真・天地無用!~縁~   作:鵜飼 ひよこ。

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基本的に天地無用の原作を読み返したくなるようにが基本なので説明文が少ない場合もございますが、一応軽い説明を入れていこうと思っているので、ご了承下さい。


第4縁:団欒を得る為に。

「あ~、やっぱ飛ぶと楽チンだわ~。」

 

 にゅるんと壁をすり抜けて家の中に入る魎呼。

その身体は某未来型青狸ロボットよろしく宙に浮いている。

 

「魎呼お姉ちゃん、ちゃんと玄関から入ってよね。」

 

「あん?砂沙美、堅いコト言うなって。ちゃぁんと靴は玄関に飛ばしておいたからさっ。」

 

 砂沙美と呼ばれたツインテールの少女はぷぅと頬を膨らます。

薄く透明感のある翡翠色の髪、とりわけぴょこんと横に生えているかのようなツインテールも、その動きに合わせてひょこひょこと動いた。

丸い桃色の瞳を必死につりあげようとしているが、そんな事で彼女の可愛らしさは一欠片も損なわれる様子はない。

そんな彼女の逆三角のマークがついた額の更に上、砂沙美の頭上には兎とも猫とも判別つかぬ・・・。

 

「ミャウッ!」

 

「ほら、リョーちゃんもダメだって。」

 

「ミャミャ。」

 

「んだよ、魎皇鬼まで。わーったよ、次からな。」

 

 粗野・粗暴を絵に描いた女(時には鬼女と呼ばれた事も実際にあったが)と普段から揶揄される魎呼にしては、かなりの譲歩とも言える。

逆に少々気味が悪い。

しかし、今の彼女はすこぶる機嫌が良かった。

それもこれも一路との会話のお陰だろう。

 

「珍しく聞き分けがいいな、魎呼。何か良い事でもあったのかい?」

 

 大小様々な沢山の料理が並べられているテーブルの上座に座る青年。

後ろ髪こそちょこんと紐で束ねているが、それ以外の部分は黒の短髪、黒い瞳。

少々丸顔で・・・特に美形というわけでもない至って何処にでもいそうな男の子。

彼がウワサの(?)柾木(まさき) 天地(てんち)である。

 

「てぇ~んちぃ~。そうなんだよ、今日すっげぇ面白いヤツが来てさぁ~。」

 

 鼻にかかった特有の猫撫で声で、天地の横にすり寄る。

面白いヤツとは、当然一路の事だ。

 

「あぁ、なんか、じっちゃんが連れて来たんだって?」

 

 どうやら誰かが既に今日の事を天地に話してしまったらしい。

誰かがと言っても、自分を除けばあの時に他に居合わせたのは、勝仁、阿重霞、鷲羽の三人しかいない。

折角、天地に面白おかしく話して聞かせようと思っていた魎呼は、先に言われてしまった事がつまらなかったが、それなら逆に話が早い。

 

「一路ってんだ。今日は砂沙美が遅かったから無理だったけど、今度ここで一緒にメシ食おうって話したんだ。なぁ、いいだろォ?」

 

 勝仁を除いたら、現在のこの家の家長は繰り下がりで天地となる。

魎呼は一応居候の身なので、お伺いを立てなければならない。

基本的に天地は公平な民主主義よろしく多数決で決めるようなタイプなので、ある意味形式的なものだ。

余程の事がない限り、却下される事はない。

 

「私からもお願いしますわ。」

 

 魎呼の援護射撃は意外な所から飛んで来た。

阿重霞である。

魎呼と犬猿の仲とも言える阿重霞までもが賛同しているのだ。

阿重霞も大切な人を失う恐さを知っている。

それは気が狂いそうになるくらいに。

一路を不幸だと思うような事は、一路に対して失礼だが、やはり不憫だとは思う。

ならば、少しくらい楽しい事があってもいいではないか、と。

魎呼とは何時も喧嘩してばかりだが、居なくなればなったで物足りない。

そして、大勢で食卓を囲むのもなんだかんだで楽しいものだ。

だから、それを少しでも一路に味わってもらいたい。

折角出来た縁なのだから。

 

「う~ん・・・オレはいいけど、料理を作るのは砂沙美ちゃんだからなぁ。」

 

「大丈夫だよ、天地兄ちゃん。一人分増えるくらい砂沙美にはなんてことないもん。」

 

 柾木家の家事を一手に引き受ける小さな少女は、任せてと小さな胸を張る。

 

「そうかい?」

 

