「鷲羽、大丈夫なんだろうな?」
血の気を失い、胸に小刀が突き刺さったままの一路の生体活動を限界まで停止、時間凍結に近い形にして、それを抜いたところでようやく鷲羽は魎呼と砂沙美を呼んだ。
「アンタね、私を誰だと思ってんだい?天才哲学士、白眉 鷲羽様だよ?」
哲学士とは、歴史・科学・工学など、ありとあらゆる分野のエキスパート。
技術の総合百貨店みたいなものだ。
「魎呼、一路殿の生命維持に宝玉の力を使うよ?いいね?」
「んなコト、イチイチ聞くなよ。」
魎呼はそう言うと一路の手を握る。
生命活動のレベルを下げているせいで、彼の体温は冷たかった。
風呂場で大騒ぎをした時は、あんなにも熱く、(恥ずかしさで)真っ赤だったのに・・・。
「ジョージ、起きてるかい?アンタはノイケ殿から、鏡子内にある生命の水を分けてもらって来るんだ。」
皇家の樹。
もの凄い力を秘めているとはいうが、やはりそれは植物の樹の形態を取っている事には違いなく。
それが育つ環境も限られてくる。
生命の水とは、皇家の樹が根付く事なく繁茂する為に必要なもので、皇家の樹と契約を交わした者は必ずそれも持っている事になる。
「かしこまりました。」
鷲羽がそう指示すると、研究室の奥から丸い二つの目を光らせて金属の人型が現れる。
彼(?)がジョージだ。
アンドロイドと分類される人間に近い姿のモノとは違い、人型であるが外見は完全なロボットである。
彼としているのは、当のジョージ本人(?)が自分は男性型だと主張しているからに他ならない。
もっとも、旧式も旧式、超旧式の彼は特に外見でどうという区別が出来ないのだが、鷲羽は彼の主張を汲む事にしている。
鷲羽の執事兼、助手兼、料理ロボットといった扱いである。
性能は確かに旧式だが、古いという事は経験値が高いという事であり、その点も鷲羽は買っている。
今まで顔を出さなかったのは、鷲羽のお使いで宇宙に出ている時もあるが、柾木家に一路が遊びに来ていたからだ。
彼は鷲羽の指示通り、そそくさとノイケの元に走ってゆく。
「鷲羽ちゃん、砂沙美は何をすればいいの?」
一番場違いな存在だと自覚している当人の砂沙美は、何故自分が呼ばれたのか解らず首を傾げる。
鷲羽が呼ぶのだから、必要なのだ。
それだけは理解していたが。
「あぁ、砂沙美ちゃんはね、一路殿の手を握ってお祈りしてくれないかね?頑張れって、帰っておいでって。」
「それだけでいいの?」
何だか思ってたのと違うと思いつつ、魎呼とは反対側の一路手を握り跪くと、目を閉じてその手を額にあてる。
「さ、ジョージが戻ったら始めるよ。」
そう誰となく、そして有無を言わせぬ覚悟を問うと、鷲羽はじぃっと一路の顔を見る。
血の気を失い白い肌を晒し、瞳を閉じた一路。
その姿は既に物言わぬ骸にしか見えない。
(ごめんね・・・一路。)
これから彼を救う為にしなければならない事を、いや、これから彼が出会う現実に心の中で詫びながら、鷲羽は施術に取り掛かる。
彼がまた笑顔で戻って来る事を想って。
意外とジョージが好きな私は変なんでしょうか?
こういうファジーなロボットいいと思うんだけどなぁ・・・あ、アニメ版のNBは別の方向性でw