真・天地無用!~縁~   作:鵜飼 ひよこ。

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第24縁:剥き出しの心。

「ご相談事とは何でしょう?」

 

 折り入って相談がある。

出会ってから2,3時間程度の一路の願いをすんありと聞き入れてくれるノイケは寛大だった。

この辺はいいチョイスだと言える。

居間では他人の目があるという事を察して、別室に移るというのも流石ノイケの配慮とも。

 

「あの、実はですね・・・。」

 

 問題はそれとは別の所にあった。

二人が入った部屋の扉の外にひっそりと詰める人影。

 

「アンタ達ねぇ・・・。」

 

 きっちり聞き耳を立ててぴったりと扉にくっついている魎呼と阿重霞の二人である。

しかも、魎呼にいたっては先程まで呑んでいた酒のコップを扉にあてている始末。

その光景に天地を連れた鷲羽は、ただただ呆れるしかなかった。

 

「ま、この二人はコレだからして、一路殿のノイケ殿を選んだ選択は間違っちゃいないって事かねぇ?」

 

 そう同意を求められても、天地としては曖昧に苦笑するしかない。

 

「こっちもこっちで大事なハナシがあるんだ。わざわざ天地殿にまで付き合って来てもらったんだから。」

 

 チョイチョイと指で二人を招き、こちらはこちらで内緒話(?)を始める。

 

「で、何だってんだ?」

 

 聞き耳を立てていた扉を名残惜しそうに眺めながら、魎呼は鷲羽に寄ってくる。

 

「一路殿の事だよ。」

 

 邪魔された事に文句も言いたいところだが、一路の事となってはこちらも蔑ろには出来ない。

 

「皆はさっきのをどう考える?」

 

「さっきの事とはノイケさんのイメージの事ですわね?」

 

 水鏡。

読みは"みずかがみ"だったが、そこには重大な意味がある。

 

「"みずかがみ"じゃなくて、"みかがみ"ってんなら・・・。」

 

 思い当たる節がある魎呼は、隣にいる阿重霞を見る。

 

「えぇ、"お祖母(ばあ)様の樹の名"ですわ。」

 

「そう瀬戸殿の樹の名前だ。それにノイケ殿自身の樹は鏡子(きょうこ)。これは偶然だと思うかい?」

 

 瀬戸と呼ばれる人物とノイケは、義理とはいえ親娘にあたる。

 

「偶然にしちゃ出来過ぎだけど、オレはなんか無理矢理って気がするけどなぁ。」

 

 天地は首を傾げるが、それも無理もない。

彼は一路が魎呼達のイメージを告げた時には、その場に居なかったのだから。

 

「天地殿の意見も尤もだ。でも、同じような事が何度も重ねりゃどうだろうね?」

 

 心理学的見地に基づいた、占いの解釈のようなモノで解決出来る範囲なら問題ない。

その人の、性格・心理から推測する範囲なら。

しかし、今回のはそういう範囲で説明出来る事だろうか?

 

「では、一路さんには何かしらの特殊能力が?」

 

「一番簡単な推測で・・・直感、第六感でヤツ?それが余りにも強くて、そのモノの本質がぼんやりと見えるのかも知れない。」

 

「本質ってーと?」

 

「この推測を持ったのは、天地殿だよ。」

 

「オレ?」

 

 鷲羽の説明を黙って受けていた天地は、唐突に自分の名が呼ばれた事にすっとんきょうな声を上げる。

皆の視線が集中しても、天地には何の事だか解らない。

 

「一路殿が天地殿を初めて見た時、叫んでひっくり返ってたろ?」

 

 確かにそんな事はあった。

 

「・・・ん?ちょっと待てよ、鷲羽。なんでそんなの知ってんだよ。あん時は二人共風呂に・・・って、テメェ!覗いてたな!」

 

「お黙り!今はそんな話はしてないよ、後におし!」

 

「あれは・・・うん、尋常じゃなかったな。助け起こそうとした手も払われたし・・・。」

 

「そこだよ。もし、一路殿が人の本質を透視出来るとして、天地殿の(なか)にある樹雷の力。光鷹翼や光鷹剣を生み出せる力を感じ取ったとしたら?」

 

 沈黙が降りる。

天地の樹雷の力は、宇宙創造の秘と実しやかに言い伝えられるくらい強大なモノなのだが・・・。

 

「一般の地球人の価値観しか持たない一路さんからしたら、途方もなく恐ろしい力に・・・見えますわね。」

 

 だとしたら、パニック状態になったとしても頷ける。

寧ろ、発狂しなかった事が幸いだった。

 

「困った事に、そうだとすると感じ取るイメージがどんどん的確になっていっている気がするよ。」

 

「でもよ、だからって何か問題があんのか?よーするにソイツがどんなヤツかなんとなく解るって事だろ?逆に危険なメに合わなくて済みそうじゃんか?」

 

 本質が見抜けるなら、相対的に自分に害ある者は避けられるのではないか?

