真・天地無用!~縁~   作:鵜飼 ひよこ。

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更新が遅れましてすみません。
くそぅ、ケーブルテレビと落雷ヤツめっ。


第40縁:前途多難のシューティングスター。

「よっ!」

 

「はぃ?」

 

 目の前に魎呼がいた。

紛れも無く魎呼だ。

一路の身体は尚も上昇を続けているのだが、その上昇に合わせて魎呼も浮いているのだ。

いや、そんな事はこの際、関係ない。

一路は、湧き出る疑問の全てを押し込める。

 

「見送りに・・・来てくれたんですね。」

 

「何だよ?アタシがそんな薄情で冷てぇヤツだと思ってやがったのかァ?」

 

 腕を組み、流し目で非難の視線を送る魎呼。

 

「いえ、全然!魎呼さんは優しい人です!」

 

 だから、自分の身を案じて反対したのだ。

そして、反対した手前、皆の見ている前で堂々と見送りに来られなかったのである。

 

「・・・・・・そうはっきり言われちまうとな・・・。」

 

 んむぅと小さく唸り声を上げる。

口元が微笑むように歪んでいるのは、照れているのを隠しているからだ。

 

「あ゛~、もう調子狂うなっ、もう!んーっ!」

 

 強い口調と共に突き出される魎呼の手。

その手には、革紐のような物に通された石があった。

 

「餞別だ!持ってけ!」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 まさか、魎呼にまで餞別を貰えるとは思わなかった一路は、丁寧にその石を受け取る。

深い藍色をした結晶。

角度によっては青くも、仄かに紫がかっても見える不思議な物体だった。

初めて見る物体は、恐らくこの地球には存在しない物体なのかも知れないと思う。

目の前にこうして浮いている魎呼を見れば、彼女が地球人はないのも確かだ。

 

「お守り代わりだ、首から下げとけ。」

 

「はい!」

 

 奇しくも鷲羽と同じ行動を取る魎呼。

鷲羽印(?)のお守りが既に首下げられてはいたが、それはそれ、これはこれだ。

何の躊躇もなくそれを首から下げた。

 

「大切にします!」

 

「そうか・・・うん、大事にしろよ。」

 

 余りの一路の喜びように魎呼は満足げだ。

ただ後年、天地の弟である剣士に同様の物を渡すのだが、それはまた別の話。

 

「なぁ、一路?」

 

「?」

 

 石を興味深げに宥めすかしていた一路に、魎呼は急に声のトーンを落とす。

 

「ヤバイと思ったら、すぐに逃げろよ?逃げるのは悪いコトじゃねぇ。人間、死んだらオシマイだ。命さえありゃ、どうとでもなるんだからな?」

 

(ほら、やっぱり・・・。)

 

 魎呼さんは優しい。

自分の思った、言った事は間違っていない。

 

「返事は!」 「はい!」

 

 互いに微笑むと、一路の身体は銀色の宇宙船に吸い込まれていった。

 

 

 

「は~い、それじゃあ~ご案内は、私、美星と~。」

 

「この雪之丞が務めまする~。」

 

 何処からか出囃子が聞こえる・・・。

覚悟を決めて乗り込んだ一路にとって、この出迎えは拍子抜けだった。

あっさりと出鼻を挫かれたと言ってもいい。

いや、挫かれた。

しかし、美星にいくらKYと言ったところで、どう考えても無駄な事だった。

 

「あ、ども。お願いします。」

 

 美星ではなく、空き缶に目玉がついたようなロボット(?)に言えただけでも大分マシだろう・・・多分。

 

「ではでは、待ち合わせの場所までいっきますよ~。」

 

「もう出発してますぞ、美星殿。」

 

「はれ?いっやぁ~んっ、出発進行!って、やってみたかったのに~。」

 

 なんとも緊張感のカケラもない。

不安度、一段階アップ。

 

「むぅ。じゃ、一路さん、お茶にしましょ~。」

 

「は?」

 

 さもイイコト思いついたわ、ぽんと手を打つ美星に一路はついていけない。

 

「美星殿?ランデブー時間に遅れてしまいますぞ。」

 

「あ~ん、ワープしちゃえばすぐなんだから大丈夫。お茶~、お茶はっと~。」

 

