来た時と同じ道のりで一路達は歩いていた。
「さて、どうしようかなぁ。」
「?」
「どうもこうもあるかいな。警戒されて余計やり難ぅなっただけや。」
それくらい解っとったろ、アホかいなと続け様に悪態をつくNBを見ていると何故だか笑みがこぼれる。
自分でも正直これはないなぁと思っていたからというのもある。
勿論、最初から許可など下りないのも解っていた。
それはNBの指摘の通りである。
「まぁ、そうなんだけどさ。言わなきゃ解んない事もあるし、ブツかるのを避けて想いが伝わらないのもいけない事なんじゃないかなって・・・今までの僕がそうだったから。」
「坊、悪い方に事を動かすブツかり方は成長したって言わへんで?」
「あはは、だよね。」
そんなやり取りを交わした後、一人と一体は少女の方へ顔を向ける。
「え?!」
「要は嬢ちゃんを乗せて太陽系までブッチギレばええんやろ?」
「えぇっ?!」
「港を出る事と太陽系の樹雷の観測圏に行くまでがネックかな。」
「ちょっ、ちょっとアンタ達、本気?!」
「最初から言うてるやろ?意固地になった坊に何を言うても無駄やって。」
確かに理事長室に入る前にNBはそんな事を言ってはいた。
言ってはいたが、それをはいそうですかと納得出来るような問題ではない。
「私を連れ出すって事がどういう事か解ってるの?今度は謹慎で済まないのかも知れないのよ?」
「んー、まぁ、約束は約束だよ。」
「そういう問題じゃ・・・。」
それで人生を棒に振られても、何というのか重い。
「そういう問題なんやろ、坊の場合は。第一、約束やら価値観やら、そんなもん人それぞれや。たまたま坊は"そういう価値観"の持ち主やったってだけで。大体、友達を連れ出す為に宇宙に飛び出して海賊の真っ只中に突っ込む輩やで?坊は。」
まさにミもフタもない解釈である。
が、正しい。
「ほんとね、なんなんだろうね。ただ自分が後悔したくないってだけなんだけど。」
「この先の人生を棒に振るかもしれないのよ?」
「え?う、う~ん・・・。」
腕を組んで唸る一路に、それ見た事かという反面、少し寂しくもある。
しかし、自分の境遇に誰かを巻き込む事はしたくないのは、シアも同じでしたくはないのだ。
別段、自分が不幸であると思っているわけではない。
というより、以前にいた環境よりはかなり恵まれている。
恵まれているのだ。
「う~ん・・・実は、地球に戻ればなんとかなるんじゃないかなぁなんて思ってる。・・・かなり虫が良すぎるけど。」
地球にはこの銀河圏の文明の手が及んでいるわけではない。
自分の体の事を別にすれば、一路は生粋の地球人なのだから、どうにかならない事などないだろうと短絡的に考えている。
その場合、シアをGPに帰すのが難しいとは思うが・・・。
「あぁ、良かった。"オレの事だから"そのまま会えないかと思ったよ。」
ふいに聞き覚えのない声を聞いて、一路はすぐさまシアを背に庇いつつ、腰に差した木刀を抜く。
"コイツはヤバい"
そう直感的に自覚しながら。
(何で?!声をかけられるまで全く気付かなかった!)
短めに切り揃った髪に額の絆創膏、そしてGPの制服。
ぱっと見なら学生にしか見えない。
表情も温和を絵に描いたようで、特段に目立つ点は本当に絆創膏しかないくらいなのだが・・・何か変だと感じる。
佇まいだけでだ。
「い゛?!いやいやいや妖しい者じゃないって!確かに目立たないように久々に制服を新調したけど!俺はここの出身だし、君を迎えに来たんだって!」
「迎え?」
目の前で両手を上げて大きく振る男に対して一路は首を傾げる。
一口に迎えと言っても、色々な意味合いがある。
迎えを称する人攫いかも知れない。
「そうそう。檜山君だろ?鷲羽さんから聞いてない?参ったなぁ。用意した宇宙船をGPにいる子に内緒で持って行くだけって・・・サプライズだとか何かとかしか、俺も聞いてないんだよなぁ。」
鷲羽さんてそういう所あるからなぁ、トホホと一人ボヤく。
(確かに宇宙船は届けるって言われたし、宇宙船の事を知っているのは鷲羽さんとNBしかないし・・・サプライズとか鷲羽さんならやりそうだけど・・・。)
目の前にいる相手が自分に対して殺意や敵意の類いを持っていないのは解る。
解るのだが、それがイコール協力者とは直結しない。
害意は皆無なのに、身の危険を感じるという矛盾し過ぎて自分でも解らないこの状況が何よりヤバい。
「えと宇宙船を使って何処かに行くんだろ?だったら一度準備をする必要があるよね?その時に鷲羽さんに確認してみてよ。」
それもそうだ。
即座にこの場から移動して、何処か安全な場所でとも思ったが・・・。
「シアさん、僕はNBもいるし、"コレ"があればいいから、今すぐ行けるけど・・・シアさんはどうする?」
先の折れた木刀と、新しい朱色の木刀を握り締めシアに問う。
「本気・・・なのね?」
「うん。勿論、シアさんが行きも帰りも僕が送り届けるよ?シアさんが"望む"なら。」
それはつまり、"望まなくても良い"という事だ。
もし、シアが帰る以外の選択肢を取る事があれば、協力を惜しむつもりはない。
といっても、結局鷲羽に相談するところからなのだが・・・。
「・・・そう。解った。私は身一つでここに来たから特に問題ないわ。」
それは承諾という意味だ。
「訳ありで急ぎって事かな?なら今すぐ行こう。あ、俺の名前は、山田せっ・・・。」
ボンッ!
名乗りを遮るように破裂音がして、彼方で黒煙が上がっているのが見える。
一体全体何事だろう?
「ここは相変わらず毎日がお祭り状態だなぁ・・・色んな意味で懐かしいよ。」
そういうイベントなんだろうと勝手に当りをつける男に、そうなのかなぁ?違う気がするとまた首を傾げる。
一路にはどうもこの男の人となりが解らない。
「丁度いいやって言ったらアレだけど、あっちとは反対の宇宙港に船を待機させてあるから、すぐに行こうか?」
その言葉が余計に一路を不安にさせる。
果たしてそんな都合良く、自分達が向かう方向と逆方向でイベントなり事故なりが起きるものなのだろうか?
何か納得がいかない。
納得がいかないが、考えても仕方がないし、そんな時間もない。
とにかく訝しげに思いながらも、先導する男の後に続くのだった。
満を持してっ!www