真・天地無用!~縁~   作:鵜飼 ひよこ。

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第34縁:友達の条件、親友の要件。

 なりふり構ってはいられなかった。

何より、この結果は自分の責任。

何が何でも助ける。

そう自分自身に誓う。

 

「踏ん張れよ!絶対助けるからな!」

 

 踏み込む足にぐんっと力が入ると加速する。

家屋やビルの屋上から屋上へと一足跳びで踏み越えながらぐんぐんと速度をあげて行く。

景色がどんどん流れるにつれて、一路の体温が失われていく気がしてきて、焦りだけが全を苛やんだ。

だが、全には一路を助けるアテが一つだけある。

今はひたすらそこへ向かう事だけに集中するだけ。

 

(オレの生体強化レベルなら!)

 

 町の中心部を抜け、山道に入る。

そこから森の中を疾走して、見えてくるのは湖畔に建つ一軒屋。

その縁側の窓に向かって、一路を庇いながら躊躇いなく激突する。

かん高い破砕音がした後、家の居間であろうスペースを衝撃を殺すようにゴロゴロと転がってゆく。

 

「なんだなんだ?」

 

 派手な音を聞きつけて一番最初に顔を出した人物は魎呼だった。

 

「は、白眉 鷲羽さんを!お願いです!一路を、一路を助けてやって下さい!」

 

 息が切れている中、自分の出せる最大限のボリュームで全は力の限り叫ぶ。

全の抱えた布団の隙間から、血の気を失った一路の顔を見た瞬間、魎呼は息を呑む。

 

「鷲羽!!」

 

「聞こえてるよ。」

 

 再度、自分の名を叫ぶ声を聞いて現れた鷲羽は、白衣・白帽を身につけていた。

そして一路を一瞥して、全を見下ろす。

 

「伝説の哲学士、白眉 鷲羽殿とお見受けします。」

 

 一路を傍らにそっと横たえて、全はその場で勢い良く床に額をつけて土下座する。

それ以外の方法は、全には思いつかなかった。

 

「あなた方が自分達に干渉しないのは知っています。でも、お願いです、一路を助けて下さい。どんな代価もオレが払います。コイツを死なせたくないんです!」

 

 何度もゴンゴンと鈍い音をたてながら、床に額をつける全。

床に散らばったガラスの破片で額を切ろうとも土下座を止めない。

 

「ふぅ、暑苦しいねぇ。あのね、アンタに頼まれなくたってやってやるよ。魎呼、砂沙美ちゃんを呼んで来ておくれ。その後、アンタも手伝いな。」

 

「おぅ!」

 

 そう言うと魎呼は壁をすり抜けて消える。

それを鷲羽は確認すると、再び土下座の姿勢で固まったままの全を見下ろす。

 

「樹雷の人間だね?」

 

「はい。的田 全と申します。」

 

「なんでも、こっちに来た天木(あまぎ)の眷属の警護とかなんとか。こっちの偵察にでも来たのかねぇ。まぁ、昔から天木は、これみよがしの権力思考な輩が多いから。最近は大人しくなったと思いきやだ。」

 

 そこにこっそりどころか、たっぷりの批難が含まれているのも全にとっては覚悟の上だ。

 

「面目ない。」

 

 一路がどうしてこうなったのかを鷲羽は、瀬戸の情報から察しての発言だ。

全はそれにも申し開きもない。

既に十二分に理解しているし、現代最高峰の科学者でもある哲学士に逆らおうとも思わない。

 

「話は解ってるよ、大丈夫。この子は助けてみせるから。」

 

 そう言うと鷲羽は一路の身体を片手で、まるでマジックの人体浮遊のように浮かせて奥の部屋に向かおうとする。

向かおうとしたところで、顔だけを全へと向けた。

 

「全殿も、きちんと手当てするんだよ?」

 

 今の全の身体は全身切り傷だらけ、どころどころにガラスの破片が突き立っていて、血ダルマと言っても過言ではなかった。

普通乗用車並のスピードで柾木家のガラス窓に突っ込んだのだ、当然である。

ダメージがないわけじゃない。

 

「どうも。きちんと片付けておきますよ。」

 

 だが、鷲羽の指摘と全く見当違いの発言をして笑う。

一路に比べれば、こんな痛みなんともないと全は思うのだ。

その返事を聞いて、鷲羽は今度こそ居間を出て行った。

 

「ふぅ・・・。」

 

 ここでようやく全の緊張が少しだけ解けた。

解けると、腕の中で血の気を失ってゆく一路の重さが思い出される。

自分が抱えられるだけの重さ、手の届く範囲。

それすらも護れない自分。

本当は、こんな事をしでかした灯華を捜さなければならないのだが、警察機構、GPも絡んでいる事を思い出して、がっくりと俯く。

 

(もう地球(ここ)にはいねぇんだろうな。)

 

 一路がそれを知ったらどう思うだろうか?

そんな疑問が浮かぶ。

白眉 鷲羽、彼女は万能ではないが、預けた以上、一路は助かるだろう。

全は微塵も疑わない。

しかし、助かった後、自分を刺したのが灯華という事実、そして彼女ともう二度と会えないという事態に一路は一体何を考えて何を思うのだろう。

彼の心の方が気になって仕方がなかった。

 

「どうぞ。」

 

 ふと、視界の外から手が伸びる。

タオルの握られた手。

そして、それを差し出したノイケが微笑んでいた。

何もかも解っていますよという笑みも見える。

彼女の笑みを見て、何故だから全もほっとしてしまう。

 

「あ、ども。」

 

 タオルをとりあえず受け取ったが、その真っ白なタオルで血を拭う気にはどうしてもなれなかった。

治療をする気も。

自己満足と解っていたが、一路が生死の境を彷徨っているというのに、自分だけがと。

 

「大丈夫。一路さんは強い子ですから。」

 

 ノイケのその言葉に全はただ頷くしかなかった。

 




誰だって出来る事ややれる事が絶対にあると私は思いますよ、えぇ。

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