「あ~、君が噂の一路君とエマリー君だね。」
一路とエマリーと呼ばれた少女は一人の男の前に立っていた。
美星と同じく褐色の肌をした中年の男性。
如何にも中間管理職ですという佇まいの感のあるこの男が、この船の艦長だと説明を受けた。
そして、その男の隣には美星がにこにこと極上のスマイルで立っている。
「ところで、君、その頬はどうしたのかね?」
一路の頬は真っ赤に腫れていて、そこにはくっきりはっきりと五つに分かれたモミジ型になっている。
「えぇと、何というか、勘違いというか、ちょっとした行き違いがありまして・・・。」
まさか、自分の隣にいる少女を着替え中に押し倒して、ブン殴られたとは言えない。
言えるはずがない。
「ん?」
見事に気絶した一路は、探しに来た美星に連れられて艦のブリッジに来たばかり。
ちなみに隣にいる少女は、一路を終始睨んでいる。
今なら視線だけで一路を射殺せるかも知れない。
完全に、絶対に、話したらコロスという主張が含まれてるに違いないだろう。
「大丈夫なのかね?」
「はい。」
「ならばいいのですが。美星一級刑事、彼の身柄、確かにお預かり致しました。」
「は~い。じゃ、一路さん、またねぇ♪」
別れというのは寂しいものだ。
一路には充分過ぎるくらいにそれが解っているが、美星はまた明日と言わんばかりに軽く手を振って消えてゆく。
逆にその方が気が楽だった。
頬の痛みの原因を遡れば美星のせいだが、それを除けば、美星の存在には癒されてばかりだった。
(何、弱気になってるんだ僕は。まだ始まったばかりじゃないか!)
「さて、二人の事を詳しく紹介し合いたいところですが、二人共少々個人情報の取り扱いが難しいようだから、追々自分達で。すぐに出発してワープに入ります。」
ワープ?
一路の脳ミソにハテナマークが浮かぶ。
「あのぉ?」
「ん?」
「座席に座ってシートベルトとか、した方がいいですか?」
「・・・・・・。」
一路の言葉に対して艦長は押し黙る。
長い沈黙。
隣にいる少女の視線も心なしか、殺意が薄れ、どちらかというと憐れみのような視線に・・・。
「?」
「いや、デジャ・ヴュですかね。前にも同じような事があったような・・・・・・はっ?!」
ガバッと男が周囲を見回し始めるのに、一路とエマリーは、身体をビクリと震わせる。
「レーダーの範囲を広げて下さい!周囲に機影、ワープアウトのエネルギー波がないか!」
クワッと眉間に皺を寄せ、そう激を飛ばす男の言ったような事はなく、周囲のオペレーターは異常を告げる旨の報告をしてはこなかった。
「・・・考え過ぎですかねぇ・・・えぇと、シートベルトはしなくて結構です。座席に着いたら、個々に問診と書類作成をします。まぁ、アンケートみたいなものと考えて下さい。」