真・天地無用!~縁~   作:鵜飼 ひよこ。

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これくらいの話数になると、毎回、あれ?この単語タイトルに使ってなかったっけ?と悩むんですよ(ヲチなし)


第171縁:それはそれはとてつもなぁ~く運の悪い人達。

 さて、お祭り状態と彼に評された本当の場所は、実は理事長室であった。

 

「貨物用の宇宙港で爆発ぅ?一体、原因は何よ?」

 

 現場の宇宙港では正直お祭り騒ぎどころの話ではなく。

 

「そ、それが電気系統のトラブルとしか。」

 

 現場と交信しているアイリは眉を顰めるしかない。

GPは警察機構である。

慣例的な行事やイベントはあれど、基本は真面目な学び舎がある組織なのである。

そんなGPでこれほどの大きな事件が起きる事などそうそうある事では・・・と、ここまで考えてアイリがピタリと静止した。

 

「・・・あったわね。」

 

 じわりと冷や汗が背に伝わるのがアイリにも解る。

 

「こちらで受けた報告では輸入されて搬入された愛玩動物が檻から逃げ出したそうで・・・。」

 

「えーと、それってその動物が電気系統を破壊したって事?でも、通常はゲートが降りてるはずでしょ?」

 

 動物には当然、搬入の際の検疫の義務がある。

手続きの時に逃げ出されても困るので、隔壁などを用いた隔離を厳重に行う規則だ。

 

「それがなんでも、一番最初に誰かが搬入作業員にぶつかって操作を誤り、檻が放り出される形になりまして・・・それを避けようとした別の作業員がゲートのコントロールパネルに激突して、その・・・事態を早々に解決させようと応援を呼んだのですが・・・。」

 

「で、非常召集をかけたら、余計に被害の範囲が広がったわけね・・・。あぁ!もう、なんとなくその"最初の誰か"ってのが解っちゃった気がするんですけどー。」

 

 過去、直近でこんな事件が起きたのは、全て一人の男が原因だ。

 

「一体、何処から・・・と、言っても彼ならどうにでもしてしまいそうですからねぇ・・・。」

 

 だが、幸運な事に目的も行き先も解っている。

アイリは指示を出すべく、通信スイッチを押すとすぐさまGP内の他の警備担当が顔を・・・。

 

「?」

 

「どうなさいました?」

 

「今・・・今の画面に一瞬だけ走ったノイズは何?」

 

「ノイズ、ですか?」

 

 そんなのありましたか?と通信先の相手が首を傾げる。

 

「いいわ、それはこっちで調べるから貴方達は檜山・A・一路と、シア・・・監察対象者の身柄を拘束。但し、一緒にいる確率が高いだろう男には一切手を触れない事。いい?関わってもダメよ?」

 

 どうなるか解ったものじゃない。

冗談ではなく命が幾つあっても足りないくらいだ。

 

「というより、女性陣は何してるのよ?まさかあのコ一人で来てるの?あのコを一人にしたら"こうなるって解りきってる"じゃないの!」

 

「流石としか言いようがないですね。」

 

 美守はニコニコと微笑みを絶やさぬままだが、これは単純にどうにもならないだろうと完全に諦めモードに違いない。

 

「理事長、確認しましたが監察対象並びに檜山・A・一路両名の位置をロストしました。」

 

 通信を切る間もなく返答が来て、アイリは即座に理解する。

先程のノイズ、きっとアレが原因だろう。

GPの警備システムは、一度大きな事件があってから、より強固に改良されている。

その発端になった事件を起こしたのが、今まさにこのGPに来ているのだ。

ならば、"そういう道理"も通るのではないか、と。

恐らくジャミングか、それとも電源供給システム自体に何らかの障害が起きたか。

 

「あのガキんちょめぇ~っ!全ての宇宙港の閉鎖。人員を総動員して停泊中の艦の立ち入り検査をしなさい!」

 

 何がどうしてこんな手間のかかる大事になったのだと問うたところで、アイリには無駄だと解っていた。

何故ならば、これはどうしようもなく"運が悪かっただけ"なのだ。

それ以外の理由はない。

というよりそれが全てだ。

 

「あのコに関わると、なんでもかんでも運が良かった悪かったって話にしかならないのってズルいわよねぇ・・・ある意味なんでもアリなんだもん。」

 

「ある意味、運が良かったというべきじゃありませんか?貴方も言っていたじゃないですか。道中のボディガードされあれば良いと。」

 

「あー、言った言った、言いました!でもだからってコレはないでしょ?大体、今あのコ、別の銀河に行っているハズでしょう?こんな展開になるなんて思わないもの。そりゃあ、このまま彼女をずぅっと飼い殺しみたいなメに合わせるわけにはいかないし、何より教育に良くないのは解ってるわよ?ここ、教育機関だし。解ってるけど・・・ぬわぁぁぁんか悔しい!!」

 

 そこは、まぁ、貴方が大人気ないだけなのでは?という言葉を美守は飲み込みつつ、さてどうしようかと考える。

 

「ですが、あの二人が顔見知りになるのは良い事かもしれませんね。何より"同じ出身"のGPアカデミーの先輩なのですから。」

 

 いずれ二人を引き合っわせようとしていたのは美守だけでなくアイリも一緒だ。

一路と同じ地球出身でGPに関係し、かつ樹雷と交流があるといえばどうしても彼の名が筆頭して挙がる。

 

「何かしらの刺激、化学反応が起こればいいわねぇ・・・なんて呑気に思ってたのは今は昔のハ・ナ・シ・よ!第一あのコ一人で来ているなら、大問題よ!」

 

 この役割は天地の姉の天女や、アイリの娘の水穂という選択肢もあったのだが、そこはどう考えても良い方向にならない・・・特にアイリにとってはだが・・・。

かといって柾木家の面々に任せっきりなのも思想に偏りが出そうなのは同じである。

理由は簡単で、一路の思想がある意味で鷲羽に洗脳されているようなものであるからだ。

一路が抱く鷲羽のイメージと他の者が抱くイメージとの隔たりが果てしない事、この上ない。

 

「・・・・・・レイアちゃんと信幸くんとの子供のお守りは、柾木家の他の人間には任せらんないわ、コリャ。」

 

 しいて言えば、信用できるのは砂沙美のみだ。

 

「一応、"母"としてなら、鷲羽ちゃんは良い母ですよ?」

 

「なにそれ、身内びいき?」

 

「事実です。」

 

 美守の九羅密家は遡れば鷲羽に行き着く。

亡くなった前当主は彼女の息子だ。

それが周知の事実となって、思えばあれから九羅密家のある世二我だけでなく樹雷、宇宙も変わった。

非公式とはいえ、天地が表れ、三女神の実在が一部の者に明らかになり、鷲羽の生存の公表、そして・・・今、この状況の中心にいる山田西南の存在・・・。

 

「時代の流れはいつも唐突ですね。」

 

「急に老け込まないでちょっ?!」

 

 そう突っ込もうとした瞬間、爆音が上がる。

 

「これって・・・。」

 

「多分、檜山一路くんと山田西南くんが宇宙に出た音じゃないでしょうか?」

 

 既に美守は、いや、とっくの昔に捕まえられるという可能性は諦めている。

彼等ならば、何があろうと一度決心した事はやり抜くに決まっているから。

 

「・・・で、損害だけが残るってわけね・・・あー!もー!ほんと、相手に物理的だけじゃなくて、精神的ダメージまであっさりと与えられるのはズルいわ。」

 

 

 


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