 サポートロボットの話を全く聞いちゃいない。

何というか、サポートの意味がない。

不安度、更に一段階アップ。

そして、コクピットの奥に潜り込んでごそごそして、目の前の揺れるお尻からすぐさま目を逸らす思春期一名。

 

「お茶請けは何がいいかしら~?一路さん?」

 

「な、なんでもないです。じゃない、何でもいいです!」

 

 直立不動で答える一路に美星は首を傾げる。

首を傾げたものの、すぐさま美星はカチャカチャとお茶の用意を開始した、それも鼻歌つきで。

 

「雪之丞さん・・・。」

 

「皆まで言わないで良いですぞ。」

 

 この人(?)も苦労してるんだなとしか言いようがない。

ロボットにストレスがあるかどうかは別として。

半ば強引にお茶の体裁を整えられると、仕方なくカップを受け取る。

西欧風のカップ。

だが、中身は緑茶だ。

 

(宇宙にも緑茶があるのかな?・・・そういえばもう宇宙なんだよね・・・。)

 

 普通なら、自分と同年代で宇宙を体験する者などいないだろう。

学校や父には、鷲羽が何とかしておいてくれると言っていた事を思い出す。

自分はこれからたった一人で事を成さなければならない。

手伝ってくれる者達はいるにはいるが、何時もの自分だったら諦めてしまうところだ。

しかし、自分の心の中の何かが、それを許さない。

 

「怖いかしら?」

 

「え?」

 

 そう聞いてきた声の主、美星の穏やかな笑みにホッとしている自分がいた。

 

「世界には、い~っぱい色んな人がいて、それこそ困ったちゃんもいるケド・・・。」

 

「・・・美星殿が一番困ったちゃんで・・・。」

 

 そんな雪之丞のぼやきはガン無視して・・・。

 

「それでも良い人達ばっかり。地球ってすっごい田舎って言われてたけど、皆優しくしてくれるの。天地さんはステキだし。きゃっ♪」

 

「はぁ・・・。」

 

 果たして、この人は何が言いたいのだろう?

 

「だから、色んな人がいるんだ~って思っとけば、私、何処に行っても大丈夫だと思うの。」

 

(こ、これは・・・励ましてくれてるんだろうか?)

 

 断言しきれないところが、何ともはや・・・。

 

「一路さんだって、初対面の私に優しくしてくれたじゃない。」

 

「あぁ・・・。」

 

 それだって自分と重ね合わせて、結果的にそうなっただけであって・・・。

そう考えると今の自分はなんて、利己的で偽善なのだろうと思う。

目の前の美星の純粋さとはエラい違いだ。

 

「だから、驚いたり、怖がったりせずにい~っぱい楽しんで来てくださぁ~い。」

 

(やっぱり、励まされてるんだよね?)

 

 美星なりに。

そういう前置詞は付いてはいるが。

 

「と、言うコトで、お茶でリラックスしたトコで、心の準備はいいかしら~?」

 

「はい?」

 

 どういう意味だろうか?

自分だけで完結されても困ってしまう。

 

「船を接舷するのは面倒だから、跳んじゃいますよ~。」

 

「と、飛ぶ?」

 

「美星殿?!」

 

 雪之丞までがすっとんきょうな声を上げる中で、美星はマイペースで透明なルービックキューブ状の物体をカチャカチャと回している。

 

「は~い。じゃじゃ~んぷっ。」 「ちょっ?!」

 

 誰の何の反対・突っ込みを受け付けぬまま、一路の目の前の視界は一瞬にして閉ざされる。

一瞬。

本当に一瞬だ。

慣れている美星は別として、初体験の感覚に一路はバランスを崩す。

 

「きゃっ。」

 

「てて・・・?」

 

 バランスを崩して倒れた一路は、その感触に首を傾げる。

 

「・・・きゃ?」

 

 そんな音が確かに聞こえたような気がしたが、とにかく起き上がろうと・・・。

 

「ふぁんっ。」

 

「?」

 

 聡い者ならすぐに理解いただけただろう。

美星が慢性トラブル製造機(メーカー)という事を理解している者も同様に。

一路が手をついた先には、柔らかな膨らみと・・・目に涙を溜めた少女。

とりあえず、一路の為に十字を切ってあげて欲しい。

 

「のォ・・・ヘンタイッ!!」

 

 バチコンッ!と音がして、一路の視界どころか意識もブツリと途切れる事になるのだった。

 

 


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