真・天地無用!~縁~   作:鵜飼 ひよこ。

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第56縁:距離と少女と微妙な関係。

 さて、話題の当人である一路は、リーエルの予想に反することなく、自分の部屋で横になっていた。

生体強化レベル2といっても、その数値はGPの事務職でもざらにいるレベルだ。

一応回復力もそれに伴って、強化されてはいるが如何せん蓄積されていたそれまでのダメージが大きい。

流石に吐くというような事はなくなったが。

 

(これプラス専門教科・・・。)

 

 実際はリーエルとの一般教養、通常授業、静竜の基礎訓練と、ほぼ一日中勉強しているのだから、たいしたものではある。

しかし、まだ専門的な学科は始まってはいない。

 

(今のうちに予習しておいた方がいいのかな?)

 

 身動きが出来ないクセにこんな事を思うのだから、真面目にも程がある。

 

「・・・ねぇ?」

 

「?」

 

 今、声をかけらたような・・・空耳?

あぁ、最近疲れてるから、とうとう幻聴のレベルまで達したか、と一路が思うまでに至った時。

 

「アンタさ・・・。」

 

「ん?」

 

 自室の扉が少しだけ開いていて、そこからシアが覗いている。

開いた幅と一路との距離が、シアの男性恐怖症の程を物語っていた。

 

「なんなの?」

 

「何って?」

 

 シアの言っている意味が一路には全く理解出来ない。

 

「そんなになるまで馬鹿正直に訓練して・・・。」

 

 何の意味があるのかと。

流石に真面目にやっている一路に気を遣ってか、言葉の先を濁す。

 

「う~ん・・・でも、訓練なんだから、厳しいのは当たり前かなって・・・。」

 

 地球にいた頃、TV番組でやっていた公務員、挙げるとすれば自衛隊・警察・消防・・・およそ人の命を己の肉体で救う仕事をする職業は、今の自分のような、それこそ実地訓練を含めたらもっとハードなものをやっていた。

日本以外の軍隊なんか、激しく罵られながらの訓練だったと記憶している。

そのイメージがあるから、それと自分には確固たる目的があったから、特に疑問を持つ事はなかった。

寧ろ、生体強化の凄さの方が驚いたくらいだ。

 

「そんなの、生体強化したら苦でもないじゃん。」

 

 確かにシアの言う通りで間違いない。

正しいだろう。

 

「なんだろ・・・元々持っていない能力を後づけで簡単に、他人から貰ってもなぁ・・・。」

 

 楽してズルをしている気分になるのだ。

 

「そんなの、人には能力差があんのは当たり前なんだから。一定以上の成果を出すには必要だし、簡単でしょ?そんな事を言って、大事な時に失敗する方が大問題よ。」

 

 その通りだ。

ただあるから使っているだけ。

確実な任務遂行の為、宇宙空間に適応して生活する為に身体強化するのは当然。

これが宇宙の常識で、一路は地球の常識で抵抗感を持っているに過ぎない。

ちっぽけなプライドとして一蹴されても仕方がないのである。

 

「まぁ・・・うん・・・。」

 

 

 それに一路は知らないのだ。

生体強化と一口に言っても、個体差があって、一定のレベル以上は、強化前の本人の身体能力や精神力の強さに依存する事を。

 

「でも、ほら、少し慣れてきたから・・・。」

 

「慣れてって・・・。」

 

 シアは溜め息をつく。

そして本当はこんな事を聞きたかったわけじゃなかったのになと思い出して。

 

「そんなになるまでして、GPになってどうすんのよ?」

 

「え・・・。」

 

 これには一路が閉口するしかなかった。

GPになって何かを成したいのではなく、成し遂げたい事があり、たまたまGPアカデミーが近道になるだろうと、案内されたのだから。

 

"そんなになってまで頑張るのは、トウカってコの為?"

 

 そう喉まで出掛かって、シアは言葉を飲み込む。

それは赤の他人の自分が聞ける事ではないと・

 

「なりたい自分があるからかな。」

 

 端的にまとめるとそういう事だったんだと、自分の中で今更のように一路は気づく。

 

「いざという時に全力で動ける自分になりたい。」

 

 動いただけではダメなのも、一路はもう体験している。

動いて、且つ自分も大事に。

生き延びてこそ。

 

「動けない事で何かを成し遂げられなかったり、後悔したくないし・・・。」

 

 口に出してみると、すんなりまとまる。

珍しい事もあるもんだ。

そんな新鮮な感覚がある。

 

「たぶん、友達・・・周りの人間、うん、自分自身にも胸を張っていられるようになりたいだけなんだね、きっと。」

 

「・・・随分と欲張りね。」

 

 利己的と取られてもいい。

 

「あは。やっぱりそう思う?」

 

 今までの自分になかったもの。

やはり、一度死んで死後の世界(?)に到達すると、考えや価値観が変わったりするものなんだろうか?

擬似的な生まれ変わりみたいな?

馬鹿馬鹿しいと一路は思うが、そうとしか思えないような決意と頑固さで自分はここに来たのだ。

 

「変わらないよりマシじゃないかな。今だってシアさんの目を見て話せてるし。」

 

 初対面のやり取り以降、一度もこんな風に会話を交わした事はなかった。

普段は常にシアが一方的に観察しているだけなのだ。

しかも、一路には気づかれずに。

だから、一路は現在の状態が嬉しく思えた。

だが、言われた当人のシアは顔を赤らめる。

まるで、男性恐怖症をだという自分を今頃思い出したかのように。

 

「馬鹿ッ!」

 

 そう叫ぶと力強く戸を閉める。

音の激しさにシアの感情が込められているようだった。

一路は思わず目を顰める。

 

「・・・怒らせちゃったかな?」

 

 これを怒らせたという風にとらえる辺りが、一路の特徴というか・・・。

と、閉まった時と同じ勢いで戸が開く。

 

「アンタに荷物!」

 

「だっ?!」

 

 シアが投げた箱状の物体が一路の腹部に直撃する。

荷物と言われたからには、中の物が壊れたら困るので、何とか受け止める事が出来たが、中身の重量がそこそこあった為に相応のダメージを受けて、その場でゴロゴロと転がる。

 

「それと、怒ってないからッ!」

 

 再び勢い良く戸が閉まる。

 

「・・・・・・やっぱり怒ってるじゃん。」

 




次回!笑撃の新展開!!

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