真・天地無用!~縁~   作:鵜飼 ひよこ。

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第175縁:一陽来復。

「うまいなぁ。」

 

 思わず呟いたのは西南だ。

海賊というのは、前述した通り皆が今の一路と同じように一国一城の主であり、個人事業主のようなものだ。

誰もが楽して儲けたいという思想だし、採算を・・・いや、採算以上に利益を得たい。

つまり、どういう事かというと、一隻の船がおもむろに船体からアームを伸ばして一路達の船を拘束しようとすると、そのアームを他の船から伸びたアームが押しとどめる。

そしてその横から漁夫の利を得ようとした第三の海賊船がアームを、更にそれを阻止しようとする海賊船が現れ、そしてそのまた・・・と、あとは連鎖反応的に海賊同士の争いが勃発する。

そんな事をしては、余計に割に合わなくなるのだが、目の前にぶら下げられた餌と海賊としてのメンツのせいで、そんな事は棚に上げられてしまうのが海賊だ。

 

「アンタね、友達は選びなさいって前にも言ったでしょ?」

 

 辺りで繰り広げられる海賊同士の争いをモニター越しに眺めながら、シアは一路にツッコミを入れる。

一路の言動が、彼の友人の影響で取られたものだというのが、"プーの案"という呟きで解ったのだろう。

朱に交われば赤くなるというワケだ。

 

「だから選んでるって・・・。」

 

 その証拠に雨木 左京とはあまり仲良くなれてはいない。

好き嫌いはあるものの、一路側としては別に一般的な(それこそ社交辞令的な)交流までも断絶しているつもりはないのだ。

 

(こっちから行く気がない時点で同じか・・・。)

 

 その辺りは追々反省しようと思いつつ。

 

「さ、今のうちに抜けて行こうか?」

 

「あい、微速前進でそろーりと・・・。」

 

 西南に促されて、ゆっくりと亀の歩みの如く海賊船の隙間を抜けてゆく。

レーダーに大きく拾われないように、慣性の法則よろしく、だ。

 

「きゃっ!」

 

「そんな甘くはないか、」

 

 包囲網から抜け出そうかとした丁度のその時、一路達の動きに気づいた一隻がアームを伸ばしてきたのだ。

 

「NB!全開で振り切って!」

 

 包囲から抜け出せたのなら、ワープが出来ない今は一目散に逃げるしかない。

 

「檜山君達、攻撃が来るよ、何処かに掴まって!」

 

 自分の時も、この後は雨あられと攻撃を浴びせられた経験から、一路達にすぐさま注意を促す。

 

「何とかアームを振り切ったで!ぬぉっ?!」

 

 船の真横で起こる閃光。

 

(真空なんだから爆発ってしないんじゃっ?!)

 

 そこは先進科学というものだろうかと、一路の浅い科学知識では解らないままミサイルの衝撃によろめく。

 

「NB!」

 

「当たっとらんから、だいじょっうげぇんっ?!」

 

 どう考えても次の衝撃は被弾したものであると誰にでも解った。

 

(潮時かな?)

 

 西南が拳を握る。

 

「振り切れそう?」

 

「わからん!」

 

 それでも必死に事態から抜け出そうとしている姿を見るとギリギリまで見守ろうとは思うのだが・・・。

第一、これから船を持つだろう一路のピンチをいつでも救えるとは限らないのだ。

出来る限りは自分達の力で解決する術を見つけるにしなければ。

 

「・・・最悪、地球に向けって超々距離ワープしか・・・。」

 

 攻撃を受けながらのワープは難しい。

更に座標をしていして、遠距離ワープなど自殺行為に近いのは全員理解している。

それでも事態が好転する可能性があって、他に選択肢がないというのなら、一縷の望みに賭けるしか・・・。

 

 

 -ミャオォォーンッ!!-

 

 一路が決意をして身体を起こす為に艦長席のコンソロールに手をついたその時だ。

一路の耳に、いや、その場にいた全員の耳に鳴き声が木霊する。

 

「今度は何や?!」

 

「船内が光ってる?」

 

 外の映像を映していたスクリーンが一瞬にして切り替わる。

 

【刮目相待】

 

 そういう文字が大きく表示され、その下に横長のバーが出る。

左から順に少しずつ色が変わり、バーの横に68%と数字が出てどんどん値が上昇し、100%になったところで船内の発光現象が治まった。

 

【我 曲突徒薪】

 

 そして、剣、拳、堅の三文字を頂点とした三角形の中心に"賢"の文字が浮かぶ。

その文字を見た者達の中で、一路だけは何が起きたのかを理解した。

 

「賢皇鬼・・・?」

 

「ミャン!」

 

 恐る恐る問いかけると、一路にとっては聞き慣れた声が返ってくる。

それに合わせてスクリーンの賢の文字がぴょんぴょんと跳ねた。

 

「なるほど。坊のガーディアンシステムと同期出来るようになっとるわけか・・・いや、元々宇宙船用やったちゅうことか?」

 

(福や天地先輩のトコのりょーちゃんの体がない版か。そういえばどっちも成長出来るんだよな。りょーちゃん6才くらいになったんだっけ?)

 

 元々こういう事を想定して、一路に合わせて成長させる為に先渡ししておいたという事も考えられる。

いや、鷲羽ならありうる。

ただ、問題は一路のパーソナリティに沿う学習は出来ていても、宇宙船の扱いを習得しているかだ。

なにせ、初めて与えられた自分の体が宇宙船だ。

 

(絶対ぶっつけ本番で試すつもりだったとしか・・・。)

 

 そんな事の為に自分に白羽の矢が立ったのかと思うと、西南は本当にやるせなくなる。

 

「自分のホログラムも出せへんのか、しゃーないな。」

 

 西南と同様の問題を感じ取ったNBは、自分の尻部分になるコードを尻尾のように伸ばし、近くのコンソロールに力強く射し込んだ。

 

「ワシが制御と座標をサポートしたる。後は賢皇鬼、坊、頼むでっででででで・・・。」

 

 あ゛あ゛あ゛という声に身体をガクガクと痙攣させるNB。

 

(ああいうところはそっくりだけど、こっちのNBの方が大分大人で面倒見がいいんだなぁ。後継機だから?やっぱりこれも俺との運の差かなぁ?)

 

 そんなしょうもない事を頭の隅に押しやりながら、西南は一路の顔を見る。

本当ならいけないんだけど、地球からGPに来た後輩にそれくらいの優遇があってもいいんじゃないかなぁ、何しろ初めて出来た地球出身の後輩だしとも思う。

勿論、後輩の部類には、成人後に地球に残るか、宇宙に出るかを最初から選べる柾木村の人々は数に入っていない。

 

「じゃあ、"艦長"、次の指示を。」

 

 先輩の余裕を見せつつ、一路に声をかける西南だった。

 

 

 




なんとなく四字熟語シリーズ(笑)

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