 二度、天地が砂沙美の目を見て確認するのは、本当に無理をしていないかどうか見極める為である。

過去にそうやって無理をして、倒れた事が砂沙美には何度かある。

病弱というわけではないが、彼女は色々と小さなその身体に溜め込みがちなのだ。

 

「うん、お客さんを呼んでお夕飯なんて楽しみっ♪」

 

「砂沙美ちゃんがいいなら、オレも構わない。」

 

「やったー。砂沙美、会うの楽しみ~。ねぇねぇ、一路お兄ちゃんてどんな人なの?」

 

「ど・・・。」

 

「どんな?」

 

 砂沙美の問いに魎呼と阿重霞が顔を見合わせる。

 

「どんなって、そりゃ、おめぇ、フツー?」

 

「普通・・・ですわね。」

 

 魎呼のように空を飛んだり、壁をすり抜けたりするわけではない。

阿重霞のように結界を張ったり、素手でブ厚い鉄板を貫くわけでもない。

 

「え~っ、それじゃ砂沙美解んないよ~。」

 

 砂沙美が困るのも無理からぬ事。

この家の人外魔境さに比べてみれば、一路は普通以下。

良くも悪くも一般的な"地球人"だ。

 

「まぁ、なんだ、会えばどんなヤツか解るさ。」

 

「そ、そうですわね。私達も会ってからそう時間が経っているわけでもありませんし。」

 

 まさか、色々と話してみて鷲羽のように珍品発明を作る趣味とか、爆発を起すような事もしまい。

二人は互いにそういう方向で思考に決着をつける。

いや、逆にいえばこの家にいる者達の常識外れっぷりが浮き彫りになったという事に他ならないのだが。

 

「そうかぁ・・・なんだかんだ言って、ウチに来るのは宇宙からだしなぁ。」

 

 天地も彼女達の言う普通=地球人(一般人)という図式を理解して頭をかく。

それよりも自分もそれに近い認識のズレに苦笑い。

実は、当の天地自身も地球人と樹雷という星の混血児でもある。

この土地のちょっとした昔話に出てくる、若武者と鬼女の戦い。

それが天地の祖にあたる。

もう少し詳しく説明すると、その鬼女というのが数千年前の魎呼で、若武者というのが遙照という名の樹雷人=勝仁、彼の祖父になる。

地球に骨を埋め、名を勝仁とした彼を追ってきた来たのが、異母兄妹の阿重霞。

そして、その阿重霞の妹が砂沙美だ。

この辺は寿命や遺伝子操作の問題もあるが、地球の関係に則ると天地にとって二人は大叔母になる。

更に述べると、鬼女と呼ばれた魎呼の遺伝上の母が鷲羽になるのだ。

 

「何か呼んだ?」

 

 と、このように何処にでも介入しようと思えば介入できてしまう大天才。

 

「お夕飯だよ。」

 

 かくして、大宇宙(?)家族状態になった柾木家は、日々宇宙からのトラブル、人種が飛び込んでくるわけで・・・その中で一路という存在は、良く言えば平凡な、悪く言えば刺激のないものなのである。

他にも柾木家に来る者、住んでいる者、要するにレギュラーキャラはいるのだが、今日はご覧の通り家にはいないらしい。

 

「あぁ、そうかい。んじゃま、早速頂くとするかね。と・・・そういえば勝仁殿は?」

 

「じっちゃんなら、さっき樹の様子を見てくるから先に食べてていいって。」

 

「そうかいそうかい。じゃ、冷めないうちに頂こうかね。」

 

(樹か・・・。)

 

 箸を持っていただきマースと声を皆と揃え、何事もなかったかのように食事に手をつけつつ、鷲羽は一人思考を巡らす。

樹と勝仁と天地と・・・そして一路。

遺伝子情報を調べてみたが、何の共通項も見つけられなかった。

少なくとも一路は、勝仁から端を発する子孫=樹雷の末裔、その先祖返り的な存在ではないという事だ。

アストラルパターンも、特に気になる共通因子はない。

 

一点を除いて。

 

 因果律的な共通項に、愛する者との別れというものがある。

これは樹雷の、それも血の濃い皇族に多く見られるものだ。

天地しかり、遙照しかり、阿重霞、砂沙美しかりだ。

現樹雷国王の阿主沙(あずさ)ですらも。

しかし、そんなものは長く生きていれば、必ず出くわす事で、この星の人間の中で珍しいという事でもない。

では、他に考えられるとしたら・・・成人前後に宇宙(人)と接触を持つ・・・これなら、三人に共通しているといえなくもない。

遙照は地球人の妻。

天地は自分達と、そして同じく一路も。

しかし、一路の場合は樹の事もある。

 

