真・天地無用!~縁~   作:鵜飼 ひよこ。

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第35縁:誰もが祈り、誰もが詫びる夕暮れ。

「鷲羽、大丈夫なんだろうな?」

 

 血の気を失い、胸に小刀が突き刺さったままの一路の生体活動を限界まで停止、時間凍結に近い形にして、それを抜いたところでようやく鷲羽は魎呼と砂沙美を呼んだ。

 

「アンタね、私を誰だと思ってんだい?天才哲学士、白眉 鷲羽様だよ?」

 

 哲学士とは、歴史・科学・工学など、ありとあらゆる分野のエキスパート。

技術の総合百貨店みたいなものだ。

 

「魎呼、一路殿の生命維持に宝玉の力を使うよ?いいね?」

 

「んなコト、イチイチ聞くなよ。」

 

 魎呼はそう言うと一路の手を握る。

生命活動のレベルを下げているせいで、彼の体温は冷たかった。

風呂場で大騒ぎをした時は、あんなにも熱く、(恥ずかしさで)真っ赤だったのに・・・。

 

「ジョージ、起きてるかい?アンタはノイケ殿から、鏡子内にある生命の水を分けてもらって来るんだ。」

 

 皇家の樹。

もの凄い力を秘めているとはいうが、やはりそれは植物の樹の形態を取っている事には違いなく。

それが育つ環境も限られてくる。

生命の水とは、皇家の樹が根付く事なく繁茂する為に必要なもので、皇家の樹と契約を交わした者は必ずそれも持っている事になる。

 

「かしこまりました。」

 

 鷲羽がそう指示すると、研究室の奥から丸い二つの目を光らせて金属の人型が現れる。

彼(?)がジョージだ。

アンドロイドと分類される人間に近い姿のモノとは違い、人型であるが外見は完全なロボットである。

彼としているのは、当のジョージ本人(?)が自分は男性型だと主張しているからに他ならない。

もっとも、旧式も旧式、超旧式の彼は特に外見でどうという区別が出来ないのだが、鷲羽は彼の主張を汲む事にしている。

鷲羽の執事兼、助手兼、料理ロボットといった扱いである。

性能は確かに旧式だが、古いという事は経験値が高いという事であり、その点も鷲羽は買っている。

今まで顔を出さなかったのは、鷲羽のお使いで宇宙に出ている時もあるが、柾木家に一路が遊びに来ていたからだ。

彼は鷲羽の指示通り、そそくさとノイケの元に走ってゆく。

 

「鷲羽ちゃん、砂沙美は何をすればいいの?」

 

 一番場違いな存在だと自覚している当人の砂沙美は、何故自分が呼ばれたのか解らず首を傾げる。

鷲羽が呼ぶのだから、必要なのだ。

それだけは理解していたが。

 

「あぁ、砂沙美ちゃんはね、一路殿の手を握ってお祈りしてくれないかね?頑張れって、帰っておいでって。」

 

「それだけでいいの?」

 

 何だか思ってたのと違うと思いつつ、魎呼とは反対側の一路手を握り跪くと、目を閉じてその手を額にあてる。

 

「さ、ジョージが戻ったら始めるよ。」

 

 そう誰となく、そして有無を言わせぬ覚悟を問うと、鷲羽はじぃっと一路の顔を見る。

血の気を失い白い肌を晒し、瞳を閉じた一路。

その姿は既に物言わぬ骸にしか見えない。

 

(ごめんね・・・一路。)

 

 これから彼を救う為にしなければならない事を、いや、これから彼が出会う現実に心の中で詫びながら、鷲羽は施術に取り掛かる。

彼がまた笑顔で戻って来る事を想って。

 




意外とジョージが好きな私は変なんでしょうか?
こういうファジーなロボットいいと思うんだけどなぁ・・・あ、アニメ版のNBは別の方向性でw

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