って、秋は祝日多いねんっ!
「僕?僕に頼み事?」
何時もの静竜の授業の後、これまた何時ものように大の字で倒れている一路の顔を覗き込んで来たのは照輝とプーの二人だった。
「そそ。」
「一路氏は生体強化を終えたと聞いたでゴザル。」
「うん。そうだけど?」
そのお陰で、随分授業が楽になった。
現在は、以前を更に上回る課題を出されてはいるが、こういして倒れ込む事はあっても、吐いたり全く動けなくなるという事もなくなった。
それと同時に周囲の級友達の見る目も変わった気がする。
「生体強化の
「うん?」
パンっと手を合わせる照輝に首を傾げていると。
「ちょっとした"お祭り"に参加してみないかい?」
「で、了承しちゃったワケね?」
「あ、はい。折角だし。」
「う~ん、お友達に溶け込む事は良い事だけれど、無理したり怪我したりしないようにね。」
昼間あった事のあらましをリーエルに報告すると、反対はしないものの、やんわりと釘を刺されてしまった。
一路もリーエルの言葉には賛成だが、プー達の話を聞く限り、そんな危険な事には思えなかった。
だからこそ一路も了解したのだが。
「全くほいほい返事して困っても知らないんだから・・・。」
話の流れを聞いていたシアは完全に呆れている。
だが、そんな事よりももっと呆れたのは・・・。
「・・・で、なんで理事長がいんのよ?」
そこには皿を片手にもう片方の手でワイングラスを飲み干すアイリの姿があった。
「ん?パーティーなんでしょ?一路クンの門出を祝っての。なら、参加しなきゃ損じゃない。」
何が損なのか誰にも解らないまま、アイリは次から次へとテーブルに並べられた豪勢な料理を平らげていく。
「全く・・・ほら、アンタもぼさっとしてないで食べるの。自分の為のパーティーなんだから食べなさい。」
有無も言わせない圧力で、アイリに負けない速さで料理を一路の更に盛っていく。
もう皿の上に投げ込んでいると言ってもよい。
「くぁ~っ!小娘の分際で!」
負けじとアイリ。
「いや、シアさん、僕、こんなには・・・。」
「男なら食べる。」
もう無茶苦茶である。
「チッ。料理がダメなら、酒だわ。コラッ、リーエル、酒を注げ~。」
もう既に出来上がってるのじゃないだろうかという勢いで、アイリはリーエルを捕まえる。
「うわぁ、パワハラ。」
シアは絶句というより呆れていた。
(でも、賑やかな方がパーティーって気がするもんね。)
もさもさと、シアによって大盛りにされた料理を咀嚼してやっつけながら、一路は微笑む。
柾木家でも思ったが、やはり大勢の賑やかな食卓の雰囲気は大好きなのである。
「宇宙か・・・。」
そのまま食事を終えた一路が見上げた星空は、見慣れた星座はなくとも、一路の知っている瞬きのままだ。
母と一緒に見上げた空から、流れた月日と体験は鮮烈なものであったが、こうしていると何ら変わってないような気がしているから不思議だ。
「なに一人で黄昏てんのよ?」
「あぁ、シアさん。リーエルさん達は?」
声で相手が誰だか解った一路は、視線を星空から外す事なく応える。
シアはそんな一路の態度に怒った素振りもなく、彼が立っているテラスに出ると、静かに一路の横に並ぶ。
二人の間には、微妙な距離が空いているのは仕方がない事だと解っているので、互いに何も言わない。
ただ、その距離は今までで一番近い。
「二人共も酔い潰れてリビングで寝てるわ。」
全く以ってダラしない大人達だ。
いや、リーエルは被害者であって、大人気ないのはアイリだけ。
「そっか。」
「ねぇ、どうして急にあんな事を言い出したの?」
あんな事というのが、照輝達との事だと解って、一路は首を傾げる。
「多分、きっと変わったからじゃないかな。僕は周りから期待されてなかったし、大人達に期待もしてなくて・・・うん、きっと世界に自分の味方っていうか、辛い事や苦しい事を分かち合える人なんていないと思ってたんだな。」
驚いた事に、昔の話をしても前より苦しくなくなっている自分がいた。
「あんなに努力しているのに?」
吐いても倒れても。
生体強化すらしていないのに。
「それは多分、応えたいからだよ。完全になくしてしまったモノはどうにもならないけれど、そうじゃないものは何とか出来るかも知れない。なら、やるしかないんだって・・・後悔を少しでも減らす為に。」
結果はそれについてくる。
それだけを信じて。
一路は地球を出る時に鷲羽が言っていた言葉を思い出す。
こうしてシアに喋る事で、少し整理がついた気がした。
「ここに来たのも、多分、自分を増やす為なんだと思う。」
「自分を増やす?」
一路はシアの問いに自分の胸を掴んで頷く。
「結局、欠けたり、罅が入った心には誰かが、何かが詰まるしかないって事なのかな。少しずつ、自分の中に色んな人が入って来て、隙間を埋めてくれたり、心の中に住んで、心を占めてく・・・。」
それが友達、仲間、恋人・・・愛する人を増やすという意味の本質なのかも知れないと。
勿論、灯華の存在、優しさは一路の心の中にある。
「そう・・・私もそういう人が増えていくのかな・・・。私ね、ずっと施設の中にいたの。毎日、沢山の大人達に囲まれて、色んなテストを受けさせられて・・・だからかな、男の人が怖いの。」
(・・・違う。)
何かが違う。
一路が抱いた印象、それは何かが決定的に違うんじゃないだろうかという事だった。
もう誰かこのババアを何とかしてくれ・・・。