「鷲羽ちゃん?お味変かな?」

 

「へ?」

 

 どうやら思考に夢中で半ば機械的に食事を摂取していたようだ。

知的探究心に火が点くと没頭してしまって、その他を疎かにし易い傾向にある自分、それを戒める友人がいたのも今は昔。

 

「あぁ、美味しいよ。」

 

「ならいいんだけど。」

 

「悪いけど、夜食もお願い出来るかい?」

 

「うん、いいよ♪」

 

「また何か研究ですか?」

 

 天地が問うのは彼女の研究の結果、生み出される発明品で問題が起きなかった事がないからだ。

まぁ、彼女の部屋は頑丈なセキュリティで護られているから、大抵の物事には対処出来るようになっているのだが、それを易々とくぐり抜けてトラブルを製造してゆく輩がいるのも事実で、理由の一つ。

 

「あぁ、ちょっとね。」

 

「お兄様とこそこそと一路さんの事を調べてるいのですね?私、今回ばかりは賛同しかねますわ。」

 

 言葉を濁す鷲羽の態度に、阿重霞はすぐに反応する。

いつもなら、経験と知識の豊富な二人のする事に反対などする事はほとんどない彼女だったが、今回だけは違った。

元々、こういう本人の知らぬ間にこそこそとするのを嫌う傾向のある阿重霞。

しかも、一路は何かこちらに危害を加えたわけではない。

確かにそういう事が起きてからでは遅いとは思うが、今までだってなんとかなってきた。

あんな母を亡くして間もなく、打ちひしがれた若者をよってたかって虐めているようで気が退けるのだ。

何より、そんな一路を疑惑の目で見る事が阿重霞には出来なくなっていた。

 

「なんだって一路のコトを調べるんだよ?どう考えてもパンピーじゃねぇか!」

 

 阿重霞のその反応よりも、一際大きな反応をしたのが魎呼だった。

基本的に魎呼は快楽主義に近い。

面白いと思った事、楽しいと思った事はなんでもやる。

逆に言えば、それを邪魔されるのは一番気に入らない事に分類される。

そして、彼女は既に一路の姿に、幼き頃の天地の姿を重ね合わせてしまった。

それが母性本能なるものだという事は魎呼自身理解していないが。

 

「そうかも知れない、それならそれで問題ないし、その方がいい。でもね、樹を見てここに来る。そしてアンタ達に溶け込むまでのスピードが早過ぎやしないかい?勘ぐりたくなったって仕方ないだろう?」

 

 だんっ!

大きな音を立てて、魎呼が立ち上がる。

 

「ごちそうさま。」

 

 そう言うと、彼女は宙に浮いてそのまま天井まで上がると、姿を消す。

どうやら家の外に出てしまったらしい。

 

「全く、短気だねぇ。誰に似たんだが。」

 

 溜め息をつく鷲羽だが、誰に似たもなにも魎呼は彼女の娘。

答えを求める事自体がナンセンスだ。

 

「別に一路殿をどうこうしようってわけじゃないから心配しなさんな。ただ普通の地球人が来るなんてほぼないだろう?だから、ちょっとした興味本位もあるのさ。」

 

 なんとか、残った阿重霞をなだめ、他の者を安心させようとする鷲羽だったが、阿重霞はそう説得出来たようには見えない。

 

「阿重霞さん、鷲羽ちゃんには鷲羽ちゃんの考えがあるんですよ。」

 

 緊張感が漂う食卓の風景に天地が割って入る。

天地もどちらかというと性善説に近い方ではあるが、彼の場合は鷲羽に信頼を置いているからこそというのもある。

何より、彼は不和を嫌う。

 

「今までだって鷲羽さんは、オレ達を何度も助けてくれたじゃないですか。だから阿重霞さん。」

 

 天地にそう言われてしまっては、阿重霞もこれ以上何かを述べる事も出来なかった。

ここに至って、一路は普通の地球人、自分達に何の害も及ぼさないと鷲羽自身の口からお墨付きが出る事を祈るばかりである。

 

「ありがとう、天地殿。」

 

「いえ、オレは何も。ただ・・・。」

 

「?」

 

「オレもその一路君って子に会ってみたいですけれどね。」

 

「そうだね。」

 

 鷲羽だって、疑いたくて疑っているわけではない。

ただ、何かしらの力が働いているような気がしてならない。

だが、一路に何の問題もなければ、彼女も天地を一路に会わせたいと思っていた。

同じような経験をした事のある先輩として、一路を天地に・・・と。


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