真・天地無用!~縁~   作:鵜飼 ひよこ。

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第27縁:暗雲の兆し。

「なぁ、鷲羽?」

 

 鷲羽が自分の研究室へと続く階下の扉を開けようとすると、魎呼が声をかけてきた。

階段の上、彼女にしては珍しく宙に浮く事なく。

 

「珍しいね、魎呼ちゃんが研究室に近寄るなんてさ。」

 

 普段から様々なトラブルと実験の被害に遭っている彼女は、特別な用がない限りこんな所には来ない。

 

「一つ聞きたい事があってな。」

 

「なんだい?」

 

 難しい説明に1分とついて来られない魎呼が、自分に物事を聞いてくるのも本当に珍しい。

 

「何で一路の三者面談に行ったんだよ?」

 

 研究対象、知的好奇心の充足。

鷲羽の行動概念の基本はそれだ。

確かに一路には少し変わった能力(チカラ)があるのかも知れない。

しかし、それは天地という存在に比べれば、彼女には失礼だが、最たるものではないのだ。

 

「そりゃあ、魎呼ちゃん達が行くと何をしでかすか解りゃしないしぃ~。一路殿の人生、メチャクチャになってグレちゃったら困るじゃない。」

 

 大袈裟な・・・とは言い切れない事が悲しい。

が、それで魎呼が納得する事はなかった。

不満と非難がない交ぜになったような視線。

 

「・・・本当にそれだけか?」

 

 わざわざ身体を大人サイズにまでして?

一路だけの為に?

 

「あのね、魎呼ちゃん?」

 

 魎呼の真剣な眼差しに同じような真剣な眼差しをした鷲羽は・・・。

 

むにぃっ。

 

「ひっ、な、何すんだよっ!!」

 

 鷲羽の両手が魎呼の胸を鷲掴みにする。

流石に揉む事はしなかったが、いや、魎呼がすぐさま飛び退かなければきっちりかっちり揉まれていただろう。

 

「成長しないもんだねぇ。母性本能が刺激されておっきくなってるかと思ったのに♪」

 

「なるわきゃねーだろっ!」

 

 魎呼のボディは万素という特殊な生物細胞を使用して、鷲羽によってきちんとデザインされている。

ましてや、ある一定の外見フォルム(服装など)も自由に変更できるのだ。

 

「魎呼ちゃん。私にだって母性くらいはあるんだよ。」

 

「鷲羽・・・。」

 

 そう言うと鷲羽は魎呼に背を向け、ぺらぺらと片手を振って研究室に入って行った。

その後姿に魎呼はかける言葉が見つからず・・・。

 

「んなコト解ってら・・・。」

 

 でなければ、自分だって天地や一路にそれを感じる事はないのだから。

 

 

 

「全く可愛いったらありゃしないねェ。」

 

 先程の殊勝な魎呼の表情を思い出し、苦笑しながら席に着く。

 

「あ~あ~、踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆ならトラトラトラっと。」

 

 近くにあるキーを鼻歌混じりにカタカタと打つと、巨大なスクリーンが点灯してログイン中という意味合いの言葉が浮かぶ。

どうやら、今のがログインパスワードなのだろうか?

 

「あろは~って、随分急なご連絡ねぇ・・・て、アナタが急じゃない事なんてないわね。」

 

 スクリーンに映し出されたのは妙齢の女性だ。

脇息にしな垂れかかり、片手には畳まれたままの扇子。

それを口元に添えてほくそ笑でいる。

 

「前略、単刀直入に聞くよ?これから送る地球の地図周辺、半径2km~10km以内、"正木村出身以外"の外来宇宙生物を教えてくれるかい?」

 

 色々と問題のある発言を前置き無しに述べる鷲羽にモニター越しの女性は目を細める。

 

「それは・・・どういう意味かしら鷲羽ちゃん?」

 

