真・天地無用!~縁~   作:鵜飼 ひよこ。

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第174縁:思考実践。

 西南に言われたからというわけではないが、一路には一路なりの自覚が芽生え始めていた。

それは艦長という位置にである。

こういった事に限らず、物事には考え方というものがある。

人間の主義主張と同じようなもので、見方を変えると全く違った捉え方が出てくるというアレだ。

以前にも述べたが、一路にはそういう思考の仕方が出来るくらいの多様な出会いに、良くも悪くも恵まれている。

但し、今、彼の目の前にいる山田西南はどかと問われたら非常に困ってしまうが。

彼を知る誰もが胸を張ってそうだと答えてあげられないのが残念なところだ。

 さて、そんな中で一路は思考を巡らす。

 

「NB、この船に武装があるか確認できる?」

 

 一応の確認だ。

船に乗る前に一路も船の外観を見たが、一言で表すと卵型。

横にした卵に小さな翼が生えているくらいだ。

シアはその外観を見て、微妙な顔をしていたが、西南がここまで乗って来た事、何よりそれが鷲羽が自分の為に用意したものだという事で、一路は特に何の不安も恐れもなかった。

哲学士にしてみれば、それは学術的興味の対象にしつつ、一路の事は変人或いは狂人呼ばわりする事だろう。

たが、今の問題はそこではなく、真っ白な卵型宇宙船のその外観を見た限り、およそ武装などというものがあるとは到底考えられない。

となると文字通り、口八丁手八丁でなんとかこの事態を乗り越えなければならないという事になる。

 

(消去法でも白兵戦は論外だし・・・あるのはまだ無事な船体だけか・・・。)

 

 ちらりと西南の表情を伺う。

西南の戦力がどれほどかは解らないが、流石にこの現状を引っくり返せないだろう。

一路hがそう考えるのは無理はないが、実際のところは彼一人でどうにでも出来たりする・・・のを理解しろというのは無理な話だろう。

 

(元々、こういうのって僕には向いてないんだよな・・・他の皆なら別だろうけど・・・。)

 

 ふと、そう考えて・・・では、皆ならこの状況でどうするだろうと一路は思う。

 

(照輝なら、やっぱり一人で突っ込んじゃうかな?う~ん・・・意外と冷静だから、皆を逃がす為の、道を作ってくれる・・・かな?)

 

 そこから順々に素早く考えていく。

 

(あーちゃんだったら一番にルートを探してくれるだろうし、プーならとりあえず交渉するかな?雨木・・・はやっぱり権力?あ、そもそも襲われそうな事はしないか・・・。)

 

 そんな風に考えていって、次に相手である海賊の事を考えてみる。

彼等は何故、海賊行為などするのだろうかとか、この場合は一体自分達をどうしたいんだろうかとか・・・。

 

(やっぱり、楽して大金を稼ぎたいから、かな。あ、自由だからってのもあるよね。)

 

 種族間、国家間、銀河間、そういうしがらみに縛られたくないというのも解らなくはない。

 

(あとは・・・生まれた時からそうだったか・・・。)

 

 海賊の子は海賊。

馬鹿げた話だ。

そしてもう一つ、一路は思いつかなかったが、既に何らかの罪を犯していた者だ。

 

(楽に・・・楽にかぁ・・・。)

 

「やっぱりソレっぽいのは無さげやな。」

 

 チェックを終えたNBの答えも想定内として・・・。

 

「ねぇ、シアさん、やっぱり人間、一度楽な方を味わっちゃうと、抜け出るのって大変だよね。」

 

「はぁ?」

 

 何の事はない、自分だってちょっと前までは思考停止した引きこもりだったのだ。

他人に危害こそ与えないものの、迷惑をかけているのは同じ。

 

「うん、"プーの案"でいこう。」

 

 ここにはいない友人の名を出して、シアを更に困らせてから、NBの方に向き直る。

 

「NB、海賊船と通信したいんだ。広域に回線を広げられる?」

 

「そりゃ当然できるが、どないするんや?まさか海賊共と"今更"交渉かいな?こっちは相手が欲しがっとるもんなんぞ一つも持っとらんで?」

 

「うん、でも向こうはそう思ってなくて、楽して稼げると思ってるんだよね?」

 

「そらまぁ、そうやな。ほれ、OKやで。」

 

 何かしらの操作をしてNBは一路の要望に応える。

何だかんだで、ナビゲートロボットとしてはそこそこ優秀なのである。

 

「あー、えーと聞こえますか?あの、僕はこの船の・・・て、そういえば船の名前まだ決めてなかった・・・シアさん、どうしよう?」

 

 まさに逃げるように出てきたので、そんな初歩的な事も忘れていた事に気づく。

というより、この船は船籍とか登録されているのだろうか?

 

「いいから話を続けなさい、バカ!」

 

「あ、また馬鹿っていう。そういうのヤメてって言ったじゃない?」

 

「い・い・か・ら・続・け・な・さ・い!」

 

「う゛っ・・・あ、艦長の檜山一路です。」

 

 シアの凄みに負けてというか、怒りはもっともなので、すごすごと引き下がって続ける事にする。

 

「えっと、この状況では逃げる事も抵抗する事も無駄だというのは、子供で解ります。」

 

 多数の海賊船に囲まれた状態で、一路の言っている事は間違いではないし、実際にこのようにして襲われた船が交渉してくる事はよくある。

だがこのように広域帯で通信を試みるのは意外と少ないし、基本的には海賊側から降伏勧告があるので、先に降伏してくるというのは民間船以外ではこれまた少ない。

 

「なので、降伏して積荷を明け渡して船員の安全を保障してもらいたいと思うんですけど・・・。」

 

 ここまでは本当にセオリー通りの定型文だ。

何も珍しい事もない。

一路側に明け渡す積荷がない事を除けば。

 

「でも、一体全体、"どの船の船長さんにそれをお願いすればいいのか"解らなくて困ってるんです。こちらの積荷は、当然"一隻分"しかないもので・・・。」

 

 

 


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