真・天地無用!~縁~   作:鵜飼 ひよこ。

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第176縁:そりゃただの船のワケがない。

 賢皇鬼が船のシステムとしてインストールされ、管制をNBがサポートとして連結した時と同じく、一路の乗る船の外観にも変化が現れていた。

横にした卵に羽根が生えたような外装に罅が入り、中から鋭角的な艦首をしたフォルムが現れる。

まるで孵化したような現象ながら、全体のサイズが変化しないという物理法則を完全無視した変わりようである。

船のフォルムが変わるに伴い、申し訳程度についていた羽根も大型化し、なにより一つ増えて三枚の翼になっている。

これまた物理法則をガン無視である。

鋭角的なテトラポッドのような形をした船。

それが一路の新しい船である。

 一路が初めて艦長の真似事をした時に乗り込んだあのGP艦に酷似しているのは決して偶然ではない。

賢皇鬼にとって物心ついて初めて乗った一路の船は、それに他ならないし、それ以外の船は海賊船と樹雷の船しか知らない。

前者は一路を攻撃してきた船であるから、あの形になるのは論外。

樹雷の船も、何やら一路の好みではなさそうなので、これまた論外。

と、なると自ずとこの形になるのは当然の帰結なのだ。

 

「ミャ?ミャミャミャッ!」

 

 船の変化に一時的に行動を止めた海賊達を尻目に、賢皇鬼の気合一発。

船内のディスプレイにNBの顔をした丸印が次々と現れ、そこに青い光の線が駆け抜ける。

まるで場末のゲームセンターにあるガンシューティングのゲームのように。

NB印のマルチロックを賢皇鬼が的確に撃ち抜いていく。

 

「ミャ、ミャ、ミャ、ミャ!」

 

「すごい・・・。」

 

「呆けてないで早く指示を出す。」

 

「あ、うん。」

 

 爆発を次々としてゆく海賊船の光景に口を開けたままあんぐりとしていた一路は、シアに突っ込まれてようやく正気を取り戻す体たらくだった。

一路が口にして指示をしない限り、賢皇鬼が入った今の船は動かないのだ。

 

「そのまま攻撃しつつ逃げ切るよ?」

 

「ミャッオォーンッ!」

 

 一路の指示しか受け付けないというのは、セキュリティ上はとてもよろしい。

よろしい事なのだが、一路の緊急時に誰の命令も受け付けないのでは考えものである。

幸い、賢皇鬼はその名の通り賢そうなので、きちんと教えれば(恐らく順位付け的な)理解してくれるので、早々に教えてゆけば大丈夫だおるとと一路は楽天的に考える。

何より、先程から続いている攻撃も、完全に相手を撃沈していなかった。

自分達に向かってくる確率が高い船を優先して、それはNBのロックマークのせいかも知れないが、武装系統のみを確実に撃ち抜いていた。

ミサイルのような実体弾は誘爆の恐れがあるが、そこまでは流石にこちらも関知出来ない。

周囲にとって阿鼻叫喚でしかない光景の中、船は進む。

その間も当然攻撃の手は休まずに続き、海賊船の4割近くが無力化されていた。

 

「何とかなりそうね?」

 

「うん。海賊の人達はちゃんと帰れるかな?」

 

「あんたねぇ・・・。」

 

 一路の発言に流石にシアも呆れて二の句が継げない。

 

「でもさ、こんな広い宇宙に放り出されたら、結構精神的に来ると思うよ?」

 

 例の本や映画で見た一路の狭い知識からの引用だ。

本来なら、こういった事は真っ先にNBが突っ込むのだが、今はそれどころじゃない。

 

「そりゃそうだけど・・・何もこんな時にまで・・・。」

 

 

 -ボンッ-

 

「え?」 「へ?」

 

 当面の危機から脱した安堵感から出た会話の最中に、船内で起きた不釣り合いな小さな破裂音に二人が固まる。

再び高まる緊張感の中、辺りを見回すとその原因が船内のディスプレイに隠れるようにして煙を上げるNBだという事に、一路の表情が変わってゆく。

 

「NBィッ!あちっ?!」

 

 慌てて駆け寄り、NBの身体を持ち上げようと触れてみるが、あまりにも熱くて触れられなかった。

その熱量が破裂音の正体がNBである事を如実に表している。

 

「一路!どいて!」

 

 シアが一路を押しのけ、NBを繋いでいたケーブルを蹴り飛ばす。

固定されていたNBが解放され、反動を受けてころころと転がるも何の反応もない。

 

「NB!NB!どうしようシアさん!NBが?!」

 

 一路の取り乱し方はシアにとっては、少々驚いたものだった。

しかし、NBは一路にとって宇宙に出て、一路だけの一路の為の存在なのである。

そもそもロボットと認識しているシアとは価値観が違うし、絆の深さも違う。

 

「私に聞かれても・・・山田さん、どうす・・・あれ?」

 

 解決策を教えてやりたいのはヤマヤマだが、生憎シアは工学系には詳しくはない。

しかも、NBはその最高峰である哲学士が作ったものだ。

あんなんでもアイリは腕はちゃんとした(果たしてちゃんとしたという形容詞が正しいのかは別として)ものなのだ。

しかし、それ以上にシアが戸惑ったのは、先程までそこにいたはずの西南の姿がない事だった。

賢皇鬼が起動して、海賊船を攻撃した辺りまでは確かにいた記憶がある。

というより、船が動き出してからこの方、ずっと同じ位置にいたはずだ。

 

「何処に行ったの?」

 

「僕に聞かれても・・・。」

 

 一路も西南がこの場から出て行ったという認識はない。

NBはあんなだし、肝心な時に西南はいなし、八方塞がりである。

唯一の救いは船が順調に進み始めたくらいだろうか。

 

「ん?どうしたんだい、二人共?」

 

 と、思ったタイミングで西南が二人のいる艦橋へと続く扉を開けて入ってきた。

 

「いつの間に外に・・・じゃなくてNBが大変なんです!」 「何処に行ってたんですか!」

 

「え?え?二人同時に言われても・・・。大丈夫そうなのを見てちょっとお手洗いに・・・て、NB?」

 

 西南は煙を上げているNBの姿を一瞥する。

 

(なんだかんだいっても、賢皇鬼は皇家の樹と同系の有機システムっていってもいいようなもんだからなぁ・・・流石にNBの方が耐え切れな・・・ん?NBってそんなに性能低かったっけ?性能高すぎてスペックの無駄遣いレベルだった気がするんだけど。)

 

 西南は自分の傍にいるNBのデータの内包量や性能を振り返って、心の中で首を傾げる。

 

「大丈夫だよ、鷲羽さんなら俺のトコのNBもイジった事あるし、きっと何とかしてくれるよ。念の為、時間凍結をしておこう。俺に任せて。」

 

 多分、この船にもその機能は存在するだろうが、これは自分が請け負っておこう。

 

『頼んだよ、D。』

 

 船は地球への進路を続け、一度ワープすればものの数時間で着くだろう。

一路が、西南が、GPに向かった時もそうだったのだから、逆もまた然りだ。

 

 

 




次回は番外編!・・・の、予定。

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