自分の父と違って真面目そうだ。
それが天地の一路の父に対する第一印象である。
逆に言えば、一路も生真面目なところがあるという事で、尚更説得力が伴う。
ひとつ挙げるとすれば、一路の外見はおっとりしているように見えるので、その差だろうか。
となると、自分と父もやはり似ているのだろうか?
あぁ、時折いい加減というか、優柔不断なところか。
(って、魎呼達があんな事を言うから・・・。)
思わず親子である事について考え込んでしまったと頭を振る。
「俺も一路君の事を凄いなぁって思うんです。一生懸命に色んな事を考えてて・・・。」
生きる事に必死・・・過ぎて・・・そう言葉を続けようとして飲み込んだ。
(あぁ、そうか。)
天地はようやく一路の言動の基準がそこにあるのだと理解したように思えるた。
それだけ岡山に来てからの一路は毎日が必死だったのだと。
そう"生きるという事に"。
もっと細かく言うなれば、生きるという辛さ、残されるという苦しさ、そしていつか必ず死ぬという理不尽さに。
それはまさに人という存在の愛別離苦に他ならない。
(俺も母さんが死んでなければ、死ぬって事にもうちょい他人事でいられたのかもな。)
ある意味、それが若さというものの一端なのだろう。
知ってしまったからこそ考えざるをえない。
自発的に考え始める事と、強制的に考えさせられる事は似ているようで、やはり全く違う。
だから、一路は人の本質というものに敏感なのかも知れないと。
「とても優しい子なんだなって、少しだけ興味があったんです。」
のような教育と環境だったらこうなるのか、良い意味で親の顔が見たいというか、それはそれは大きな愛を受けて生きてきたんだろうという・・・。
「実際は息子にこの世の不幸を押し付けたような父親です。それを貴方のお父上に言われてようやく気付く程度の・・・。」
沈痛な面持ちをする男の顔を見ても、やはり天地の抱く感想は、親子なんだな、似てるとしか出てこない。
それはそれで失礼な事だなと思いつつも。
「儂は・・・。」
「じっちゃん?」
「儂は"人に寄り添える子"だと思うたな。」
最初の挨拶以来ずっと無言を貫いてきた勝仁が口を開いたので、声を上げた天地だけでなくその場の全て人間が視線を向ける。
その視線を受けて、しばらくの間、そして勿体ぶったように・・・。
「誰かにそっと寄り添う事の出来る人間は優しく、そして強い。ただ痛みに敏感過ぎて傷を負ってしまうのは、少々の強さとそして己が歩む道を肯定し、見守ってくれる者がおらぬからじゃよ。だが、それも心配いらん。」
護るモノを手に入れ、それに見合う強さを求め、それでも道を見失わない者に樹は手を貸す事が多い。
こと、護るという事に樹の性質は特化しているといってもよいのだ。
「護られる者から護る者に変わってゆくのを大人への成長と言うのかも知れんのぉ。という事で、天地?」
「ん?」
唐突にまとめの言葉を発したかと思うと、何故か天地に話題が振られる。
その不自然な流れに天地は首を傾げるしかない。
「ほれ、しっかり持っとれ。」
無雑作に勝仁が何かを天地に向かって投げる。
「・・・・・天地剣?」
そいえば今日は野良仕事以外は何の外出の予定がないので、居間に置いてあったのを思い出す。
樹雷の者が見たら卒倒しそうな状態だが、覚醒してそれを努めて表に出さないようにしている今の天地にとって、正直天地剣というのは、喚べば来るようなレベルになってしまっているので、特に無用心というわけではない。
それに勝仁を除いて、天地以外の誰もが使えるものでもない。
ではなく、問題なのは・・・。
「やれやれ、気づかんか?もう来るぞ?」
呆れたように湯呑を持ったまますっくと立ち上がる勝仁を見てから、天地ははっとする。
が、もう時間が残っていなかった。
音がどんどんと大きくなり、轟音に変わり何かが迫って来るのが解る。
ここでようやく天地剣を構えるに至る天地なのだが・・・皆はもうご理解いただけただろう。
柾木家に迫っているのが、宇宙船だという事に。
そして、それが寸分違わず柾木家の横にある池を目指している事に。
果たして墜落に近い大気圏突入が不幸であるのか、柾木家の池に落ちるコースが不幸なのか。
一体、どれが、どこまでがその範囲だったのかが解らないところが、山田西南の影響を排除出来ない大きな要因だろう。
因果律というのはそういう・・・
ザッパーンッ!!!
大量の水が縁側の窓をサッシごと砕き雪崩込んで来る。
仮に勝仁が明確に備えると言っても流されないにするしかない。
シールドを宇宙船に向けて張ってもいいが、それでは宇宙船に乗っている者達が傷ついてしまう。
誰が乗っているかも解らないのに、そこまで気を使う理由は明白である。
何故なら、この現象は柾木家の面々にとって、墜落でも何でもない。
ある種の・・・・・・"着陸"であるからだ。
池の水の中に落ちるのに着水ではなく着陸とはこれ如何に・・・。
(美星さんがこっちにいるからって油断してたなぁ・・・。)
ずぶ濡れになりながら苦笑するしかない天地であった。