 本来、惑星間有人航行(ワープ航法)を持たない地球は未開の地とされ、この銀河連盟では介入禁止とされている。

宇宙人の接触も出来ないし、外から中に入る事が出来ないよう監視されている。

つまり、それ相応の目的があるか、遭難でもしない限り誰も宇宙から寄りつかない星、それが彼女達の連盟にとっての地球。

そんな星に用がある存在は?と、つまりそういう事を鷲羽は聞いている。

 

「正直、そっちが何をやってるかなんて興味はないんだ。面白くない限りはさ。邪魔されなきゃ邪魔しないしね。ただ、必要だから聞いているだけ。"この私が"。」

 

 目の前の女性、阿重霞や砂沙美の祖母である瀬戸は渋い表情をする。

先述の地球という未開文明の扱いは非常に難しく、それを踏まえると犯罪者の他には、同じ非正規でも何らかの国家組織に属した者達しかいない。

鷲羽や魎呼、勿論、瀬戸の孫達もだ。

他は間者、スパイなどのエージェントの類い。

 

「"戦友"だろ、私達。」

 

 この二人の間で言ってはいけない禁句。

ある意味一大スキャンダルになりかねないワードをスクリーンに向かって投げる。

 

「一体全体、どうしたって言うの?アナタらしくもない。」

 

 後頭部で一つにまとめられた後ろ毛を弄りながらつまらなさそうに、あくまで表面上はそうしながら瀬戸は問う。

 

「らしくないと来たかぁ~。私らしいってのは一体なんなんだろうね?」

 

 こんな身体に、身体だけでなくアストラルまでこんなに小さくなって、一体何を手に入れられたのだというのだろう・・・。

 

「解ったわよ。そんな鷲羽ちゃん堪らないわ。水鏡、いる?」

 

 泣く子ももっと泣き叫ぶ樹雷の船の名を事も無げにさらりと口にした瀬戸に鷲羽は首を振る。

 

「別に地球を壊そうってんじゃないんだから。」

 

「なぁ~んだ。」

 

 またもやつまらなさそうにするが、実際問題、意思ある樹である船はそんな頼みは聞かないだろう。

彼女達は友人であって、上下の関係ではない。

それが樹雷が桁外れな力を持っていても、宇宙を統べない理由の一つ。

 

「あ、寄越すならアレくれないかい?」

 

「アレ?」

 

 大抵のモノは自分で何とかしてしまう鷲羽が欲しがるモノなど、この宇宙の中では少ない方なのではないだろうか?

そういえば、そもそも鷲羽が欲しがるデータだとて、自分で勝手に探って手に入れればいい事だ。

軍の最重要機密だろうが、なんだろうが関係なく鷲羽にはそれが出来る。

それをこうして手順を(ある程度だが)踏んでいるのだ、つまりはそれ程の事なのだと気づく。

 

「そそ、アレ。鏡ちゃんの方が耳にしてる、ア・レ。」

 

「アレ?アレはダメよ!アレは西南ちゃんから貰った大事な!」

 

「あ~、まぁ、それに準じた宝石・鉱物でいいんだけどさ。別に西南殿から貰った物、その物を寄越せなんて言いやしないから。」

 

 咄嗟に自分の耳で輝くアクセサリーの片割れを隠した瀬戸の可愛さに鷲羽は苦笑してしまう。

 

「ま、頼むよ。パテント料からちゃんと出すからさ。」

 

 そう言うと、相手の返事も聞かずバイバイと手を振って通信を一方的に切ってしまう。

困ったのは言いたいだけ言われて切られた瀬戸の方である。

 

「んもぅ。聞いたわね?データと物を頼むわね。それと・・・。」

 

 鷲羽との通信と同時に開いていた2つのウィンドウの1つに視線を向けて・・・。

 

「最悪、第七、動かすわよ?」




どうも上手く書き込めてないですが、キャラが書き分けられてきた気がするので、この辺でテンポアップしていこうと思います。

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