったつもりだったのだが?聞いていたか?」

 

 映像に向かって光の帯が走る。

 

「ひっ?!」

 

「映像だから自分は安全。だとでも思っていたりするのかな?」

 

 映像に向けてレーザー銃の引き金を引いたのだ。

 

「こ、これと同一の物質を再現するのは不可能です!ブラックボックス部分をこちらで類推して構築したとしても類似品どこrこか、少し硬質なだけの粗悪品が産まれるだけです。」

 

「やはり、殺しますか。どの道役立たずのようですし。」

 

「でででで、ですが!これと類似したブラックボックスパターンを持つであろう"物体"を作成たという記録があります。被検体のデータは残っておりませんが、それ以降も研究が続けられていた模様で、それを入手出来ればブラックボックス部の補完も可能かと。」

 

「成程。それで、Dr.クレーの方はどうですか?」

 

「は。先日返答があり、その・・・。」

 

「何だ?」

 

 言い淀む男を視線で促す。

 

「『確かにワシは金を積まれればどんな研究開発でもやるが、シャンクギルドにはもうこれ以上ない程に"笑わせてもらった"から遠慮しておこう。』だそうで・・・。」

 

「ふむ。そうか。そちらに割く労力は今は惜しい。ならば我々だけで行うとしよう。その研究データを手に入れる件は後程。」

 

 そう言うとアラドは返事を聞く事なく一方的に通信を切り、その手でまた通信を別の所に繋ぐ。

 

「研究者の中で、成果の上がりが悪い者を2、3人程"処分"しておけ。」

 

 見せしめ以外のなにものでもない指示をし、今度こそ通信を終える。

 

「と、まぁ、君を"信頼"してこのくらいは教えておいても良いと思いましてね。」

 

「何が信頼だ。ただの脅しじゃないか。」

 

 自分の秘密の計画を教えるという点は、確かに信頼しているからという事も常識的にはあるかも知れない。

しかし、話の全体、特に後半ではただ逆らう、使えないと感じた者には、誰であろうと本当に殺すという事を示して見せただけだ。

 

「これは手厳しい。」

 

 それでも余裕の態度を崩さないのは、見せた案件がそれ程重要度が高くないのか、それとも自分が灯華の代わりの花嫁候補だからなのかルビナには解らない。

 

(そもそも、あの子の代わりってのが解せないね。)

 

 それに・・・と、暗さになれた目でアラドの顔を見つめる。

 

(全っ然っ、好みの顔じゃないし。)

 

 ないわーと心の中で毒づく。

どうせなら灯華を迎えに来て、見事掻っ攫ってのけた男の方が・・・顔は見ていないが余程マシだ。

 

(しまった、顔くらい見とくんだったよ。)

 

「先日の襲撃の件は・・・。」

 

 考えていた事が奇しくもアラドの口から出て一瞬ギョッとする。

 

「艦の損害は大きかったが、代わりに良い物を置いて行ってもらった。小娘の代わりは目の前にいますし、艦は修復可能。となると、悪くはない。」

 

 そこに人命の損失を考えない点がアラドがシャンク名乗れる所以なのかも知れない。

 

「檜山・A・一路か・・・彼は実に私好みかも知れないですね。」

 

 アラドが加虐的な笑みを浮かべる中、ルビナは未だ顔を見ぬ一路の名を心に刻むのだった。

 

 

 




ルビナ姉さん、覚えてらっしゃいます?
なるべく忘れない頃に各キャラを出しているつもりなんだけれど・・・。

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