とても機嫌が良さそうである。
半歩前、それも自分の速度に合わせて歩く一路を見て、シアはそう感じた。
悔しい事に今回も突然のデート(不本意ながら一路の定義はそうらしい)誘いを受けて、了承してしまったのだ。
「でも、なんでアンタまで。」
自分の真横を転がるNBだけはいただけない。
「あー、まぁ、言いたい事は解る。けどな?」
「一路のサポートロボットだからって言いたいんでしょ?」
デートという名目では超不満!という単語を呑み込む。
「いんや。」
「じゃあ、何よ・・・て、やっぱりいい。どうせロクなコトしか考えてないだろうから。」
これが所謂、日頃の行いというヤツである。
「ん?あぁ、だったら楽なんやろけどなぁ・・・そろそろ嫌な予感がするねん。」
「は?」
「こっちのハナシや。」
言葉を濁すNBに首を傾げるシア。
「どうかしたの?」
自分の後ろでごにょごにょと会話を交わしているのに気付いた一路が微笑みながら振り返る。
「何でそんなに上機嫌なのよ?」
NBの事といい、上機嫌な一路といい、何やら理解出来ずに腹が立つ。
「んー。謝りまくったせいか、なんて言うか心が軽くなったっていうか・・・。」
「・・・頭まで軽くなってんじゃないの?」
冷静な一言で場の空気が凍るはずの中でも、一路の微笑みは崩れず、そんな顔を見ていると何故だかシアはさらに悔しくて腹が立ってくる。
「心の中で整理が出来てクリアになった・・・う~ん、区切りがついて目標が鮮明になったというか・・・。」
それでもGPに来た直後にあった悲愴感は影を潜めているのだから、まだマシな方か。
変なヤツなのは解っているし。
そう自分に言い聞かせて、目的地であろう建物に入る。
「ここって・・・。」
それはシアにとって馴染みの深い建物だった。
もっとも一路にとってもだが。
「自分でもさ・・・。」
「え?」
シアの方を一切振り向かず、建物の扉をくぐって歩を進める一路。
彼に従って仕方なくシアもついて行くが、これが普通の、一般的な、オーソドックスなデートコースではないというのは既に理解出来ている。
「自分でもこの後のオチはなんとなく想像出来るんだけどね。でも、まぁ、一応行っとかないとアレかなって。」
「ホンマに解っとんのかいな。」
「???」
一路もNBもシアと視線を合わせる事なく会話が進む。
というより、これは会話なのだろうか?
受付を済ませ、それがシアの想像した通りだと確認してから建物の最上階へ向かう。
その途中で溜め息をついたのは一路だった。
「子供だろうと、大人だろうと、筋は通さなきゃダメって事なんだよね。」
「筋を通さない大人もおるけどな。」
「・・・どうして今日のNBはそんなに荒れてるの?」
「荒れとるんやない、呆れとるんや。坊、えぇか?そんなんしとると、損ばっかの人生になってまうで?」
最奥の扉の前にNBが立ち、扉が開く。
ここが目的地だ。
「そういう僕でも良いって言ってくれる皆に甘え過ぎなのは解ってるよ。」
「はぁ~、そういう意味で言っとるんやなくて・・・。」
損した分を得とは言わないが、プラスマイナスゼロにまでにしてくれる自分の人間関係の幸運と、自分の不甲斐なさを挙げる一路。
対してNBは一路の力不足を嘆いているのではなく、うまく立ち回れない"馬鹿正直さ"に呆れているのだが、全く通じていない事に溜め息をつくしか出来ないのだ。
「ね、ねぇ、ここって理事長室よね?」
数えるくらいだが、リーエルに連れられて訪れた事がある場所だった。
引っ越したりしていなければ、そういう事になる。
「そうだよ?」
「そうだよ。じゃなくて・・・。」
何故という理由を問いかけるつもりだったが、これもNBの先程の言葉同様に通じてない。
「あー、シアはん?こうやって意固地になっとる坊は"アホの子"やさかい何を言っても無駄やで。」
NBは決して長い時間を一路と一緒にいたわけではないが、それくらいは理解出来るくらいの時間は経っている。
もうどうにでもなれと投げやり気味に鼻をほじりながら言うNBは、もう既にほとんどの興味が失せているようにしか見えなかった。
そろそろオチが見えたとは思いますが、が、が、