真・天地無用!~縁~   作:鵜飼 ひよこ。

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第181縁:傍らの、もうひとつの兆し。

 水しぶきと波が起きて数分も経たないうちに、湖とも言える池の中から塊が飛び上がる

それは放物線を描いてゆっくりと柾木家の縁側に降り立った。

薄く色づいた膜、ガーディアンシステムに覆われた状態を解いて開口一番叫んだのは一路だ。

 

「すみません!池がただいまで!水が壊れてNBが!って父さん?!」

 

ただでさえ混乱しているのに、自分が引き起こした現在の惨状に父が巻き込まれている事で口をパクパクさせながら、状態に陥る。

 

「あー、うーんと・・・。」

 

 何から説明したらいいのやらと苦笑する天地も、動揺こそは(日常茶飯事レベルなので)しないまでも、困り顔になる。

 

「はいはい、おかえりよ。さ、NBをよこしな。それと魎呼、一路殿のお父上も運んでおくれ。阿重霞殿は一路殿と彼女にタオルを。」

 

 平然としたまま指示を出せたのは、その場にいた者達をかき分けて入ってきた鷲羽だった。

その声に弾かれるように我に返った一同が慌ただしく動き始める。

 

「じゃあ、俺は・・・掃除かな。」

 

 さも当然の役割だと天地も慣れたものである。

 

「それとも、先に”あっち"の相手をした方がいいのかな?」

 

 未だ波立っている池の方角を眺めながら、微かに感じる気配に向けて投げがけてみたが、その気配はあっという間に消えた。

 

(顔を出せない事情・・・か。そりゃ大変だよなぁ、瀬戸様だもんなぁ・・・。)

 

 相手の複雑な立場を慮りつつ、天地はモップと箒、チリトリを取りに玄関へ向かう。

 

(ガムテープもいるかなぁ・・・。)

 

 何だかんだで、非常に効率的というか、慣れたものの一言である。

それが良い事かは別として。

 

「どれ、儂等は茶でも煎れ直して客人をもてなすかの?」

 

「はい、お義父さん。」

 

 "一滴も"濡れていない勝仁と信仁は、いそいそと流されて壁に引っかかっていたテーブルを持ち上げ、お茶の準備を始めるのだった。

 

 

 

「締まらんなぁ・・・。」

 

「何がだい?」

 

 施術台にベルトでバツ印に固定されたまま、人でいうところの意識を取り戻したNBはポツリと呟く。

 

「そりゃあもう、何から何までや。あんな美味しいとこ取りしといて、オーバーヒートとかカッコ悪過ぎるやろ。」

 

 身体のハッチというハッチを開放し、真ん中からもバックリと開いた状態で、鷲羽に点検されながら溜め息をつく。

ここに鷲羽がいるという事は、地球に着いたか、少なくとも一路の身の安全が確保されたという事だと認識しての発言だ。

 

「あら、カッコつけたかったのかい、アンタ。」

 

 前のサポート型NBを知っているだけに少し以外そうに鷲羽は笑う。

このNBは小細工なしのオリジナルNBとほぼ同型機だ。

元々アイリの設計なので、他のサポートロボットより郡を抜いて高機能だし、拡張性も高い。

もっとも、前のNBはその拡張性の大半を別人格と無駄なインストールソフトで使い果たしてしまったが、今回は違う。

 

「いや、それは言葉のアヤや。それでも、まぁ、何て言うん?坊の兄貴分みたいな気概っちゅーやつか。そりゃ、ワシは坊のサポートロボットやから、それ以外の事はせぇへんし、できひんけど、ま、それとはまた別にして、な。」

 

「なんだいなんだい、意外とマトモな口きくじゃないかい。」

 

 ガーディアンシステムと時間凍結で保護されていた事と、記憶系統の損傷がなく簡単な修理で済んだ事に鷲羽はほっとする。

どんな状態でも直せる自信は当然あるが、大事になると、ましてや記憶が飛ぶとなると、一路が悲しむ。

無機物体だろうが有機物体だろうがだ。

あれはそういう子だ。

 

「作られた目的に沿うっていう制約があっても、逆に言えばそれ以外は自由やしな。」

 

 拡大解釈をしてゆけばそういう事になる。

前のNBもそうだったが、ロボット三原則など知った事かという感じだ。

実際、前のNBはその辺りが、破綻しているとしか表現出来ない状態で、何度が主人である西南を裏切っていた。

 

「それで?アンタはどうなれば満足だって言うのサ。」

 

「ん?満足?そうやなぁ・・・。」

 

 自分の産まれた意味、それを考えれば答えは簡単なのだろう。

しかし、NBはそれで満足が出来るかと問われれば、果たしてそうなのだろうかと思う。

 

「ん~、坊は何でもかんでも自分で抱え込むからなぁ・・・頼られたい?信頼されたい?そういうのもピンと来ぃへんなぁ・・・。」

 

 各部を開け締めして具合いを確かめながら、NBは唸る。

 

「坊はエェ子やから、やっぱ幸せになってもわなアカンな。昔は宇宙に出て独りぼっちやったから、ワシが必要だったけど、今は少しずつ良い方向に変わっとるし・・・。」

 

 最後にひとしきり唸ってから・・・。

 

「坊が幸せになって、ワシが必要なくなるくらい友達もぎょーさん出来たのを眺めながら、笑って"役目を終えたい"なぁ・・・て?どないしたんや?」

 

 NBの言葉に手を止めて、目をぱちくりする鷲羽に首を傾げる。

 

「あ、アンタ、まさか・・・。」

 

「ん?なんや?あ、何か変な機能つけたんじゃないやろな?ただでさえアイリはんの設計って事で疑われとんのに・・・。ハッ?!ワシの盗撮データ狙いか?!て、アレはアウラ嬢ちゃんに没収されたんやった。ほな、何や?」

 

「いや、何でもないよ。修理はおしまい。追加した機能は宇宙船とのペアレントコントロールだけだよ。基本は賢皇鬼だし、有機物体と無機物体間のペアレントは避けるに越した事はないんだけど・・・ま、次からはオーバーヒートなんて事にはならないから安心しな。」

 

 そこは鷲羽ちゃんの太鼓判だよと胸を叩く。

 

「ま、えぇか。ありがとさん。さて、坊とこれからの予定でも立てるかいな。」

 

 ひょいと台から身を躍らすと、コロコロと転がってゆくNBの姿を眺める鷲羽。

 

(自分の死に方を模索して、緩慢だろうがそれに向かって進むっていうのは、巷のサポートロボットの枠を逸脱してるんだけどねェ・・・。)

 


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