今、少年の前には二つの選択肢が存在していた。
曰く、【開く】か【開かない】か。
何を?
目の前に鎮座している荷物をだ。
宛名欄には、確かに檜山・A・一路となっている。
しかし、ちょっと考えれば解る事なのだが、この地で一路宛に荷物を送る人物にそれこそアテがない。
シャレではなく。
かと言って、地球にいる鷲羽達が送ったとも考えにくい。
第一、ミドルネームをわざわざ記す理由がない。
記さない理由もないのだが。
「・・・かといって、開けないってのも送り主に失礼だしなァ。」
ちなみに、送り主の欄には、"足長お姉さん"と書かれている。
おじさんでも、おばさんでもなく、お姉さんだ。
地球の物語をパクったというなら、地球からの贈り物と考えるのが妥当だが、背の低い鷲羽が足長とは・・・それにちっさいお母さんのがしっくりくる。
何より、自分を自分でお姉さんとか言っちゃう人物というのが、何とも言えない。
だが、開けなければ開けないで現状が変わらないのも事実だ。
(危険物かどうかの検閲くらいしてるよね?)
結局、十数分を費やして悩み、その箱を開ける決意をようやく固めた。
「品物名とか、差出人をきちんと書いてくれたらいいのに・・・。」
とはいえ、一路に何かを届けるという第一目標(?)は達成しているので、差出人にしてみれば問題はないのかも知れない。
恐る恐る箱に手を伸ばし、【開封用拇印】を記載されている箇所に親指を・・・。
「パンパカパーン♪初めまして、おめっとさぁ~ん♪」
「・・・・・・。」
箱の中にはバスケットボールが入っていた。
しかし、ただのバスケットボールではない。
そこには顔がある。
簡略化されたマンガ顔、しかしへのへのもへじよりはちゃんと描かれた。
「って、
バスケットボールが喋っている光景。
普通ならば、驚くに違いないだろう。
「いや、なんていうか、どう反応したらいいのかというか、ここに来るまで十二分に驚き過ぎてきたから、麻痺してるっていうか・・・。」
「何や、ワシ、無駄な労力
球体から細長い棒状の手足が生えて、あ、よいしょっと梱包財のダンボールから抜け出て来る。
「ワシの名はナビゲートロボット最新型。形式名称を略してNBR2D2。ヨロシク。」
略した方が字数が長くないだろうかと突っ込みたいのをぐっと堪えて。
「ナビゲートロボットっていうと、雪之丞さんみたいな?」
一路は聞いた単語で思い浮かんだ美星の宇宙船にいたロボットを思い出す。
「ん?ありゃ、宇宙船内のみやな。ワシの場合は、もっと坊の生活全般のサポートや。」
「全般?」
「例えば、この星の常識とか、そういうんを含めて日常生活をサポートするタイプや。坊、この星の事とか知らんやろ?」
「まぁ、確かに。」
つまり、そういう事に対してのアドバイザー的な立位置なのだろうと理解する。
「それにしても、一体誰が君を?」
そして、何故に関西弁?
「GPアカデミーに入るモンの特典の一つやと思うとけ。」
「なんか、至れり尽くせりだなぁ、GPアカデミー。」
「せやろ?まぁ、何でも聞いてくれりゃいいさかい、普段は話相手程度くらいに考えておったらえぇ。ワシも好きに動いとるしな。」
「うん。よろしくね、NB。」
略称を更に通称に変換。
奇しくもある意味で正しいと言えなくはない呼び方だった。
果たして、NBが教えられる常識とは・・・。
解っている者には解っているだろう。
アレである、ア・レ・。
「しっかしなぁ、坊。いっくら慣れて達観しとるからって、不用心過ぎやないか?」
「うん?」
「ワシが、坊に危害を加えるモンやったら、どないすんねん。」
「あぁ、だってNB?さっき、僕が説明しなくても、雪之丞さん事を知ってたし、僕がこの星の常識の勉強が必要なくらい疎いってのも知ってたから。両方知っている人って、多分、このアカデミーの中じゃ、先生方くらいじゃないかな。」
それ以外の選択肢だと、芽衣を襲った側の人間しか自分を害する者はいないはずだ。
情報を得るという意味では、それはそれでアリだとは思うが、だが、その可能性は限りなく低い。
自分を襲って得する理由がないからだ。
「それに僕を襲うって何のメリットがあるの?全くないと思うけど?」
(あら、意外と頭が回るのねぇ。半分は直感ってトコかしら?)
NBのカメラアイを通して、一路の言動を観察していた人物は考える。
「なるほどな。」
「あのね、NB?」
「何や?」
「君が来たってコトは僕はここを出て寮に移るってコトなのかな?だって、君がこれからは日常生活をサポートしてくれるんでしょう?」
「そうやな、そうなるな。坊は生体強化も終わったんやろ?」
「うん。」
「なら、そうなるな。」
「そっか・・・。」
途端に俯く一路にNBは首を傾げた。
「どないした?」
NBに問い返されて、視線を落としていた一路は苦笑する。
苦笑するだけなら、まだ大丈夫だと思いながら。
「うぅん。授業を受けて、食べて、寝てばかりの繰り返しの生活だった割には楽しかったし・・・寂しいなって。」
心残りはある。
もっとシアと仲良くなりたかったし、リーエルにももっと色んな事を教えて欲しかった。
勿論、リーエルとだってもっと仲良く・・・。
「何言うてんねん。寮に移ったら移ったで、もっとオモロイ事あるっちゅーねん!まだまだこれからや。これからウハウハだったり、ハァハァだったり出来るんやで?」
「うん、ありがとうNB。」
「カマへんて。」
「あ、でも、ハァハァは変態さんぽくてヤだなぁ。」
「ほな、ムフフがえぇか?ワシも寧ろソッチが望むところや!」
「それはそれで違う意味で変態さんだなぁ。」
こうして一人と一体は笑うのであった。
書くのが私なせいなのか、一路君がぼややんなせいなのか、はたまた新型機だからなのか、マイルドな【NBR2D2カッコワライ。】これでいつでもボケとツッコミが展開可能にっ!