「で、あれからどうしたんだよ?」
柾木家の面々とひとしきりの再会の挨拶をかわした後、父親が意識を取り戻すまで、一路は問われるままに今に至る顛末を話し始めた、
「それで今回はこうなったワケか。アイリのヤツを出し抜くなんて、宇宙に出てから肝が座ってきたじゃねーか。」
一路のそれを素直に成長を受け取った魎呼は、ニシシと歯を見せて笑う。
「正しいと思った事を貫き通して、他者と衝突してしまう事は多々ある事です。」
同様に一路を評価する阿重霞。
「んで、本音は?」
「日頃の行いが悪いせいって、魎呼さんッ!!」
誘導尋問にもならない質問に乗っかって声を上げ、阿重霞はぽかぽかと魎呼の肩を叩く。
この二人の様子を見られただけで"帰ってきた"のだと一路は思う。
(帰って来た・・・か・・・そう思うって事は、僕の居場所はやっぱり"ココ”なのかな・・・。)
宇宙に出ると出身の単位が惑星レベルになってしまうせいか、どうにも帰属意識というものが希薄になる。
かといって、『アイ アム ジャパニーズ!』と高らかに謳う程、愛国心があるわけでもない。
その辺りが複雑で、なかなか表現しずらかった。
「それで?これからどうするつもりなんだい?ここまで”彼"と一緒だったみたいじゃないか。」
魎呼と阿重霞の騒動が拡大する前に、すかさず天地が違う話題をねじ込む。
「あっ!」
「もう帰ったみたいだけれどね。色々と"立場"があるから、彼は。」
怒濤の展開過ぎて、すっかり西南の事が頭から抜け落ちていた。
あれだけ世話になったというのに、何て礼儀知らずな・・・。
「お礼を言いそびれてしまって・・・。」
「礼どころか、素直に地球に戻ってこれんかったじゃろ。気にする程でもない。それにあの小僧なら、最初から礼を求める気などさらさらないじゃろうて。」
全てのやりとりを信仁と眺めながら茶を啜っていた勝仁は、話しが進まなくなりそうなのを見越して、フォローを入れる。
こういったタイミングの良さは、いつまでたっても真似出来るものじゃないと天地は思う。
「はい。また何処かでお会い出来るといいんですけど・・・。」
「は、はは、彼も何かと忙しいからね。」
会ったら、会ったで、恐らく、いや絶対に何かしらのトラブルに巻き込まれると解っているにも関わらず、そうきっぱりと言ってのける。
そんな一路に渇いた笑いが漏れる。
(何ていうか、豪快というか・・・成長したんだな。)
そこは先輩として生温かい眼差しで・・・。
どちらにとっても、自分は先輩みたいなもんで、どちらも自分の後輩みたいなもんなのだから、仕方ない。
もとより、どちらかを贔屓するつもりもないが。
「それで、ここでの用事が終わったらどうするんだい?あ、いや、そうじゃないな・・・。」
話題があらぬ方向に修正して同様の問いかけを再度しようとした天地は、そこで言葉を止める。
ぽりぽりと自分の頭を掻いて、ひと呼吸。
「"何をする"んだい?もう決めたんだろう?協力できるか解らないけれど、教えてくれないかい?」
別に天地まで、魎呼達のように保護者を気取ろうというわけなじゃない。
それに天地達だって、おおっぴらに動けるものでもない。
それでも、それだったとしても、何というか意思表明みたいなモノはしたいのだ。
「正直、どこから話したらいいのか・・・。」
一路の結論、意思というものは、一言で表すなら、"宇宙に出てからの道程"である。
それを全て話すには時間が足りない。
「そうだね、宇宙に出てからの全てだしね。じゃあ、宇宙に出た感想は?」
「悔しかったです。」
その一言だ。
それ以外に一言で表せる言葉はない。
「自分の力が足りない、弱いのは、それは自分の責任だから、自業自得だけれど・・・でも、それが足りない事で、誰かが傷つくのだけは絶対に嫌で・・・そりゃ、一人の人間を全ての脅威から完璧に守るなんて事が出来ないのは、解っているんですけど・・・。」
思い出すと震えが止まらなくなる。
誰かを失う事に直結するかもしれないという事実に。
それが、あんなにも自分に良くしてくれた人達だという事に。
「でも、放ってはおけないんだろう?」
天地の言葉に俯きかけていた顔を上げる。
天地は、一路に優しく微笑んでいた。
「俺も同じだよ。俺も弱いから、"独りじゃ生きていけないんだ。"」
天地が戦闘力的には弱いとかそういう次元は、この際投げ捨てて置くとして。
「だからさ、多分、これから一路君が言おうとする事、望む事は、きっとそんなに変な事でも、間違った事でもないと俺は思うよ?」
望みを口にする前に、しかも、宇宙で西南に言われたのとほぼ同じ言葉で、断言されるとは思ってもみなかった。
天地は確固たる気持ちでそれを断言する。
それは信頼と同一だ。
だから、一路は、流れ出そうになる涙をぐっと堪えて・・・それでも幾ばくかを流しながら。
「理不尽な事を、理不尽だと言いたいです・・・それはすっごく勇気がいるけれど、生まれだけで価値や未来を決められたりするのを見るのは嫌なんです。そんな世界で、何かを諦めて、下を向いて生き続けるのは、違うと思うんです・・・だから・・・だから・・・。」