どうしたい?
そう聞かれると一路としては困ったと言わざるをえない。
全く同じ事を以前から聞かれているのにも関わらずだ。
その問いの答えを持っていないわけじゃない。
但し、誰に言ったとしても荒唐無稽だと思われるだろう。
しかし・・・。
「えと・・・チャンスが、欲しいです。」
遠回しに答えるとするならばそんな感じだった。
「うん、それで?」
西南も急かしたりはしない。
どんなチャンスを?というニュアンスを含めた声で続きを促す。
「チャンスが、きっかけがないと人はなかなか変われないと思うんです・・・。」
ふと心細くなって、目の前の"友人"に触れようとしたが、まだかなりの熱を持っていて慌てて手を引っ込める。
「僕"も"そうでした・・・。海賊の子供は海賊になるしかないんでしょうか?ワウ人は、ワウ人は一生他と相容れないんですか?他の少数種族も。広いこの銀河で、大人達が今やっているような権力争いを僕たちも続けなきゃならないんですか?一体いつまで?地球人は延々とこの銀河の少数の権力者の手のひらの上にいなきゃならないんですか?」
どうして顔も知らない、自分達が産まれる前から続けられているこの事態の全てを、全く関係ないのに、生まれだけで押し付けられなければならぬのだろう?
それが一路の中に生まれ、最終的に残った疑問だ。
「そうだね。先人達の知恵って言葉もあるけど、全部が全部従う必要なんてないよね。うん、ないよ。」
西南はこの少年の一言一言が面白くて、嬉しくて、そして希望に満ち溢れていて心が弾んで仕方がない。
逸る気持ちを抑えながら・・・。
「ないけど、一路君?じゃあ、一体どうすればいいと君は思うんだい?人は結局は社会に属さなきゃ生きてゆくのは大変だよ?それが嫌だから海賊や旅人がいる。いや、一応海賊だってギルドがあったりするから、あれも一種の社会集団だね。」
ああ、なんて意地悪な事を言っているんだろう俺はと、西南は自分の良心がチクチクと痛んだ。
だが、ここが正念場だろう。
彼の腰に挿してある朱塗りの木刀を視界に入れながら、解答を待つ。
答えは既にその木刀が証明していたりするのだが。
「居場所を作りたいんです。例えば人生をやり直せる。勿論、人種だって。誰かの目や身分を気にせずに、怯えずに自由に発言できる・・・。」
それでいて他者に侵害されない社会集団というと・・・。
「つまり、君は"国"を作りたいというのかな?樹雷でも、世二我でもなく、GPやアカデミーとは違う第三国を。そんな事が出来ると思うのかい?」
「出来ないと思います。例え賛同してくれる人が沢山いても、まず土地がないし、土地があっても他の人達がそれを許すわけがないと思います。逆に潰されちゃうかも知れないし。支援があったりしても、それはそれでその人達の利益になるように動かされる事になっちゃうかも・・・。」
(色々と考えてはあるのかぁ・・・なんか、俺の昔と違って、大人過ぎやしないか?彼。)
心の中でトホホと涙目になるのを表には一切出さないようにして・・・。
「それでも出来るならばやってのけたいって事、なんだよね?」
最後の問いかけに一路は力強く頷く。
「そうかぁ~。君をそうさせるのは、やっぱりお友達の存在があるからかな?」
「・・・そう、ですね。」
「いい事だね。友達は大事にしないと。さて、じゃ、ここで大人の悪知恵を貸してあげよう・・・はぁ、なんかヤだな、こういう言い方って。段々ロクでもない大人達に俺も近づいている気がしてしょうがない。」
自分で言っておいて大ダメージ。
「まず土地の事なんだけど、実は俺、"惑星を1個持ってる"んだよね。」
「・・・は?」 「へ?」
これには事の成り行きを固唾を飲んで見守っていたシアも口をあんぐりと開けて間抜けな声を発していた。
大体、どうすれば一般人が惑星をひとつなんて持てるというのだ、その手段すら解らない。
「先住民は多少いるけど、惑星全体からすればほんの数1%以下の小数点くらいでさ。ほとんど未開の惑星だから開拓するのも大変だし、俺一人で惑星持ってても持て余しちゃうから"貸してあげるよ"。」
そしてその星を丸々一つ、先住民に配慮せねばならないが、ぽんっと貸すとかいうのも一路の脳みそでは理解出来ない事である。
「・・・ん?」
固まったままの二人の様子を見て、はて?何か変な事を言っただろうかと西南は考える。
「あぁ。昔、未登録の惑星を発見してね。まぁ、なんというか成り行きでその星の持ち主の権利?みたいのをたまたま手に入れちゃったんだよね。」
言うまでもなく神武の事である。
正式にはその胎内にある、樹雷の樹の種なのだが、問題なのは、これがまぁ樹雷の皇位継承権を兼ねている第一世代の樹だったくらいだろうか。
それは第一世代の現存数が4本だと思っていた樹雷側もおったまげである。
ちなみにこの現存数だが、地球にある行方不明扱いの船穂は対外的には含まれていない。
ただ、事を更にややこしくしているのはそこで、つまり現状、第一世代を持つ樹雷皇を除けば他には西南一人になり、自動的に皇位継承第一位になってしまっていたりするのだが、それに伴ういざこざはまた別の話。
そして、第一世代が"本当に6本しか現存していないのか?"というのもまた別の話にしておこう。
「いや、そういう事ではなくて・・・。」
