真・天地無用!~縁~   作:鵜飼 ひよこ。

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第172縁:懐かしき日々よ。

「坊、口が開いたままやで?」

 

 そうNBに指摘されて一路ははたと正気に戻る。

戻りはしたのだが、なんともやるせない顔をしてNBを見てきた。

 

「だって・・・だってこんな・・・。」

 

「言いたい事は解るで、よぉ~く解る。せやけどな、これが世の中、現実ってもんなんや。そう思って諦めるんやな。」

 

 途中から既に説得の領域に雪崩込んでいた。

一路が呆けるのも無理はない。

彼等は既に船に乗り込み、宇宙にいた。

 

「軽い気持ちじゃなかったよ?僕だって覚悟してたんだよ?簡単な事じゃないと思ったし、大変だなってのは自分なりに解ってたのに・・・。」

 

 遂にはふるふると軽く震え出す始末で・・・。

 

「なのに、"ただ宇宙船まで走った"だけで宇宙に出られるなんてってか?だから世の中そんなもんやと思うしかないって言ってるやろ?深く考えたら、それこそノイローゼになるで?」

 

 もちろん、一路達の行く手を阻もうとする者達は何人、何十人もいた。

いたのだが、何故かその者達は触れる事すらも出来なかったのだ。

 

 ある集団は、"突然に"現れた暴れダチョウの群れに妨げられ、轢かれ、連れ去られて行った。

 

またある集団は、"たまたま"行われていた地下工事用の穴に吸い込まれるように次々と消えていった。

 

そのまたある集団は、"何故か"目隠しをして剣術の修行をしていた静竜に斬り捨てられて(勿論、峰打ち)いった。

 

宇宙港に着いてもその不可思議な流れは途切れず、行われていた立ち入り検査の順番は、"偶然にも"一番最後だったし、

 

そこにまで雪崩込んで来た追っても"どうしてか"床にぶちまけられたオイル、水、宇宙ウナギ、宇宙バナナの皮・・・etcに転倒。

 

 その流れのまま作業機械が暴走→ゲートに激突→小爆発→ゲート開放。

そして、宇宙へ、なのである。

ぶっちゃけ、本当に一路達は何もしていない。

ただ、船に向かいそれを起動させ、発進させただけだ。

 

「まぁ、ワシも摩擦係数的にバナナの皮で人は滑るっちゅーのは物理論文で証明されてるってのは知っとたが、本当に滑っとるのは初めて見たな。」

 

「寧ろ、そんな論文が存在してるって事に驚くよ、それ。」

 

「何を言ってるんや?地球の、それも日本の教授がノーベル物理学賞を取った論文やで?」

 

「ホント?!」

 

「あ、"イグ・ノーベル賞"やったわ。」

 

 などと非常に雑でヲチにもならないこのやり取りを、山田西南は懐かしそうに感慨深げに眺めていた。

かつての自分の姿を重ねて。

宇宙に出た時、西南は自分が本当にちっぽけな存在で、だけれども地球にいた時にはない自由と可能性を感じていた。

もしかしたら、自分のこの運命を変える何かが待ち受けているのではないだろうかと。

解き放たれたと言っても良い。

そこには自分の存在を必要としてくれた人がいた。

・・・その時と比べれば今は、少し窮屈だとは思う。

樹雷やそこに属する銀河連盟の思惑、簾座に代表される他の銀河連盟、そして地球の存在に・・・。

それはとても壮大過ぎて、西南一人ではどうにもならなかっただろう。

 

『マスターよろしかったのですか?』

 

 ふと、脳内に声が響く。

 

『D、だって余りにも可哀そうだと思うんだよ。俺はさ、もう既に物心ついてたけど、彼等は違うじゃないか。』

 

 することは出来ないと完全に諦めていた結婚だって宇宙に出て出来た(結婚式はメチャクチャになってしまったが)のだ。

世に言う夫の苦労というものを窮屈だと感じるのは、更に贅沢が過ぎると思う。

 

『しかし、これでは"依頼の内容"と異なります。』

 

『だから、"3人"じゃなくてD一人だけを連れて来たんだよ。』

 

 依頼。

確かに自分は鷲羽に檜山一路に"一人で"出会い、宇宙船を渡し、地球に"無事に"送り届けるという依頼を受けた。

普通ならば、額面通りに受けて何ら支障のない内容なのだが、こと山田西南の場合は事情が違う。

違うというのは、天地無用GXP小説第一部全14巻、DVD全8巻、コミックス1巻絶賛発売中!のいずれかをご覧になれば解るだろう。

勿論、全部見ても構わない。

そこには絶対に両立しない矛盾が存在する。

彼にとって宇宙に"一人で"出て、何事も無く"無事"なワケがない。

それ故に、流石に西南も一人で来るのを躊躇われたのだ。

まぁ、降りた宇宙港と全く違う宇宙港に現れて爆発騒ぎの原因になってしまうのもアレなのだが。

 

「ん?」

 

 ふと、西南は視線を感じてその方向に顔を向けると、一人の少女がじぃっとこちらを見つめていた。

結婚して、お嫁さんがいて、周りに傾国級の美女達がいても、未だに女性の視線にはたじろいでしまいそうになる。

 

「何かな?」

 

 何とか微笑みながら問いかけてはみたが、自分を見つめる少女の瞳は不安そのものだったので、西南は溜め息をついて観念するしかない。

 

「・・・どうして、あなたが・・・?」

 

 その言い方からして、やはり彼女は自分が何者で、現状がどういう事なのかを一番良く把握しているようだった。

 

「あー、えぇっと、檜山くんとNB?」

 

 まぁ、隠しているわけじゃないし、ちょっと鷲羽の依頼の"真の意図"とは違って、肩入れし過ぎだとは西南も思う。

でも、この少女に地球を見せたいという少年の願いには肩入れをしてもいいんじゃないかと思う。

事実、西南だって一人で全てを一人で何とか出来たわけじゃないし、あの戦いの時、"この少女を含め"全ての人を完全に救えたわけではない。

そして、今、彼女を救う手立ての一つであろう一路の行動を支持したい。

結局、自分が始めた戦いの続き、その後始末を彼に押し付けたような気まずさもないわけではなかったから・・・。

 

「お取込み中済まないんだけど、"そろそろ"だと思うんだ。だからお喋りはやめて注意した方が・・・。」

 

 と、言ったそばから船体が揺れる。

 

「ほげーっっ!」

 

「何?!」

 

 突然の衝撃に船内を転げるNBに一路の叫び。

西南が宇宙港を出た時から、用意周到に隠された運命という罠。

不幸を呼ぶはずの西南と一緒にいて、Dしか災いを偏向させる存在がいないのに、何故だか宇宙に出るという目的が達成されてしまった。

その方向に運命が巡る理由。

それは・・・。

 

【宇宙に出た方が、より災いの度合いが大きいから】

 

 




西南の特性の逆転は本来3人セットの組み合わせなのですが、ここは1人でも、1人分の軽減が出来るという事にしています。

という事で、懐かしみつつ天地無用GXPを振り返ろうキャンペーンを張ってみました(マテ)
でも、巷には西南が主人公なんて認めないって人が多いそうで・・・GXPはあれはあれで好きなんだけどなぁ、私。

ちなみに、バナナの皮の下りは全て実話ですw

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