 

「どうだろうね。天地殿の時だって、別に害意があったワケじゃないだろ?それより問題なのは・・・。」

 

「悪意にあてられる事ですわね。」

 

 指摘したのは阿重霞だ。

自分がさっき言った、一路は"一般的な地球人の価値観"しか持っていない。

 

「そう、もし強烈な悪意を向けられたとしたら?」

 

「あ・・・。」

 

 天地は夕方の稽古の時を思い出した。

あれは殺気に過敏に反応した結果ではないだろうか?

 

「心を病んでしまうかも知れない・・・。」

 

 殺気とは明確に感じれば、刃を突きつけられている事と変わりない。

その度に一路の心は確実に削られてゆく。

 

「そんな?!」

 

「もしかしたら、一路殿は私達と会ってはいけなかったのかも知れない・・・。」

 

 彼のこれを能力と言うのなら、そしてそんな能力が本当にあるとしたら、きっかけを作ったのは自分達だ。

 

「ヤイ、鷲羽!なんとかなんねぇのかよ!」

 

「能力をセーブするか、一路殿自身が強くなるしか今のところは。あとは・・・。」

 

「あとは?」

 

「これにしたって憶測だし、それにもしそういう能力だとするなら、単純にそれだけじゃないような気がするんだよ、一路殿は・・・。」

 

 大体、天地にあれだけの反応を示したとすれば、砂沙美にだって、鷲羽自身にだってもっと過敏に反応してもおかしくはない。

その意味で、もっと別の何かがあるのではないかと考えたくもある。

そもそも憶測で所見を述べるのは、哲学士としても鷲羽のポリシーとしても反するものだ。

だが、万が一の事があった場合の為に情報を共有すべきだと鷲羽は判断せざるを得なかった。

それくらい一路の能力は平凡である反面、危険を孕んでいる可能性がある。

 

「見守るしかないね。一路殿は誰の目から見ても頑張ってんだから。」

 

「なんだよ、こぅ、もっとズバっと解決できねぇのかよ。・・・んじゃ、一路の相談に乗ってくっか。」

 

「抜け駆けはさせませんわよ!」

 

「ぶべぇっ?!」

 

 会話を終わらせて、そそくさと一路の所へ行こうとしていた魎呼が何もない所でつんのめる。

しかも、その鼻っ柱は真っ赤になっていた。

 

「てめぇ、今、結界張ったな?!フツーそこまですっかよ!」

 

(また始まった・・・。)

 

 天地は溜め息しか出ない。

これがもう日常なのだから、誰も彼を責める事は出来ないだろう。

ただ、一体、一日に何回彼女達を宥めすかさねばならぬのか。

ところで、一路は・・・?

 

 

「という事で、物だと逆に困ってしまうかも知れませんから、そうですね、軽くお茶をするというのは如何でしょうか?」

 

 一路の相談事が思った以上に普通というか、年相応なのでノイケはほっとしていた。

 

「お茶ですか?」

 

「そう。食事までいってしまうと余計に気を遣ってしまいそうですから・・・ケーキとか?甘いものでしょうか。」

 

 当然の如く、至極真っ当なアドバイスを一路は受ける事が出来ていた。

ただ、アドバイスとしては正しくても、引っ越して来て間もない一路が、ケーキの美味しい店などというものを見つけ出すのは至難のワザだ。

難易度が高過ぎる。

結果、何とか探す事は出来たのだが、当然、この展開は後に波乱の端となるフラグとしか考えられない展開なのだが、とりあえず・・・。

 

「盗み聞きとははしたないですよ!」

 

 一路にとっては普通の理知的な美人のお姉さんであるノイケだったが、彼女も彼女で他の柾木家にいる女性陣と変わらず、それ相応の修羅場を潜っている為、聞き耳を立てる二人の気配は丸解りあのであった。

当然、はしたない二人にはノイケのそれはそれは長いお説教が待ち受けていたのである。

 




あえて、光鷹剣としてますです。

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