「あ、勿論、正式な持ち主は俺のままだし、所有権は銀河連盟、当然樹雷にもGPにも世二我にも認められているから大丈夫。鷲羽さんも多分、幾つか持ってると思うけど、鷲羽さん名義だと、ほら、なんていうか、何かと物騒な気がしないかい?」
鷲羽なら惑星ごと改造していてもおかしくはないというのが西南のイメージだ。
恐らく動機は、必要だったからとか楽しそうだったからとか、何というか子供が段ボールハウスを作ったり、懐中電灯片手に押し入れの中に籠ったりするのと同レベルの感覚でそれをやっていそうではある。
「いや、問題はそこでもなくて・・・。」
「うん。」
シアの呟きに呆然としながらも一路は頷く。
そこから何とか自らを奮い立たせて表情を引き締めながらも・・・。
「どうしてそこまでしてくれるんですか?」
「ん?だって君にとっては必要な事だろう?」
「そうですけど・・・。」
「じゃあ、同じ地球人だから・・・ってだけじゃ拙いか。うまい話には裏があるって言うしね。」
「裏、あるんですか?」
「そりゃあ、あるよ。大人の悪知恵って言ったじゃない?」
「聞いても?」
「昔ね、俺も同じような事を考えた事があるんだ。でも、その時の俺にはそんな力も大それた計画も希望も無かった。でも、俺よりもっと前に同じような事を考えた人がいた。今じゃ前より多少の力を手に入れて、少なくない友達や仲間、知り合いも増えて、前よりももっともっと昔じゃ考えられないくらい、俺の人生はハチャメチャで豊かになったんだ。そうして歩んで来た道をある日振り返ったら、なんと真後ろに君がいるじゃないか。」
声に出してまとめてみると、なるほどそうだったと再認識する。
同じ地球人ってだけじゃない。
同じような価値観を持てる、同じ視点だけどちょっと違う角度で見る事の出来る人間。
「これは先輩としても、これから先、共に歩いて行く同志としても、手を差し伸べざるを得ない。なんてね。勿論、君は君で、俺は俺で、その道を歩んで行けばいいし、なんだったら全力で追い抜いて行ってくれて構わない。努力なら俺も負ける気はないけどね。ただそうだな・・・・・・うん、君にこれだけは先輩として言っておこうかな。"君のその考えは、想いは決して間違ってなんかいないよ"。だから、いつか俺達はどっかでかならずまた交わる。その時の為に力を貸すのは、俺にとっても悪くはない話だろう?」
先行投資みたいなものだと言う西南に、先物取引の間違いじゃないだろうかと言いたくなる反面、西南の言葉は何か温かいモノを以て、一路の胸に染み込んでいく。
「時間はまだあるし、じっくり考えて、きっちり下準備して決めてくれればいいよ。返事は鷲羽さんか、樹雷の瀬戸様、GPだったら美守さんかアイリさんに伝えてくれれば・・・・・・。」
そこまで言ってピタリと止まる西南の姿に一路とシアも固唾を呑む。
ここまでかなり美味い話なのだ、どんでん返しがここであってもおかしくはない。
「あー、やっぱり美守さんにしよう、うんうん、美守さんに伝えてくれれば大丈夫だから・・・・・・多分。」
瀬戸は一路の存在を知っているし、彼が自分のやろうとしている事に組み込まれるのを否とは言わないが、かなりの・・・いや、大変なる試練を課しそうだし、アイリは嬉々としてこの騒ぎにかこつけてあの星に別荘か秘密基地でも作りそうだ。
鷲羽は一応、一路寄りではあるが、何時手のひらを返して暴走するか解らない。
となると消去法でここは美守の良識に賭けるしかなかった。
西南は一路を見る。
宇宙に出た頃の自分よりも幾分か幼くひ弱そうな気もするが、瞳に篭められた意思は何よりも強いように見えた。
(う~ん、しっかり者の弟かぁ。これは兄貴分としても負けられないぞ。)
「まぁ、いきなり国ってのは考えなくて構わないよ?最初は自給自足の家庭菜園のサークルみたいなノリから始めれば・・・。」
惑星規模の家庭菜園なんて想像しろという方が無理である。
コロンブスも真っ青だ。
「でもまずは仲間集めだね。その辺は天地先輩んチに着いてから考えようか。」
「はい。」
思わぬところで一足飛びに前進してしまったこの現状を一路はまだ信じられないでいた。
でも、頑張り続けてさえいれば・・・先人がいるというだけでも心強い。
「ところで、一路君?」
「はい?」
「そろそろ地球の重力圏だと思うんだけれど、NBはあんなだろ?地球への大気圏突入はどうやるんだい?賢皇鬼も初航行じゃ大気圏突入なんてした事ないんじゃない?」
・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・。
「あ・・・。」
「?」
「あ゛ーっ!!!」
一路の絶叫が船内にこだまする中、船は加速を始め地球の重力に引かれてゆく。
地球施設の各衛星やレーダーに姿が映るような事はないが、大気圏突入時の衝撃はまだ別である。
「あー、まぁ、この船なら壊れる事はないし、俺達も大丈夫だけど、なるべく水のある所に落ちてね?」
「なんでそんな落ち着いてるんですかっ!」
「そんな事いいから、一路、早くなんとかしなさい!」
「なんとかって?!」
今回のヲチはコレかぁと半ば諦観気味の西南は慌てふためく一路とシアを二人共仲がいいんだなぁと眺める。
「う~ん・・・これは俺の時と同じというか、"美星さんコース"かな・・・。」
何故シリアスにならぬっ!ならぬのだっ?!