雪野ウサギさんの天地も面白いよ~と、言ってみるてすつ。
「一路、朝・・・よ・・・。」
翌朝、熟睡していた一路は、少々寝過ごしてしまった。
そんな一路を気遣ってか、シアが起こしに部屋に顔を出したのだが・・・。
そこには添い寝したリーエルの胸に顔を埋めて眠っている一路の姿があって。
「ふっ、不潔ッ!!」
「ぬぉっっ?!」
手近にあったボール・・・ではなく、NBを全力で一路に向かって蹴り込んだ。
「ふがっ!!」
鳩尾辺りにめり込むNBに一路は息を吐いてもんどりうつ。
それは勿論、蹴られた方のNBにも相当なダメージを及ぼしている。
「あ、あ・・・アカン、ワシ、変な道に目覚めてまいそうや・・・。」
ガクガクと痙攣するNBと悶絶する一路。
そんなこんな一悶着があって後。
「パーティ?」
朝食の最中、一路がそんなすっとんきょうな声を上げたのは、リーエルからの提案があったからだ。
「そう。一路クンが一人立ち?アカデミーの卒業は全然先だけど、生体強化も終えて、無事男子寮に行ける事の・・・ん~、歓送会というヤツです。
一路の生体強化に関しての真実は伏せられたまま、リーエルはそう述べる。
「本当は、数ヶ月・・・いえ、数週間は必要でしたが、NBちゃんが来ましたからネ。」
「まー、ワシはその為に来たさかいに。」
何故かちゃっかりと食卓に座して、メザシ(のように一路には見える)をひょいとつまんで、体内に送り込む。
「そっか・・・リーエルさん、わざわざありがとございます。」
丁寧に礼を述べ、そしてシアを見る。
「な、何よ?」
その視線を受け続けるのに堪らなくなってシアが声を上げた。
彼女から見て、一路の視線は思いの他、穏やかで・・・。
「うぅん・・・その、寂しくなるなって。」
なんだかんだで、一路は人好きなのだ。
しかし、そうストレートに言われた方の当人、シアの方はというと、本当に堪ったものではない、ないのだ。
「べ、別に私は何もしてないわよ。それに何?ここを出ても寮生活があるのよ?そんなんで大丈夫なの?」
「あはは、うん、まぁ、同室になる人達は良い人達だけど・・・でも・・・。」
「別に来ればいいじゃない。外出許可が出る休みもあるんでしょ?別に"死に別れる"わけじゃないんだし。」
「え?あ、うん、そうだね・・・。」
"死に別れる"という言葉が胸にチクリと刺さる。
ジンジンと広がる痛みは、折角かさぶたになりかけていたソレを刺激する。
(もし、あの時、僕が死んでたら・・・。)
こんな痛みを芽衣は感じただろうか?
重ねた月日が短くとも、そう想ってくれただろうか?
それは嬉しい反面、申し訳なくもあった。
今更ながら、自分のとった行動がどれだけ浅慮だったのかが理解出来る。
しかし、あの時は身体が自然に動いたし、あれ以外の方法が思いつかなかった。
でなければ、自分ではなく芽衣の方が犠牲になっていただろう。
(だからこそなんだ・・・。)
だから、一路は強さが欲しいと思う。
しなやかで柔軟な力が。
まずは自分の身体を、そしていずれは周り人達を守れるだけの強さを。
そういう意味で静竜のしごきは耐えられた。
困った事に、本当に周りの人間からしてみれば、困った事に一路は心配される程、静竜に対して悪印象を持ってはいない。
そのうえ、何故か教師として、敬っている節がある。
「それじゃあ、同部屋のお友達も呼んで・・・。」
「いえ、今回は、3人で・・・あ、NBもいるから4人?」
一路はリーエルのその言葉に再びシアを見た。
傍では、NBがパーティーの面子に自分が入っている事に満足そうに頷いている。
同室予定の彼等には悪いが、呼ぶと女性より男性の方が多くなってしまう。
男性にあまり良い感情を持っていないシアにとって、それは精神的によろしくないと思ったからだ。
勿論、彼女のそれはいずれ克服しなければならない事なのだろうが、それはそれ、これはこれ。
何もパーティーにそんな試練的なハプニングを望んではいない。
「そう?そうね、元々この面子での生活だったんだし、それもいいかも知れないですね。ね、シアちゃん?」
意味ありげに投げかけられるリーエルの視線と声は、一路の意図するものを理解しているとしか思えないものだ。
一路にとっては、これは援護射撃として非常に手っ取り早くて良い。
「別に私は最初から反対してないわよ。」
「じゃ、決まりですね♪」
自分の行動を素直に省みて反省出来るというのは、若者にとっては美点だと私は思うのですよ。