真・天地無用!~縁~   作:鵜飼 ひよこ。

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すみません、定番のタイトルですw
私の書いたものを全部読んでいる方は、またかよ、コイツ、好きだなぁと思う事でしょうw



第18縁:ココロの猫。

「要はね、可能性の問題って事なんだよ。」

 

 特に他の話題も無く、一路は三者面談をつつがなく終える事が出来た。

教室を出て、玄関を出た所で待ち合わせをしていた鷲羽が、一路を見るなりそう呟く。

 

「アプローチの角度の問題と言ってもいいね。」

 

 腕を組んだまま、指をぴんと立てて。

 

「未来は予測は可能だとしても、不透明だ。可能性はチャレンジしていないなら0%にはならない。宇宙飛行士にだってなれるんだ。」

 

 到底無理だと解るが、挑戦していないなら失敗も成功も発生しない。

発生していないのならば、確かに可能性はないわけじゃない。

 

「宇宙飛行でなくても構わない。つまり、一路殿は何にでもなれるってコトさ。」

 

 鷲羽の言っている理屈は一路にだって理解出来る。

出来るのだが・・・。

 

「僕は何かになれるのかな・・・。」

 

 それは自分に自信のある者が出来る事で、一路は自分に自信があるとは言えない。

二人で校門に向かって歩きながら、一路は俯く。

 

「"なれる"かじゃないよ、"なる"んだよ。失敗したって誰も責めないさ。でも成功したら胸を張ってもいい。チャレンジするってのはそういう事。あぁ~若いっていいわ~。」

 

 年取ると肩凝る~っと組んでいた手で、ぽんぽんと肩を叩く。

 

「そういうものかな。」

 

「そういうもの。チャンレンジしてなんぼ、当たって砕け散れ青少年。」

 

「いや、砕けちゃダメなんじゃ・・・。」

 

「そぉーりゃッ!」

 

「へぶぅっ。」

 

 一路があんまりにもあんまりな鷲羽の言葉に突っ込みを入れようとした瞬間、彼女の姿が視界から消えた。

何やら黒い弾丸のような塊が飛んで来たような・・・。

 

「オマエが砕けろ!」

 

 聞き慣れた声。

 

「り、魎呼さん?」

 

「おう、一路。三者面談とやらに乗り込むぞ。」

 

 一路には視覚出来なかったが、魎呼が超高速で鷲羽にドロップキックをぶちカマしたのだ、が・・・。

 

(人間のスピードじゃない・・・。というか、今、何処から来たんだろう?)

 

 目の前の校門から魎呼が来たようには見えなかった。

彼女が何かをする度に、不自然さが募ってゆく。

 

「え、えと、もう終わりましたけど、三者面談。」

 

 何が一体どうなったか解らないまま、そう素直に答えると魎呼がその場で崩れ落ちる。

 

「な、なんだって・・・折角ちゃんとした服で来たのによォ~。」

 

 そういえば、魎呼の服装は何時も着ているような和服モダン(?)なものではない。

但し、魎呼が述べる"ちゃんとした服"とはとても言えないもので、彼女の体を覆い彼女のおうとつを強調する真紅のボディコンという服だ。

一人の女性としても忘れられたバブルの女といったカンジで浮いて見えるうえに、男子学生の母親としても完全に的を外れている。

一路の感想としては凄い肩パッド。

 

「魎呼さん、騒がしいですわよ。」

 

「ほぇ?」

 

 もうここまで来れば、一路だってヲチは解りつつあった。

鷲羽に魎呼が突っ込み、ここで更に乱入とくれば。

 

「阿重霞・・・さん?」

 

 予想通り、そこには阿重霞がいた。

 

「一路さんの心象を崩さず、親御さんの顔に泥を塗らぬようにしなければなりませんよ?」

 

 こちらは洋装の魎呼と違って、薄紫色の和服だった。

何時もの変形的なものではなく、純和装だ。

どうやらしっかりと準備をしてきたのだろう・・・だが、一路はここで酷だと思いつつも言わなければならない。

意を決して、では、どうぞ。

 

「阿重霞さん、三者面談はもう終わりました。」

 

 硬直する阿重霞。

溜め息をつく魎呼。

 

「な、なんですってーっ!」

 

「残念だったな、阿重霞。品のある代理が出来なくて。それもこれも!」

 

「全く騒々しい二人だね。一路殿もそう思わないかい?」

 

 何事も無かったかのように鷲羽が一路の横に立っている。

 

「鷲羽!テメェ、よくも!」

 

「卑怯ですわ、鷲羽さん!」

 

 三人の間に何があったのか解らない一路は、ぽかんと立ち尽くすしかない。

 

「アンタ達二人に任せると、ロクな事がないからね。それに代理と言っても何もなかったかのようにあっという間だったよ。一路殿は優秀な子でね。」

 

「いえ、そんな・・・。」

 

 中2頃はきちんと予習・復習だけはしていたし、3年生も今頃までは通っていたのだからそんなものだろう。

 

「謙遜しなさんな。事実は事実として受け止めるべし。さてと、三人共帰るよ。また何かあればその時に相談に乗ってあげればいいじゃない。」

 

「いや、それは迷惑なんじゃ・・・。」

 

 今回も結果的には助けてもらった事になるうえに、これ以上というのも・・・一路はそう思う。

余り世話になると、返せなくなる。

恩とかそういったものを、と。

彼はそういう真面目な人間。

 

「迷惑なんて思う輩がノコノコこんな所まで来やしないよ。そうだろ?」

 

 目の前の二人に目配せする。

 

「迷惑?これが迷惑のうちに入んなら、美星はとっくに吊るされてんな。」

 

「縛り首ですわよ、縛り首。」

 

 物騒過ぎる。

というか、美星は一体普段何をやらかしているのだろう?

乾いた笑いしか出てこない。

 

「あぁっ!てか、鷲羽、テメェ、話をスリ変えんな!そんな何時来るかも解んねぇ相談待ってられっか!」

 

 単純に一路が喜べばそれでいいので、相談が無ければ無いで無理矢理言わせようくらいの勢いが感じられる。

というより、やるのが魎呼だ。

 

「いや。意外とすぐにでもありそうかもよ?」

 

 一路の意思を無視したまま、鷲羽は今出て来たばかりの校舎を振り返る。

その視線は、さ迷う事なく、定まったある一点だけを見つめていた事までは誰も気づかなかった。

 


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