「予想していたメンツより一人多いんだけどー?何事かしら?」
理事長室に入って当然の如くアイリが、また何かの面倒事か?と眉根を寄せて出迎えた時点で、シアも嫌な予感がしてきたのは言うまでもない。
「こんにちは。理事長、今日は"休学届"を出しに来ました。」
「休ぅ学ぅ?それで?今度は何しようっていうの?」
つい最近も休学してたようなもんでしょ、アンタは。
そう睨まれるのも一路にとっては想定内だ。
「ただの帰郷です。この前の報告を柾木家の人にするのと。折角貰った選別を壊してしまったので、それを直接謝りに行きたいんです。」
今回は一切の嘘偽りはない。
全部本当の事。
そして、これから言う事も。
「で、その里帰りに"シアさんを連れて"行きたいので、出来れば許可を貰えませんか?」
「な?!」
「今度はそうきたかぁ・・・。」
目を見開いて驚くシアと成程ねーとさして驚かずに溜め息をつくアイリ。
それを静観するのは美守とNBだ。
「あ、アンタ、自分が何言ってんのか解ってるの?!」
シアには行動範囲の制限と外出時の監視が常時ついているのだ。
それをブッチぎっての星間旅行の申請。
シアが驚くのも無理はない。
ないのだが、何故か驚いているのはシアだけという現状。
「だって、約束したよ?僕の故郷を見せるって、連れて行くってさ。」
「その前に"いつか"って言葉がついてたでしょ!」
「だから、今かなぁって?」
「アンタ、バカ?!」
「・・・・・・つい最近、同じ事を言われたや。」
そこまでがワンセットの会話を交わして、がっくりと肩を落とす。
詳しい事情はシアも知らないが、一路は自分がどういう状況にいるのか解っているはずだ。
「確かに、自分の行動に責任は持てって言ったわね。」
「手続き上の許可を求める相手も間違ってはいませんね。それで檜山一路君?こちらが許可をしないと言った場合はどうしますか?」
一路のドストレートな行動を特に否定する事なく美守は聞き返す。
無論、そこには一路の行動に対する興味と、彼のその真意についてがあってのことだ。
果たして、彼は次にどう答えるのだろうと。
「特には・・・どうもしません。許可を取りに行く事、その結果が許可を得られなかったっていう事が解るのが大事だったので。」
「まー、休学届けは受理するわよー。」
本当にそれだけなのかと更に問おうとした美守のより先に、アイリが答える。
これは生徒の権利なので、休学届けに関してはアイリも美守も拒否する事は出来ない。
シアにしても、当の一路にしても、返って来る言葉は予想の範囲内のようだったし。
さて・・・。
「こちらとしても、残念ですが同行の許可は出せないですねぇ。」
美守がそう言うと、一路は何の反論もなく一礼して部屋から意外な程あっさりと出て行く。
それを慌てて追いかけるシア。
その姿を見送ってから・・。
「要するに、宣戦布告ってヤツ?理由なき反抗?かあーっ!青春!!」
ぺしぺしと自分の額を打つアイリに美守は嘆息する。
「貴方が変に煽ったりするからですよ?彼は生来温厚な人柄のようですし。」
「道中誰かが迎えに来るってんなら、行き先は地球だし、柾木家だし?滞在先としては文句はないわよ?なんたって、遙照くんがいるもーん♪」
「確かに辺境の保護区に、それもあの戦力に真っ向きって突っ込んで行く輩はそうはいないでしょう。」
堂々とノロケて見せる点だけを華麗にスルーして会話を続ける。
この点を見ると、この展開はよくある事だけ解るだろう。
「そ。だぁーかーら、道中の安全よ。魎呼ちゃんか天地ちゃんが迎えに来るってんなら考えても良かったんだけどぉー?」
「それを提示してあげない事はどうかと思いますけれどね。」
「言われなかったし、聞かれなかったもーん。ともかく、すんごいボディガードがいなきゃダメダメ。」
てんで話にならないわーと一蹴するアイリ。
この数分後、そう一蹴した事を。
そして、口は災いの元であるという事を嫌という程、思い知らされる事になる。
世の中、言っちゃぁ、いけない事もあるのですよ・・・。